単勝オッズ9.1倍(4番人気)のアリスヴェリテが勝利(c)netkeiba
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
人気薄の馬が上位に食い込んだ例も決して少なくないAIマスターM(以下、M) 先週はマーメイドSが行われ、単勝オッズ9.1倍(4番人気)のアリスヴェリテが優勝を果たしました。
伊吹 お見事と言うほかありませんね。素晴らしいスタートを決めて先行争いに加わると、1コーナーで最内枠のベリーヴィーナス(14着)をかわし単独先頭に。そのまま後続との差を広げ、大逃げの形に持ち込んでいます。その後もリードを保ったまま4コーナーを回り切り、ゴール前の直線へ。残り200m地点を過ぎたあたりからエーデルブルーメ(2着)らが差を詰めてきたものの、結局後続に2馬身の差をつけて逃げ切りました。陣営や鞍上の永島まなみ騎手にとっても会心の勝利だったのではないでしょうか。
M アリスヴェリテは重賞初制覇。今年3月上旬に1勝クラスを、5月下旬に2勝クラスを勝ち上がったばかりの馬です。
伊吹 正直なところ、1000m地点の通過タイムを見るまでは「オーバーペースかもしれない」と懸念していたのですが、終わってみれば前半1000mが58秒3、後半1000mが58秒9。しっかりバランスの取れた、この馬にとってベストのペースだったのだと思います。ちなみに、アリスヴェリテの前走、2024年05月25日の京都8R(4歳以上2勝クラス・芝2000m内)は、前半1000mが56秒8、後半1000mが61秒0でした。前走に比べればだいぶ遅いペースだったうえ、今回は負担重量も前走比3kg減の50kgでしたから、アリスヴェリテ自身はかなり楽に感じていたかもしれません。単なる作戦勝ちではない、この馬自身の持ち味を存分に引き出しての勝利と見るべきでしょう。
M アリスヴェリテはまだ4歳。今後が楽しみですね。
伊吹 もともと2歳時のアルテミスSで3着となった実績がある馬。このレースは勝ったラヴェルと0.1秒差、2着のリバティアイランドとはタイム差なしでした。今後はより重い負担重量を課されたり、より強力なライバルたちと戦ったりすることになりますが、この馬自身にもまだ伸びしろがありそうですし、再び重賞で上位に食い込む可能性は十分にあると思います。また、こういう脚質なので、今後はどのレースでも展開の鍵を握る存在となるはず。出走してきた際の予想に活かすべく、ここ2戦のパフォーマンスをしっかり検証しておきましょう。
M 今週の日曜京都メインレースは、さまざまなカテゴリのトップホースが一堂に会する上半期のチャンピオン決定戦、宝塚記念。昨年は単勝オッズ1.3倍(1番人気)のイクイノックスが優勝を果たしました。その2023年は単勝オッズ55.7倍(10番人気)のスルーセブンシーズが2着に食い込んだものの、3連単の配当は1万3630円どまり。波乱の決着となった年もある一方、堅く収まる年も少なくない印象です。
伊吹 2022年が3連単2万5220円、2021年が3連単1万3340円と、近年は低額配当決着が続いていますね。ただ、過去10年の単勝人気順別成績を見ると、上位人気馬の好走率が極端に高いわけではありません。
M 過去10年の3着以内馬30頭中、単勝7番人気以下だった馬は11頭。昨年のような例もありますし、伏兵の台頭が意外と多い点は頭に入れておくべきでしょうね。
伊吹 より実態に即した区切り方をすると、単勝2番人気以内の馬は2014年以降[5-2-3-10](3着内率50.0%)、単勝3番人気から単勝12番人気の馬は2014年以降[5-8-7-79](3着内率20.2%)、単勝13番人気以下の馬は2014年以降[0-0-0-30](3着内率0.0%)でした。単勝1番人気やそれに近い支持を集めていた馬はともかく、その下から単勝10番人気前後まではどのゾーンも好走率があまり変わらなかったので、魅力ある人気薄がいたら積極的に狙って良いと思います。
M そんな宝塚記念でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ドウデュースです。
伊吹 ちょっと意外なところを挙げてきましたね。今回のメンバー構成なら実績上位で、当然ながら相応の支持が集まりそう。
M ご存じの通り、ドウデュースは3歳時の日本ダービーや昨年末の有馬記念などを勝っているチャンピオンホース。前走のドバイターフでは5着に敗れてしまいましたが、コンディション面が心配になるような負け方ではありませんでしたし、おそらく今回も人気の中心となるでしょう。
伊吹 どちらかと言えば穴党のAiエスケープがこの馬を挙げてきたということは、魅力ある人気薄が見当たらないということなのかもしれませんね。この見解を踏まえたうえで、私はレースの傾向からドウデュースの信頼度を測っていきたいと思います。
M 出走各馬の明暗を分けそうなポイントはどのあたりですか?
伊吹 近年の宝塚記念は、今回より短い距離のビッグレースで連対を果たしたことのある馬が中心。2019年以降の3着以内馬15頭中11頭は“JRAの、2200m未満の、GIのレース”において2着以内となった経験がある馬でした。
M ドウデュースは2歳時に朝日杯FSを制している馬。3歳時の日本ダービー以降は2200m以上のレースを主戦場としてきましたが、1マイルのGIにも十分な実績がある点は、強調材料のひとつと言えるのではないでしょうか。
伊吹 ちなみに“JRAの、2200m未満の、GIのレース”において2着以内となった経験がない、かつ“同年3月以降の、JRAの、3000m未満の、重賞のレース”において2着以内となった経験がない馬は2019年以降[0-1-0-41](3着内率2.4%)。今回より短い距離のビッグレースで連対を果たしたことがない馬のうち、天皇賞(春)や阪神大賞典を除くここ3か月あまりの重賞で連対を果たしたこともない馬は、思い切って評価を下げた方が良いかもしれません。
M なるほど。今年はこの条件に引っ掛かっている馬がわりと多く、絞り込みやすいメンバー構成と言えます。
伊吹 あとは出走数もチェックしておきたいところ。同じく2019年以降の3着以内馬15頭中14頭は、キャリア20戦以内でした。
M キャリアが豊富過ぎる馬は疑ってかかりたいところですね。
伊吹 おっしゃる通り。高齢馬や出世に時間がかかった馬は、過信禁物と見るべきでしょう。
M ドウデュースはキャリア13戦。こちらの条件も問題なくクリアしています。
伊吹 さらに、同じく2019年以降の3着以内馬15頭中11頭は、前走の着順が3着以内でした。
M 前走好走馬が優勢、と。
伊吹 なお、前走の着順が4着以下・競走中止だったにもかかわらず3着以内となった4頭は、いずれも前走のコースが国内、かつ前走の条件がGI、かつ前走の4コーナー通過順が6番手以内だった馬。前走好走馬を除くと、国外のレースやGI以外のレースを経由してきた馬、前走で先行していなかった馬は上位に食い込めていません。
M 先程も触れた通り、ドウデュースは前走の着順が5着、かつその前走が国外のドバイターフです。
伊吹 個人的には、そのドバイターフで後方からレースを進めていた点も気掛かり。再び取りこぼす可能性はそれなりに高いと見ておいた方が良いのではないでしょうか。ただ、これだけの実績馬ですし、Aiエスケープも有力視しているわけですから、無理に嫌う必要はないはず。実際のオッズも確認したうえで、もう一度じっくり買い目上位の位置付けを考えたいと思います。