▲NHKマイルCに出走予定のボンドガールを管理する手塚貴久調教師(撮影:下野雄規)
“伝説の新馬戦”、“ボンドガール組”などと称された超ハイレベルな新馬戦を制したボンドガール。あの新馬戦から11か月…ついにGIの舞台に挑戦します。
華々しいデビュー戦勝利のあとは2戦連続2着と勝ち星からは遠ざかり、12月の阪神JFはアクシデントにより出走を回避するなど、悔しい思いもされてきた手塚調教師に今回の意気込みを伺いました。
「すぐに約束を取り付けました」と話す、ニュージーランドT直後の武豊騎手との会話とは…?
(取材・文:和久時秋)
前走レース後の会話「NHKマイルCに使うのなら乗れますよ」
──まず、前走のニュージーランドTを振り返ってください。
手塚 結果は2着でしたけどね。阪神JFを外傷で回避して、その後に1か月間ほど治療に専念する期間がありました。そのブランクの影響がどれくらいあるのか半信半疑な部分もあったのですが、何とか本番の権利は得られましたし、レースも合格点を与えられる内容だったと思っています。
──レースぶりはいかがでしたか。道中は少し力みながら走っているようには見えましたが。
手塚 2走前のサウジアラビアRCでもスローペースで頭を上げるシーンはあったのですが、今回もGIIにしては流れが遅かったので、そういうしぐさは見られましたね。ただ、ジョッキーは「見た目ほど折り合いを欠いているわけではない」との感触を持っていたようなので、そのあたりは本番でも心配しなくていいと思います。
──レース後、武豊騎手とはどのような会話をされたのでしょうか。
手塚 「半年の休み明けにしては十分走っているし、やっぱり力がありますね」という話と、「思いのほかこの馬場(発表は稍重)で少し走りづらそうにしていたので、良馬場の方がいいのかも」という話をしました。加えて、レースが終わった後すぐに「NHKマイルCに使うのなら乗れますよ」とも。それですぐに約束を取り付けました。武くんに続けて乗ってもらえるのは、この子にとってすごくいいことだと思いますよ。
▲前走のニュージーランドTで武豊騎手と初コンビ(ユーザー提供:なっつさん)
──前走は休み明けでしたが、ケガの予後や状態の変化などはありますか。
手塚 この中間も厩舎に置いておき、すこぶる順調に調整できています。ケガはもう全然気にならないですね。年明けに乗り出してからは順調にきていたので、前走を使う前から大丈夫だと思っていました。長期休み明けのガス抜きもできたし、馬自身が伸び伸びと健康体で過ごせている感じがすごくします。
──デビュー当時と比較して、状態は上がっているのでしょうか。
手塚 デビュー戦の体調は良かったのですが、サウジアラビアRC(2着)の時は暑さの影響がありましたし、馬の精神的な部分が少し煮詰まっているような雰囲気があったのです。結果的に回避してしまった阪神JFの前も、イラつくようなしぐさが垣間見られていました。それでもニュージーランドTを使う頃にはそういった部分が影を潜めたというか、良い方向に進んでいる感じがしましたね。もともと一生懸命に走る子なので、調教では前進気勢が旺盛になっていますが、普段のしぐさや角馬場での軽い運動などではストレスを感じている様子はなく、いい雰囲気を保てているのかなとは思っています。
──新馬戦を好内容で勝利し、サウジアラビアRCでは牡馬相手に2着。ボンドガールのどの部分に素質を感じていますか。
手塚 常に一生懸命に走ってくれますし、レースセンスが高く、立ち回りがとても上手なところですね。まだ東京と中山でしか走ってないのですが、どんなコースでも問題なく対応できる子だと思います。武くんは良馬場の方がいいと言っていますけども、私としてはどんな馬場状態でも走れるとは思っていますよ。もちろん良馬場に越したことはないでしょうけどね。牝馬にしては体力があり、食欲もしっかりあるところにも素質を感じています。
▲新馬戦では、のちのアルテミスS勝ち馬チェルヴィニアを相手に完勝(撮影:下野雄規)
──気性が難しそうな印象があるのですが、どのような性格ですか。
手塚 ダイワメジャー産駒らしく、人がまたがって馬場に出ると少しカリカリするような面は出しますが、普段はそんなに手がかかりませんよ。むしろおとなしい方だと思います。昨年の暮れに放馬したのは、まずい要素がたまたま重なってしまったのです。GIの舞台に出せなかったのは本当に申し訳なく思っているのですが、普段はそこまで気性の難しさは見せませんよ。
──ボンドガールの調整で最も重視しているポイントはどのようなところでしょうか。
手塚 走りのリズムでしょうか。速い時計を出せばいいというわけではなく、そこに至るまでの過程や走り方、ストライドの伸びなどを重視しています。それもあって前走の調教ではハミを変える工夫も取り入れました。
──ハミを変えたのはどのような意図があったのでしょうか。
手塚 矯正力の強いハミではなく、乗り手と馬とがお互いに意思疎通をしやすいようなハミにしました。これも調教の時だけで、競馬では普通のリングハミで臨むつもりです。
──1週前追い切りを単走にしたのもそういった工夫でしょうか。
手塚 今回は中3週なので、初めて間隔を詰めて使うローテになるからですね。もうひとつは、前走を使った後にテンションを上げないようにしたかったから。この子の精神的な部分に重きを置いての単走調整です。当週も単走でやる予定です。坂路でやるかコースでやるかは今も考えているところですが。
──デビュー以来初のGI挑戦になります。手塚厩舎もシュネルマイスター(21年)以来となるNHKマイルC制覇に向けて、最後に意気込みをお聞かせください。
手塚 今年のNHKマイルCはすごいメンバーがそろったと思いますし、その中の1頭として挑戦権を得られたのは良かったです。本当はその前にGIを使わなければいけない馬だったのですが、いろんな経緯があって使えず、こちらも反省する部分は多いと思っています。ただ、ようやくGIの舞台でこの子の実力をファンの皆様にお見せできるので、最高のパフォーマンスをできるように一生懸命調整します。ぜひ応援をよろしくお願いします。
▲「最高のパフォーマンスをできるように調整します」(ユーザー提供:いぬくんさん)
(文中敬称略)