今週月曜日、3月18日の午後2時から、丸の内の東京會舘で、作家・伊集院静さんのお別れの会が行われた。
直木賞・芥川賞の授賞式と同じ会場で、伊集院さんが生前、何回、何十回と訪れたゆかりの場所だった。
ダビンチの「最後の晩餐」を背にした伊集院静氏。7年前、イタリアにて
主催者によると400人ほどが参加したという。発起人には講談社、文芸春秋、集英社などの出版社や朝毎読など新聞各社の代表取締役が名を連ね、エッセイストの阿川佐和子さんらが進行役をつとめた。
作家の浅田次郎さん、大沢在昌さん、北方謙三さん、桐野夏生さん、タレントのみのもんたさん、和田アキ子さん、近藤真彦さん、加藤シゲアキさん、歌手の大友康平さん、小泉進次郎衆議院議員、武豊騎手ら、伊集院さんと親交のあった人々が集まった。
出版・芸能・スポーツ関係者ら400人ほどが集まった。会の終了後、午後4時から一般献花を受け付けた
供花の名札。長嶋茂雄氏、王貞治氏、松井秀喜氏、松任谷由実氏、竹内まりや氏、井上陽水氏、本宮ひろ志氏らの名も
私も30分ほど前に車で着いていたのだが、車寄せが黒塗りのハイヤーなどで溢れていて、なかなか駐車場にたどり着けなかった。特別な人のための、特別な日であることが、それだけでわかった。
主催者代表らにつづき、「戦友」と言う桐野夏生さんが前に出て、伊集院さんとの思い出を語った。次に呼ばれたのは武騎手だった。
「伊集院さんにはいろいろなことを教えてもらいました。人との接し方、挨拶、言葉づかい、お店でのマナー、お酒の飲み方、競輪、競輪の当て方は教えてもらえませんでしたけど。人の結婚式には無理に行かなくていい、だいたい別れるから、と」
そう話し、会場の笑いを誘っていた。大沢在昌さんの挨拶もそうだったように、伊集院さんとのエピソードには明るい笑いがついて回り、一緒にいるだけで楽しく、幸せな気分になれる人だったことが、あらためて感じられた。本当に、面白くて、カッコよく、優しくて、真似をしたくなる人だった。
伊集院氏夫妻が結婚式の媒酌人をつとめた武豊騎手
小泉進次郎さんの話も興味深かった。彼は、2016年から伊集院さんと、伊集院さんの定宿だった山の上ホテルで、定期的に2人だけの勉強会をつづけていたという。課題図書について小泉さんが感想を言うと、「君、そんな日本語はない」と叱られたとのこと。
私も一度だけだが、山の上ホテルで、私が書いた小説について「言葉のスパーリング」をしてもらったことがあった。作家が地の文で踏み込むべきではない領域や、使うべき言葉の手触りなどについて学んだことは、今も大切にしている。
小泉さんがずっと守っている伊集院さんの教えのひとつに、「初めての国を訪ねたら、まず、その国のために尽くした人のお墓参りをしなさい」というものがあるという。なるほど、それがその国で生きる人々への理解にもつながるし、政治家の場合は姿勢を示すことにもなる。これは、万人に当てはまりそうでもあるが、小泉さん個人への教えととらえるべきなのかもしれない。
「先生に多くの教えをいただきました」と小泉進次郎氏
テレビで小泉さんの「地頭(じあたま)がよくない」と言った元政治家の女性がいるようだが、彼の父である小泉純一郎さんと伊集院さんのエピソードを実に面白く紹介するなど、とても頭のいい人だ。少なくとも私よりは絶対に「地頭」がいい。その女性がどんな評価基準を持っているのか知らないし、興味もないが、小泉さんが表に出さずにいた努力などに思いを及ばせる想像力に欠けているのだろう。まあ、伊集院さんと何年も一対一でやり合うことのできた人なのだから、中傷のひとつやふたつは屁でもないか。私はすっかり小泉さんのファンになってしまった。
この会で、伊集院さんにお礼とお別れを言うことができて、ようやく少し気持ちに区切りがついた。
会の終了後、控室に博子夫人(俳優の篠ひろ子さん)を訪ねてご挨拶した。5年前に銀座で行われた「大人の流儀 伊集院静展」でお会いしたときよりお元気そうで安心した。この会があるから気が張っていたとのこと。あとで疲れが出ないよう、ゆっくり休んでほしい。