単勝オッズ4.6倍(2番人気)のチェルヴィニアが優勝(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
連対を果たした馬のほとんどは5番人気以内だった
AIマスターM(以下、M) 先週はオークスが行われ、単勝オッズ4.6倍(2番人気)のチェルヴィニアが優勝を果たしました。
伊吹 完勝と言って良いのではないでしょうか。スタート自体はそれほど良くなかったものの、極端な後方へ置かれることはなく、向正面までは中団馬群のやや外め、人気の中心となっていたステレンボッシュ(2着)のすぐ隣を追走。そのステレンボッシュが3〜4コーナーでインコースを狙ったのに対して、チェルヴィニアはそのまま馬群の外めを進み、ゴール前の直線に入ったところで無理なく進路を確保しています。ステレンボッシュの方も思いのほかスムーズにインコースから伸びてきて、一旦は完全に抜け出したのですが、残り200m地点を過ぎたところから外のチェルヴィニアがさらに力強く伸び、ステレンボッシュを猛追。決勝線の手前でかわし切り、最後は逆に1/2馬身の差をつけて入線しました。チェルヴィニアの手綱を取ったC.ルメール騎手も、完全に能力上位であるという確信がなければ、このようなレース運びは選ばなかったはず。着差以上に高く評価して良さそうな内容です。
M チェルヴィニアはGI初制覇。前走の桜花賞で13着に敗れたとはいえ、2走前のアルテミスSを素晴らしい内容で勝ち切っていた馬ですし、買い目上の扱いに悩んだ方も多かったのではないでしょうか。
伊吹 この戦績で最終的に単勝2番人気の支持を集めたわけですから、悩んだ挙句「来られたら仕方ない」と判断して評価を下げた方は、たくさんいらっしゃると思います。正直に言うと私もそのひとり。恐れ入りましたというほかありません。ただ、母のチェッキーノは、現役時代に出走した2016年のオークスで勝ったシンハライトとクビ差の2着に健闘した実績がある馬。ちょうど一年くらい前の、POG指名馬を検討する段階では、私も注目しておくべき一頭としてたびたびこの馬の名前を挙げていました。このオークスで信頼し切れなかったのは痛恨の極みですが、距離適性の幅が広いことはよくわかりましたし、今秋以降も本当に楽しみです。
M ちなみに、先週の当コラムでAiエスケープが注目馬に指名したライトバックも、激戦となった3着争いを制してしっかり馬券に絡んでいます。
伊吹 こちらもお見事でしたね。私は先週の当コラムでいくつかの不安要素を挙げましたが、そのあたりはまったくの杞憂だったということでしょう。2週前の当コラムで推奨していたテンハッピーローズが大穴をあけたことからも、現在のAiエスケープは波に乗っていると見て良さそう。ご覧いただいている皆様も、引き続きご注目ください。
M 今週の日曜東京メインレースは、すべてのホースマンが目標とする世代最強馬決定戦の日本ダービー。昨年は単勝オッズ8.3倍(4番人気)のタスティエーラが優勝を果たしました。ちなみに、その2023年は単勝オッズ25.6倍(6番人気)のハーツコンチェルトが3着に食い込んだうえ、単勝オッズ54.9倍(9番人気)のベラジオオペラがハーツコンチェルトとハナ差の4着に健闘。実際に高額配当決着となるかどうかはともかく、伏兵の台頭もそれなりに期待できる印象です。
伊吹 過去10年の単勝人気順別成績を見ると、3着以内馬30頭中18頭は単勝3番人気以内の支持を集めていた馬。人気薄の馬が馬券に絡んだ年もあるとはいえ、上位人気馬の好走率が低いわけではありません。
M 一方、単勝7番人気以下の馬は連対率が0.8%に、3着内率が5.1%にとどまっています。
