▲宝塚記念参戦のブローザホーンを管理する吉岡辰弥調教師を直撃(撮影:大恵陽子)
宝塚記念に出走するブローザホーン。今年の日経新春杯を勝った後、栗東に転厩し天皇賞(春)2着など長距離2戦で上位争いを演じた馬が、GI制覇を目指します。
定年引退した中野栄治元調教師からバトンを受け継いだのは吉岡辰弥調教師。同馬の学習能力の高さや、タフな条件も厭わない点を強みに挙げます。23日に迫った宝塚記念に向けて、ブローザホーンについて伺いました。
(取材・構成:大恵陽子)
「馬がリラックスできるように」調教時間をズラす理由
──ブローザホーンは今年3月はじめで定年引退された中野栄治調教師の元から転厩してきました。最初の頃の印象はどうでしたか?
吉岡 中野先生から「大人しくて扱いやすいよ」と、色々とアドバイスをいただいていて、本当にその通りでした。昔は結構大変だったみたいなんですけど、うちに来た時には良くなっていて、何かで困ったことが一度もないくらい優等生です。レースでもしっかり力を出せる馬になっていました。
──中野厩舎や牧場でしっかりと育てられてきたんですね。吉岡厩舎に来て阪神大賞典、天皇賞(春)と2戦を経験しました。振り返っていかがですか?
吉岡 阪神大賞典ではちょっと折り合いを欠いて最後に甘くなりながらも3着で、能力があると感じました。折り合いは調教では大丈夫なんですけど、初めての長距離戦ということもあったかもしれません。その後にハミや調教を工夫したところ、天皇賞(春)ではちゃんと学習していました。厩舎の工夫というよりは、阪神大賞典を経験したことによって馬自身が学習をしていたのかなと思います。
天皇賞(春)はポジションは後ろでしたけど、1周目で折り合っているのを見て「これはいい競馬になるな」というイメージがありました。それでも、最後は思った以上にいい伸びでした。
▲天皇賞(春)では上がり3F最速の脚で2着に(ユーザー提供:ひらまさん)
──学習能力が高いんですね。ちなみに、調教はどんな工夫を取り入れられたんですか?
吉岡 ブローザホーンに前を走らせて、後ろの馬からプレッシャーを受ける中で我慢をさせるとか、3頭併せの真ん中に入れるとか、そういうレースに近いシチュエーションで調教をしました。
──3頭併せと聞くと、吉岡調教師が調教助手時代を過ごした角居勝彦厩舎(2021年解散)でお馴染みの調教だったことを思い出します。
吉岡 角居厩舎で教えていただいたことも反映していますし、技術調教師の時に中内田充正厩舎で勉強したことも多く反映させています。いいとこ取りをしているというか(笑)。経験が自分の引き出しになっていると思います。
──中内田厩舎での経験は具体的にどう生かしていますか?
吉岡 坂路に入る前にフラットワークで馬を整えることは中内田厩舎の真似をして開業からずっとやっています。他の厩舎の先を行こうと思えば、フラットワークの精度を上げるなど、多くの厩舎がやっているのとは違うところでの工夫が必要だと思います。そういう点は中内田厩舎で勉強したことです。
──そういえば、吉岡厩舎は馬場開場直後ではなく、少し時間を置いてから追い切っていますよね。その意図は?
吉岡 技術調教師期間に海外で勉強する時間も少しあったんですけど、実際に見ると海外の馬は日本の馬よりもっとリラックスしていました。日本馬と同じような調教をしてもカイバもしっかり食べていて、何が違うのかな? と考えた時に、日本では馬が密集した状況で坂路を上がることが馬にとってはストレスなのかな、と思いました。今では時間帯をずらす厩舎が増えましたけど、開業した頃は30分もずらせば角馬場も坂路もすごく空いていて、その分スペースがあるので馬もリラックスできます。今でも開場一番よりは混雑を避けられますし、事故も減ります。でもやはり、一番は馬のリラックスを考えてですね。
「タフな条件は合っている」他馬に負けない強み
──ブローザホーンの精神面にも変化はありましたか?
吉岡 美浦でどういう調教をしていたか、細かなことは分からないですけど、うちの厩舎の色になってきたかな、というのは感じます。たとえば、小さい動きがどんどんできるようになってきて、コントロール性がさらに上がり、腹筋背筋も鍛えられて、いろんな意味でさらに良くなったと思います。
──これまでとは違った角度からアプローチしたことで、様々な強さが備わっていっているんですね。ところで、父エピファネイアには吉岡調教師も調教助手時代に携わってらして、「走ることに我が強かった」とおっしゃっていました。父の色は感じますか?
吉岡 あんまりエピファネイアっぽくはないですかね。エピファネイアの子はどちらかというとガチっとして重心が低い馬が多いんですけど、ブローザホーンはどちらかと言うと小ぶりで筋肉量もそんなに多くなく、綺麗に走る感じの馬で、そんなに似ていません。でも、エピファネイアは2000m以上を主戦としていましたし、そういう点はすごく引き継いでいると思います。
──さて、次走は宝塚記念です。梅雨時期の京都芝2200mの舞台はどう感じますか?
吉岡 札幌でもオープン特別を勝った時は馬場が悪くて洋芝で消耗戦、というタフな条件でした。そこで後続を突き放して勝つくらいの強い馬なので、宝塚記念は馬場も悪くなってくるでしょうし、雨が降る可能性もあって、タフな条件はこの馬には合っていると思います。他の馬がそれに苦しむなら、有利に働くと思います。応援よろしくお願いします。
▲左から富岡潤調教助手、ブローザホーン、吉岡師での3ショット いざ宝塚記念へ!(撮影:大恵陽子)
(文中敬称略)