単勝オッズ4.0倍のアドマイヤベルが優勝(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
過去10年の優勝馬はいずれも単勝4番人気以内だった
AIマスターM(以下、M) 先週はフローラSが行われ、単勝オッズ4.0倍(2番人気)のアドマイヤベルが優勝を果たしました。
伊吹 お見事と言うほかありません。五分のスタートからスッと好位につけ、道中は積極的に先行した各馬のすぐ後ろを追走。4コーナーを周り切ったところでスムーズに外へ出し、難なく進路を確保しています。その後は残り200m地点を過ぎたあたりですぐ内にいたエルフストラック(6着)を突き放し、単独先頭に。粘り込みを図ったラヴァンダ(2着)、クリスマスパレード(4着)、外から伸びてきたカニキュルら(3着)らに対してセーフティリードを保ったまま入線しました。潜在能力の高さを感じさせる内容でしたし、横綱相撲でこの馬の持ち味を引き出した横山武史騎手の手綱捌きもさすが。完勝と言って良いでしょう。
M このアドマイヤベルは、前回の当コラムでAiエスケープが特別登録時点の注目馬として挙げていた馬です。
伊吹 こちらもお見事でしたね。今回が重賞初挑戦で、格上と言えるような馬も何頭か出走していましたから、半信半疑のまま買っていた方や、うっかり評価を下げてしまった方も少なくないはず。そんな中で的確に正解を選んだわけですし、素晴らしい予想だったと思います。今週からまたビッグレースが立て続けに施行されるので、好調をキープしているのは心強い限り。読者の皆さんも引き続きご注目ください。
M アドマイヤベルはオークスへの優先出走権を獲得。順調なら本番でもそれなりの人気を集めることになるのではないでしょうか。
伊吹 もともと半姉に2017年のヴィクトリアMを勝ったアドマイヤリードがいる良血馬。父のスワーヴリチャードが今ほど高く評価されていなかったとはいえ、1歳時のセレクトセールにおける購買価格が3520万円どまりだったのはちょっと意外ですね。ただ、こうしてクラシックシーズン中に素質が開花したわけですし、東京のレースを走り慣れている点は、オークスにおいて大きなアドバンテージとなるはず。また手頃なオッズがつくようであれば、積極的に狙っていくべきかもしれません。
M 今週の日曜京都メインレースは、春の古馬チャンピオン決定戦として親しまれてきた伝統の大一番、天皇賞(春)。昨年は単勝オッズ4.3倍(2番人気)のジャスティンパレスが優勝を果たしました。なお、その2023年は単勝オッズ22.5倍(5番人気)のディープボンドが2着に、同じく単勝オッズ22.5倍(6番人気)のシルヴァーソニックが3着に食い込み、3連単の配当は6万5060円。今年も伏兵の台頭を警戒しておくべきでしょうか?
伊吹 3連単の配当が6万円を超えたのは2016年(24万2730円)以来で、2017-2023年の平均配当は3万円弱。人気薄の馬が上位に食い込んだ例もあるとはいえ、近年は堅めの決着が続いています。
M 上位人気グループの馬がまずまず優秀な好走率をマークしている一方、単勝7番人気以下の馬は優勝例がなく、3着内率も5.7%どまり。大きな波乱は期待しづらいレースと見ておいた方が良いかもしれませんね。
伊吹 より実態に即した区切り方をすると、単勝4番人気以内の馬は2014年以降[10-5-6-19](3着内率52.5%)、単勝5-13番人気の馬は2014年以降[0-5-4-81](3着内率10.0%)、単勝14番人気以下の馬は2014年以降[0-0-0-36](3着内率0.0%)となっていました。伏兵を狙ったり、人気の中心となっている馬をあえて軽視したりしても良いのですが、上位人気馬が総崩れとなる可能性は低いようなので、そのあたりを意識しながら買い目を組み立てるべきでしょう。
M そんな天皇賞(春)でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、サヴォーナです。
伊吹 面白いところを狙ってきましたね。それなりに実績のある馬ですが、上位人気グループの一角を占めるということはなさそう。
M サヴォーナは4歳馬。昨年の神戸新聞杯と今年の日経新春杯で2着に食い込んでいるものの、まだ重賞を制した経験はありません。さらに、前走の阪神大賞典は勝ったテーオーロイヤルから1.3秒差の6着どまり。今回は人気薄の立場で臨むことになるのではないかと思います。
伊吹 このくらいの伏兵を連軸に据えて、相手を上位人気グループの各馬に絞り込むのもひとつの手ですよね。Aiエスケープが絶好の狙い目と判断したサヴォーナの戦績と比較しながら、レースの傾向を見ていきましょう。
M サヴォーナは重賞未勝利ですが、GIIで2着となったことがあるうえ、昨年の菊花賞でも5着に健闘している馬。実績面の評価に悩んでいる方が多いかもしれません。
伊吹 天皇賞(春)は格の高いレースを勝ち切ったことがある馬に注目したい一戦。2017年以降の3着以内馬21頭中18頭は“前年以降の、JRAの、GI・GIIのレース”において“着順が1着、かつ4コーナー通過順が7番手以内”となった経験のある馬でした。
M はっきりと明暗が分かれていますね。
伊吹 なお、この経験がなかったにもかかわらず3着以内となった3頭のうち2頭は、前年の有馬記念において5着以内となった経験があった馬。古馬中長距離路線の王道を歩んできたような馬でない限り、GIIIやオープン特別、条件クラスのレースしか勝ったことがない馬は疑ってかかるべきでしょう。
M なるほど。サヴォーナにとってはやや気掛かりな傾向です。
伊吹 あとは直近のパフォーマンスも素直に評価した方が良さそう。同じく2017年以降の3着以内馬21頭中17頭は、前走の着順が1着、もしくは前走の1位入線馬とのタイム差が0.2秒以内でした。
M 大敗直後の馬は強調できませんね。
伊吹 ちなみに、前走の着順が2着以下、かつ前走の1位入線馬とのタイム差が0.3秒以上、かつ前走の条件がGI以外だった馬は2017年以降[0-1-1-60](3着内率3.2%)。前走好走馬と、ビッグレースからの直行組を重視するべきだと思います。
M 先程も触れた通り、サヴォーナは前走の阪神大賞典で勝ったテーオーロイヤルから1.3秒差の6着に敗れている馬。残念ながら、この点は不安要素のひとつですね。
伊吹 さらに、同じく2017年以降の3着以内馬21頭中19頭は、前走のコースが国内、かつ前走の4コーナー通過順が6番手以内でした。
M 先行力が高くない馬は過信禁物、と。
伊吹 サヴォーナは前走の4コーナー通過順こそ7番手でしたが、それ以前は先行力の高さを活かすような競馬をしていた馬。悩ましいところではあるものの、厳密に言えばこの条件にも引っ掛かっているわけで、相応に扱うべきでしょう。
M レースの傾向だけを見るならば、強調材料に乏しい一頭と言えます。
伊吹 ただ、これだけマイナス材料があるにもかかわらず、私は天皇賞(春)の一週前予想を終えた時点で「できれば無印にしたくないな」と思ったんですよね。前走の阪神大賞典は、馬場のコンディションや展開が向かなかった印象。あの一戦をもって見限るのは早計かもしれません。波に乗っているAiエスケープが高く評価しているわけですし、実際のオッズも踏まえたうえでじっくり取捨を検討します。