伊吹 より実態に即した区切り方をすると、単勝4番人気から12番人気の馬は2014年以降[4-2-5-79](3着内率12.2%)、単勝13番人気以下の馬は2014年以降[0-0-1-57](3着内率1.7%)となっていました。ちなみに、連対馬20頭中19頭は単勝5番人気以内の支持を集めていた馬で、単勝6番人気以下だったのは2019年1着のロジャーバローズ(単勝12番人気)のみ。伏兵を狙ってみるのもひとつの手ですが、その場合も上位人気グループの馬を安易に軽視してしまわないよう心掛けるべきでしょう。
M そんな日本ダービーでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、シンエンペラーです。
伊吹 面白いところを挙げてきましたね。超人気薄ということはなさそうですが、ある程度は妙味あるオッズがつくはず。
M シンエンペラーはデビュー2戦目の京都2歳Sを勝っている馬。3走前のホープフルSでも2着に健闘しています。前走の皐月賞は5着どまりだったものの、今回のメンバー構成なら実績上位。積極的に狙おうと考えている方も多いのではないでしょうか。
伊吹 逆に、実績上位でそれなりに注目を集めそうな存在だからこそ、思い切って軽視しようと考えている方も少なくないはず。見方によって評価が割れそうな一頭ですね。好調なAiエスケープが有力視していることを踏まえたうえで、私はレースの傾向から、この馬の好走確率を見積もっていきたいと思います。
M 最大のポイントはどのあたりでしょうか?
伊吹 近年の日本ダービーは、中山芝2000m内のレースに十分な実績のある馬が優勢。2019年以降の3着以内馬15頭中12頭は“中山芝2000m内の、GI・GIIのレース”において3着以内となった経験がある馬でした。
M 要するに、ホープフルS・弥生賞・皐月賞で馬券に絡んだことのある馬が中心ということですね。
伊吹 おっしゃる通り。ちなみに、この経験がなかった馬のうち、東京のレースにおいて“着順が3着以内、かつ4コーナー通過順が8番手以下”となった経験もなかった馬は、2019年以降[1-0-0-56](3着内率1.8%)と苦戦しています。東京向きの差し馬であることを証明していない限り、ホープフルSや皐月賞で好走できなかった馬は強調できません。
M 先程も触れた通り、シンエンペラーはホープフルSで2着となった実績がある馬。2走前の弥生賞でも2着を確保していますし、強調材料のひとつと見て良いでしょう。
伊吹 あとは直近のパフォーマンスも素直に評価したいところ。同じく2019年以降の3着以内馬15頭中14頭は、前走の着順が1着、もしくは前走の1位入線馬とのタイム差が0.5秒以内でした。
M 大敗直後の馬は割り引きが必要ですね。
伊吹 たとえ皐月賞からの直行組であっても、前走で大きく崩れた馬は疑ってかかるべきだと思います。
M シンエンペラーは前走の皐月賞で5着に敗れてしまったものの、勝ったジャスティンミラノとのタイム差は0.4秒。許容範囲内の敗戦だったと言って良いのではないでしょうか。
伊吹 さらに、出走数が7戦以上の馬は2019年以降[0-0-0-15](3着内率0.0%)と3着以内なし。また、同じく2019年以降は、父にミスタープロスペクター系種牡馬を持つ馬も上位に食い込めていません。
M なるほど。キャリアや血統もしっかりチェックしておきたいところです。
伊吹 今年もこれらの条件に引っ掛かっている馬はそれほど多くありませんが、キャリア8戦のコスモキュランダ、ドゥラメンテ産駒のシュガークンあたりは、扱いに注意した方が良いと思います。
M 対照的に、シンエンペラーはキャリア5戦で、父がミスタープロスペクター系に属さないSiyouni。今回挙げていただいた条件にはひとつも引っ掛かっていませんね。
伊吹 もともと私も、この馬は相応に高く評価しようと考えていました。好調なAiエスケープが中心視しているのであれば心強い限り。他の有力馬とも比較したうえで、最終的なシルシをじっくり検討するつもりです。