▲2強の構図となるテーオーロイヤル(撮影:下野雄規)とドゥレッツァ(c)netkeiba
競馬アナライザーのMahmoud氏が、独自計測データなどから今年の天皇賞(春)を徹底解説。
淀の舞台で行われる最長距離GIを前に、「距離と馬体重の相関関係データ」や「距離適性に影響を与える“ミオスタチン遺伝子”」を用いて有力馬を斬ります──。
「3頭の勝負になる」と述べるMahmoud氏が期待する、逆転の可能性がある馬とは?
※本編に掲載される個別ラップタイムや平均完歩ピッチ、ミオスタチン遺伝子(一部)などは、公式発表されたデータではなく、Mahmoud氏が独自に計測/推測しているデータであることを予めご了承ください。
(構成・文:Mahmoud)
3200m戦のスピードレンジ
JRAのGIレースの中では最長距離となる京都競馬場芝外回り3200m戦で行われる天皇賞(春)。施行回数の多い中距離戦等とはどのように質が異なるのかを簡単に整理してみましょう。芝1200、1600、2000、2400、3200mの日本レコードにおける200m平均ラップタイムを基点として作成した推定レコード200m平均ラップタイムのグラフをご覧ください。
▲各距離のレコードタイムを200m平均で割り出したラップタイム(作成:Mahmoud)
2023年天皇賞(秋)でイクイノックスがマークした200mの平均ラップタイムは11.52。2018年ジャパンカップでのアーモンドアイは11.72。そして2017年天皇賞(春)でのキタサンブラックは12.03。3200m戦というのは200mの平均ラップタイムが2400m戦より0.31秒、2000m戦より0.51秒遅い戦いとなります。
端的に言えば遅いスピードで長い時間走るのを得意としている馬が主役となるレースなのです。
距離と馬体重の相関関係
僅かな値の差となりますが施行距離と馬体重の相関関係を見ていきたいと思います。芝のレースを完走した競走馬を4つの距離カテゴリーに分け算出した馬体重平均値の表です。1986年から10年毎にまとめ、直近のデータは2015年から2024年4月14日までとなっています。
▲注目すべきは1番右の列。完走馬の平均体重から1位入線馬の平均体重を引いた値で、高いほど大型馬の優位性を表す(作成:Mahmoud)
距離が伸びるにつれ完走馬の馬体重平均値は重くなっています。牡馬、牝馬別で集計してもこの傾向は同じです。そして1位入線馬の馬体重平均値は完走馬より重く大型馬の優位性が見て取れますが、距離が伸びるにしたがって大型馬の優位性は少なくなり、特に2500〜3600mではその優位性はごく僅かとなっています。
距離適性に影響を与える“ミオスタチン遺伝子”
ミオスタチン遺伝子をご存知の方は多くいらっしゃると思います。ミオスタチンとは筋細胞の増殖分化を抑制する物質であり、ミオスタチン遺伝子C型は筋肉が付きやすくT型はその逆。父母から一対ずつ引き継ぐのでC/C、C/T、T/Tといった3種類の遺伝子型が競走馬には存在します。
C/C型は筋力で勝負するタイプなので短距離型、T/T型は筋力が強くなりにくいので長距離型、C/T型はその中間層。
私なりに言い換えると筋肉量が多いC/C型はそのパワーを生かしてピッチを速めたりストライドを伸ばしたりしてスピードを高めることができますが、筋力を多く使うとそれ相応に酸素消費量が増大し心肺機能の負担が大きくなります。エンジンを搭載した車で例えると燃費が悪く走行距離が短くなる方向性にあります。
逆にT/T型は筋力が弱くスピードを高めることが苦手ですが、その分酸素消費量は少なく済み燃費が良く走行距離が長くなります。そして筋肉は重いですから傾向としてC/C型は馬体重が重くT/T型は軽くなりやすく、一つ前の段落の「施行距離と馬体重の相関関係」で述べた「距離が伸びるにしたがって大型馬の優位性は少なくなる」という部分はこのミオスタチン遺伝子の型の違いが影響しているのではないかと思うわけです。
「長距離型に当てはまるのは」ミオスタチン遺伝子T/T型を探そう
天皇賞(春)の登録馬の中で馬体重が軽い馬は何頭かいますが、私がおそらくT/T型ではないかと見ているのは