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今年で100周年を迎える イギリスの障害競走

  • 2024年03月13日(水) 12時00分

開催最終日のG1・ゴールドCの見どころを紹介


 イギリスでは現在、障害シーズンのハイライトとなる「チェルトナム・フェスティバル」が進行中(3月12日〜15日)だ。今回のこのコラムでは、開催最終日のメイン競走に組まれた、スティープルチェイス3マイル路線の大一番、G1ゴールドC(芝26F70y)の見どころをご紹介したい。

 1924年に第1回が行われたG1ゴールドCは、今年で創設100年を迎えている。

 その記念の年に、人気の中心となっているのが、昨年のこのレースを7馬身差で制しているギャロパンデシャン(セン8、父ティモス)で、同馬による連覇が達成されるかどうかが、最大の注目点となっている。

 アイルランドの伯楽W.マリンズが管理するギャロパンデシャンは、フランス産馬だ。祖国でハードルデビューし、1戦1勝の成績を残した後、馬主がかわってマリンズ厩舎に移籍している。

 この段階でギャロパンデシャンを購入し、新たな馬主となったオードリー・ターリーさんは、ダブリンを拠点に展開したレンタカービジネスで大成功したターリー家の、現在の当主であるグレッグ・ターリーさんの夫人だ。レンタカービジネスをオンライン化して急成長した「カートローラー社」を、ターリー家は2014年に売却。ここで手にした莫大な資金をもとに、ターリー家が新たに仕掛けたのがバイオエタノール製造業で、かれらの「クロンバイオ・グループ」もまた、時流に乗って急拡大を続けた。

 競走馬の所有を始めたのは2015年で、預託先はもっぱらマリンズ厩舎だった。17年10月、セイヤーでG3ジョーマックノービスハードル(芝16F)を制し、重賞初制覇。さらに20年3月、バーニングビクトリー(牝4)でチェルトナム・フェスティバルのG1JCBトライアンフハードル(芝16F179y)を制し、G1初制覇を果した。

 その2カ月後の20年5月、オートゥイユの条件戦(芝3600m)でデビューし、勝利を飾ったのがギャロパンデシャンで、その素質を見抜いたマリンズ師がターナー夫妻に購買を勧め、夫妻が応諾してギャロパンデシャンはマリンズ師のもとに来ることになったのである。

 移籍初年度となった20/21年は、ハードルを5戦。いきなり3連敗を喫したが、4戦目となったチェルトナムのハンデ戦(芝20F56y)で初勝利をあげると、マリンズ師はギャロパンデシャンの次走に、パンチェスタウンのG1アイリッシュミラーノービスハードル(芝24F)を選択。いきなりの相手強化だったが、キャロパンデシャンはここを12馬身差で快勝し、G1で重賞初制覇をマークした。21/22年から、スティープルチェイスに転進。このシーズンは4戦し、18馬身差で制したフェアリーハウスのG1ゴールドCノービスチェイス(芝20F)など、2つのG1を含む3勝をマークした。

 ただし、オッズ1.83倍の1番人気に推されたチェルトナム・フェスティバルのG1ゴールデンミラーノービスチェイス(芝19F168y)では、2番手以下に10馬身以上の大差をつけて迎えた最終障害で、飛越に失敗して落馬に終るという、大失敗をやらかしている。22/23年も4戦。この年のチェルトナム・フェスティバルでは、G1ゴールドC(芝26F70y)を7馬身差で快勝。これを含めて3つのG1を制覇し、この路線の頂点に立った。

 こうして迎えた今季、初戦となったパンチェスタウンのG1ジョンダーカンメモリアルパンチェスタウンチェイス(芝19F150y)こそ3着に敗れたが、続くレパーズタウンのG1サヴィルズチェイス(芝24F100y)を23馬身差で制して今季初勝利。さらに、同じくレパーズタウンを舞台としたダブリンフェスティバル初日(2月3日)のG1愛ゴールドC(芝24F)を4.1/2馬身差で制し、ハードル時代も含めて自身8度目のG1制覇を果している。

 史上8頭目となるG1ゴールドC連覇を目指すギャロパンデシャンに、ブックメーカー各社は2.1倍から2.25倍のオッズを掲げている。

 これに続いて、各社が5倍から6倍のオッズを提示し2番人気としているのが、これもアイルランド調教馬のファスタースロー(セン8、父サンデサン)だ。

 同馬もフランス産馬で、祖国で3戦2勝の成績を残した後、20/21年シーズンからキルデア郡のダンマーレイに拠点を置くマーティン・ブラッシル厩舎に在籍している。ハードルを5戦し未勝利に終わった後、22/23年からスティープルチェイスに転進。フランス時代にスティープルチェイスでの勝ち星があったため、ノービスチェイサー相手ではなく、いきなり経験馬たちとの対戦となった中、シーズン最終戦となったG1パンチェスタウンゴールドC(芝24F30y)で、ギャロパンデシャンを2着に退けて優勝するという大金星をあげ、G1で重賞初制覇を果たしていた。

 今季初戦となったG1ジョンダーカンメモリアルパンチェスタウンチェイスで、再びギャロパンデシャンを3着に退けて優勝し、2度目のG1制覇を達成。前走G1愛ゴールドCは、ギャロパンデシャンに4.1/2馬身水をあけられる2着だった。

 続いて、オッズ5.5倍から7.5倍の3番人気に推されているのが、イギリスの伯楽ニッキー・ヘンダーソンが手掛ける古豪シシュキン(セン10、父ショロコフ)である。

 アイルランド産馬で、ポイントトゥポイント競走を2戦、ナショナルハントフラットを1戦した後、19/20年にハードルデビュー。このシーズンは4戦し、G1シュプリームノービスハードル(芝16F87y)を含む3勝を挙げた後、20/21年からスティープルチェイスに転進した。

 すると、チェルトナム・フェスティバルのG1アークルチャレンジトロフィー(芝15F199y)を12馬身差で制したのをはじめ、3つのG1を含む破竹の7連勝をマーク。スティープルチェイス界のニューヒーローとして、脚光を浴びる存在となった。

 しかし、22年のチェルトナム・フェスティバルで、G1クイーンマザーチャンピオンチェイス(芝15F199y)に出走した同馬は、8号障害飛越後に競走を中止し、連勝がストップした。

 22/23年は4戦し、初めて3マイル戦に挑んだG1エイントリーボウルチェイス(芝24F210y)を含めて、2つのG1を制覇。依然として路線の最前線に踏みとどまった。

 こうして迎えた今季、序盤のシシュキンはおおいに苦しんだ。初戦となったアスコットのG2・1965チェイス(芝21F8y)で、発走地点で膠着してしまい、レースに参加することなく競走除外となった。

 さらに2戦目となった、12月26日にケンプトンで行われたG1キングジョージ6世チェイス(芝24F)では、最後から2つめの17号障害で飛越に失敗して落馬。年が明けると10歳になることもあり、心身両面の衰えが懸念された。

 だが、2月10日にニューバリーで行われたG2デンマンチェイス(芝23F86y)では、2着以下に4.1/4馬身差をつけて快勝。今季3戦目にして今季の初勝利をあげている。

 G1ゴールドCを含めた、チェルトナム・フェスティバルの主要競走は、だいぶ先になるが、4月後半にグリーンチャンネルで放送される予定だ。レースの模様はもちろん、競馬メディア各社のサイトでもご覧いただけることになっている。チェルトナム競馬場を舞台とした障害競馬の祭典を、日本の皆様もぜひお楽しみいただきたい。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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