▲安田記念に参戦するロマンチックウォリアー(撮影:高橋正和)
競馬アナライザーのMahmoud氏が、独自計測データなどから今週末に行われる安田記念を展望。
今年は香港から2頭のトップホースが参戦しますが、解析データからは上位人気必至のロマンチックウォリアーにも不安材料が──。
一方、最も魅力的な日本馬として浮上したのは意外な人気薄で…?
※本編に掲載される個別ラップタイムや平均完歩ピッチなどは、公式発表されたデータではなく、Mahmoud氏が独自に計測しているデータであることを予めご了承ください。
(構成・文:Mahmoud)
速い勝ち時計への対応は問題なし──香港のタイム計時方法にある罠
今年の安田記念には香港馬2頭が出走を予定しています。『高松宮記念分析』で記載した通り、香港競馬はゲートオープンと同時にタイム計測が始まるので前半200m(400m)のラップタイムから1.2秒マイナスすると日本競馬と同等基準でラップタイムを捉えられることになります。
香港馬2頭それぞれ距離別の最速走破タイムを列記すると以下の通りとなります。
◯ロマンチックウォリアー
1200m:1:09.00
1400m:1:21.39
1600m:1:33.80
1800m:1:47.38
2000m:1:59.23
2400m:2:26.92
◯ヴォイッジバブル
1200m:1:09.08
1400m:1:21.37
1600m:1:33.74
1800m:1:46.89
2000m:2:00.36
日本競馬での走破タイムと比べると遅く見えるのは確かな話。以前は「香港馬は時計の掛かる馬場なら有利」といった論調があったりもしました。しかし前述のように1.2秒マイナスした日本式走破タイムに換算すれば、その遅く見える印象は少なくなると思います。
例えばロマンチックウォリアーの1200mでの最速走破タイムは日本式なら1:07.80(前後半34.35-33.45)。ロマンチックウォリアーと同じ2018年産の日本馬の内、2024-05-26現在芝1200mで勝利を上げた馬は192頭で勝ちタイムが1:07.8以下だった馬は15頭。芝1200m1:07.8という勝ちタイムは日本の上位10%辺りに相当します。
その19頭の中で芝1200mより長い距離で勝ち鞍を上げた馬は7頭のみ。この芝1200m1:07.8という走破タイムは日本競馬でもスプリンターの領域であり、そのレンジに相当する走破タイムで走っているのが香港馬2頭。
また、1400mの日本式走破タイムは1:20.2を僅かに切る辺りに相当しますが、今回の安田記念に登録している日本馬で芝1400mを走った延べ8例の内、1:20.2を切ったのが2例のみ。
したがって、そのレベルの走破タイムを持っている香港馬を指して「日本の高速馬場の適性があるのだろうか」と考えるメリットはほぼ皆無に等しいわけです。単純に「どのくらい強いのか」と考える方が遥かに有意義です。
2023年香港マイルにみる“ヴォイッジバブルという馬”
2023年香港マイルではヴォイッジバブルがあのゴールデンシックスティから0.23秒差の2着。ヴォイッジバブルから0.21秒差でナミュールが3着、0.25秒差でソウルラッシュが4着、0.51秒差でセリフォスが7着。ヴォイッジバブルは今回上位人気が予想される日本馬3頭に先着しており、日本勢より強いかも、と考えるのはごく自然なことです。この4頭の日本式前後半のラップタイムと後傾度(前半÷後半)を書いておきましょう。
◯ヴォイッジバブル
47.18-45.95【102.68%】
◯ナミュール
47.74-45.60【104.69%】
◯ソウルラッシュ
47.66-45.72【104.24%】
◯セリフォス
47.66-45.98【103.65%】
この日本馬3頭は香港マイルの前に京都競馬場外回り芝1600mで行われたマイルCSで走っています。中間点付近を頂点とする坂の影響をゼロとした前後半の補正ラップタイムは次の通りです。
◯ナミュール
47.35-45.15【104.87%】
◯ソウルラッシュ
46.85-45.70【102.52%】
◯セリフォス
46.40-46.55【99.68%】
ナミュールは香港マイルでもマイルCSと似たような前後半のラップタイムバランスで走っていますが、ソウルラッシュとセリフォスはマイルCSよりも後傾度の高いラップタイムバランスで走り、位置取りが前だったヴォイッジバブルを捕らえることができませんでした。
特にソウルラッシュは香港マイルでもう少し積極的な競馬を行った方が良かったかもしれませんが、いずれにせよマイル戦としては後半重視のラップタイムバランスでヴォイッジバブルは好走したと見るのが一つの解釈です。
また、この香港マイルではラスト400〜200mで11.00のラップタイムをマークし、ここ2シーズンで同区間のラップタイムが10秒台となったレースも2回あり、いずれも勝利を収めています。緩めのペースで追走し速い上がりをマークする展開が理想形と考えて良い馬かと見ています。
芝2000mの世界トップランカー・ロマンチックウォリアーの不安材料