単勝オッズ208.6倍(14番人気)のテンハッピーローズが優勝(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
どちらかと言えば上位人気馬の信頼度が高いレース
AIマスターM(以下、M) 先週はヴィクトリアマイルが行われ、単勝オッズ208.6倍(14番人気)のテンハッピーローズが優勝を果たしました。前回の当コラムでAiエスケープが注目馬に指名していた馬ですね。
伊吹 連載史上最大の大仕事をやってのけたと言って良いでしょう。単勝配当の2万860円は、JRA・GIに限ると歴代4位の記録。今後も長く語り継がれるような、歴史的な大波乱決着を見事に予言して見せたわけですから、存分に誇って良いと思いますよ。私自身は正直なところ「さすがに厳しいんじゃないかな……」と見ていたので、反省しなければなりません。私個人のSNSにも「あのコラムで取り上げられていましたね!」というメッセージが届いたくらいですし、読者の皆さんにとってもインパクトのある結果だったはず。Aiエスケープ、ひいてはAI競馬予想の凄みを改めて実感しました。
M テンハッピーローズは今回が重賞初制覇。3走前にオープン特別の朱鷺Sを勝っているとはいえ、重賞では連対を果たした経験すらなかった馬です。
伊吹 ただ、勝ちっぷり自体は堂々たるもので、面食らった方も多かったのではないでしょうか。好スタートを決めた後、行きたい馬を先に行かせる形で一旦は後方へ。そこからまた少しずつポジションを押し上げ、3コーナーを10番手で、4コーナーを8番手で通過しています。ゴール前の直線では、やや離れた大外から先行した各馬に迫り、残り200m地点を過ぎたところで単独先頭に。結局、粘り込みを図ったフィアスプライド(2着)、しぶとく伸びてきたマスクトディーヴァ(3着)、ドゥアイズ(4着)らに1馬身あまりの差をつけて入線しました。大一番で最高のパフォーマンスを見せたテンハッピーローズはもちろん、スムーズなエスコートでこの馬の持ち味を引き出した津村明秀騎手も、お見事と言うほかありません。
M 今後の重賞戦線でも注目が集まりそうです。
伊吹 これまでの距離別成績を見ると、1200mは[1-0-0-0](3着内率100.0%)、1400mは[4-3-1-7](3着内率53.3%)、1600mは[1-2-1-4](3着内率50.0%)。1400mのレースを中心に使われてきましたが、1600mは以前から難なくこなしていましたし、展開次第では1200mにも対応できるのではないでしょうか。今後の戦績次第ではあるものの、またそのうち実力を過小評価されてしまう場面があるはず。今回のレースをしっかり復習したうえで、次の狙い時をじっくり見極めたいと思います。
M 今週の日曜東京メインレースは、東京芝2400mを舞台に争われる現3歳世代の牝馬チャンピオン決定戦、オークス。昨年は単勝オッズ1.4倍(1番人気)のリバティアイランドが優勝を果たしました。ちなみに、その2023年は単勝オッズ103.4倍(15番人気)のドゥーラが3着に健闘。今年も積極的に伏兵を狙っていくべきでしょうか。
伊吹 過去10年の単勝人気順別成績を見ると、3着以内馬30頭中19頭は単勝3番人気以内の支持を集めていた馬。一方、単勝4番人気以下の馬は優勝例がなく、好走率もそれなりです。
M 単勝1番人気馬は連対率8割。人気の中心となっているような馬を無理に嫌わない方が良いかもしれませんね。
伊吹 単勝7番人気以下だった馬の成績をより詳しく見てみると、単勝7番人気から9番人気の馬は2014年以降[0-1-0-29](3着内率3.3%)、単勝10番人気から16番人気の馬は2014年以降[0-2-3-65](3着内率7.1%)、単勝17番人気以下の馬は2014年以降[0-0-0-17](3着内率0.0%)となっていました。単勝4番人気から6番人気の馬も3着内率16.7%といまひとつでしたし、中位人気グループの馬は扱いに注意した方が良さそう。ただ、単勝二桁人気クラスの馬が上位に食い込んだ例は決して少なくありませんから、思い切ってこのあたりのゾーンを狙ってみるのもひとつの手でしょう。
M そんなオークスでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ライトバックです。
伊吹 先週とは打って変わって、上位人気が予想される馬を挙げてきましたね。単勝1番人気ということはないはずですが、2番手グループの一角を占めることになりそう。
M ライトバックは2走前にエルフィンSを勝っている馬。前走の桜花賞でも、優勝したステレンボッシュから0.1秒差の3着に食い込んでいます。そのステレンボッシュが断然の人気を集めそうな状況ではあるものの、今回は他にGIで連対を果たしたことのある馬がいませんし、ライトバックも実績上位の一頭として相応の支持を集めることになるでしょう。
伊吹 新潟芝1800m外のデビュー戦を勝っている馬なので、コース替わりがプラスに働くと見ている方も多いはず。場合によっては、2番手グループから頭ひとつ抜け出して、単独2番手くらいの立場になるかもしれませんね。波に乗っているAiエスケープが中心視しているという事実を踏まえたうえで、私は好走馬の傾向から、連軸候補としての信頼度を測っていきたいと思います。
M 真っ先に注目しておくべきポイントはどのあたりでしょうか?
伊吹 まずは直近のパフォーマンスを素直に評価したいところ。前走の着順が1着だった馬は2019年以降[4-3-2-16](3着内率36.0%)と比較的堅実でした。一方、前走の着順が2着以下だったにもかかわらず3着以内となった6頭のうち4頭は、前走のレースが桜花賞、かつ前走の1位入線馬とのタイム差が0.5秒以内だった馬です。
M 桜花賞の上位馬でない限り、前哨戦を勝ち切れなかった馬は強調できませんね。
伊吹 おっしゃる通り。一変を期待された馬が人気に応えられなかった例もそれなりにあるので、注意した方が良いと思います。
M 先程も触れた通り、ライトバックは前走の桜花賞で勝ち馬から0.1秒差の3着に善戦。強調材料のひとつと見て良いでしょう。
伊吹 あとは実績や血統もチェックしておいた方が良さそう。“JRAの、1400m超の、重賞のレース”において1着となった経験がない馬は2019年以降[2-1-2-50](3着内率9.1%)と安定感を欠いていました。ちなみに、このうち父がステイゴールド系種牡馬でもディープインパクト系種牡馬でもなかった馬は、一頭も馬券に絡んでいません。
M ライトバックはまだ重賞を勝っていない馬。一応、父はディープインパクト系種牡馬のキズナですが……。
伊吹 重賞未勝利だったディープインパクト系種牡馬の産駒は3着内率が18.8%どまりで、相性の良い血統と言えるかどうかは微妙なところ。まぁ、重賞未勝利とはいえ桜花賞3着の実績がある馬ですし、評価を下げるほどではない気もします。
M 強調材料とするには物足りないが、不安要素ではない――くらいに見ておくべきでしょうね。
伊吹 個人的に気掛かりなのは脚質。同じく2019年以降の3着以内馬15頭中14頭は、前走の4コーナー通過順が3番手から12番手でした。
M はっきりと明暗が分かれていますね。
伊吹 前走の4コーナー通過順が13番手以下だったにもかかわらず3着以内となったのは、2023年1着のリバティアイランドのみ。先行力の高さを活かしたいタイプはもちろん、極端に先行力が低い馬も過信禁物です。
M ライトバックは前走の4コーナーを最後方の18番手で通過。残念ながらこの条件はクリアできていません。
伊吹 正直なところ、私は重いシルシを打たず押さえに回す予定でした。ただ、潜在能力の高さは十分過ぎるほどに証明済み。簡単に軽視して良い馬ではないとも思っています。他ならぬAiエスケープが有力と見ているわけですから、もう一度しっかり買い目上の位置付けを考えてみるつもりです。