函館記念は単勝オッズ7.2倍(3番人気)のホウオウビスケッツが優勝(撮影:山中博喜)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
超人気薄の馬が馬券に絡んだ例は意外と少ない
AIマスターM(以下、M) 先週は函館記念が行われ、単勝オッズ7.2倍(3番人気)のホウオウビスケッツが優勝を果たしました。
伊吹 お見事と言うほかありませんね。好スタートを決めて先団に取り付き、道中は逃げたアウスヴァール(3着)のやや後ろ、単独2番手のポジションを追走。3コーナー手前で一旦はアウスヴァールとの差が広がったものの、4コーナーで再び差を詰め、ゴール前の直線に入るところで早くも外から並びかけています。その後もホウオウビスケッツの脚色は衰えず、残り200m地点のあたりで単独先頭に。中団から伸びてきたグランディア(2着)らに対してもセーフティリードを保ったまま入線しました。まったく隙のない完璧なレース運びで、鞍上の岩田康誠騎手にとっても会心の勝利だったのではないでしょうか。
M ホウオウビスケッツは前哨戦の巴賞を勝っていた4歳馬。ただ、近年の函館記念で巴賞組が苦戦していたこともあってか、思ったよりも人気が集中しなかった印象です。
伊吹 実際、前回の当コラムで紹介した通り、2020年から2023年の函館記念は、前走から中4週以内の馬が[0-2-0-26](3着内率7.1%)。巴賞組をはじめとする臨戦過程に余裕のない馬は苦戦していました。もっとも、ホウオウビスケッツは昨年のスプリングSで2着に食い込んでいるうえ、その後の日本ダービーでも勝ったタスティエーラと0.2秒差の6着に健闘した実績がある馬。さすがに舐められ過ぎだったと思います。個人的に反省しているのは、枠順を嫌って重いシルシを打てなかった点。外枠不利という傾向があったとはいえ、これだけ先行力の高い馬ですし、今回のような展開も十分にあり得ると見ておくべきだったのでしょう。
M 重賞のタイトルを獲得したことで、ホウオウビスケッツは今後が楽しみな存在になりましたね。
伊吹 母のホウオウサブリナは競走馬としてデビューできませんでしたが、マンファスの3×2という強烈なクロスを持っている馬。この大仕掛けがプラスに働いている可能性もありそうです。まだまだ伸びしろがありそうな一方で、再び格の高いレースを目指していくなら、人気の盲点になる場面が必ずあるはず。そういったシチュエーションで取捨を見誤らないよう、今回のパフォーマンスをしっかり記憶しておこうと思います。
M 今週の日曜小倉メインレースは、オープン特別の米子Sに続くサマーマイルシリーズの第2戦、中京記念。昨年は単勝オッズ16.6倍(8番人気)のセルバーグが優勝を果たしました。なお、その2023年は単勝オッズ4.5倍(2番人気)のディヴィーナが2着に、単勝オッズ3.2倍(1番人気)のルージュスティリアが3着に食い込んだこともあり、3連単の配当は4万300円どまり。今年も堅めの決着をイメージしておいた方が良いのでしょうか。
伊吹 2020年には単勝オッズ163.0倍(18番人気)のメイケイダイハードが優勝を果たしていて、この年は3連単330万2390円の高額配当が飛び出したものの、2016年以降のここ8回に限ると、3連単の配当が10万円を超えたのは2020年、2022年(14万2070円)の2回だけ。堅く収まりがちなレースと見ておいた方が良いかもしれませんね。
M ただ、過去10年の単勝人気順別成績を見ると、単勝2番人気から単勝3番人気の馬は3着内率が20.0%で、単勝1番人気馬は連対率が20.0%。人気を裏切ってしまった馬も少なくないようですが……。
伊吹 より実態に即した区切り方をすると、単勝2番人気から単勝7番人気の馬は2014年以降[6-7-5-42](3着内率30.0%)、単勝8番人気から単勝13番人気の馬は2014年以降[1-3-1-54](3着内率8.5%)、単勝14番人気以下の馬は2014年以降[1-0-0-28](3着内率3.4%)となっていました。超人気薄の馬が上位に食い込んだ例は決して多くないので、基本的には手頃な好配当を狙っていくべきでしょう。
M そんな中京記念でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、カテドラルです。
伊吹 思い切ったところを挙げてきましたね。侮りがたい実績の持ち主ではあるものの、今回は単勝二桁人気クラスの立場でレースを迎えることになりそう。
M カテドラルは8歳馬。2021年の京成杯AHを制しているうえ、2021年の中京記念、2022年の中京記念、2023年の小倉大賞典と、小倉芝1800mの重賞で3度の連対例があります。もっとも、馬券に絡んだのはその2023年小倉大賞典が最後。今年の小倉大賞典でも7着に敗れてしまいましたし、積極的に狙おうと考えている方はあまりいないかもしれません。
伊吹 まぁ、ここ2戦はいずれもGIでしたし、昨年はダートのレースに挑戦していた時期もありましたから、過小評価されそうなタイミングではありますよね。Aiエスケープの見立てを踏まえたうえで、この馬のプロフィールと好走馬の傾向を見比べていきましょう。
M 最大のポイントはどのあたりですか?
伊吹 まずは年明け以降の戦績をチェックしておきたいところ。今回と同様に小倉芝1800mで施行された2021年・2022年を含む過去3年の3着以内馬延べ9頭は、いずれも“同年の、中央場所の、オープンクラスのレース”において8着以内となった経験がある馬でした。
M 大敗続きの馬はもちろん、ローカルのレースや条件戦を主戦場としてきた馬も強調できませんね。
伊吹 おっしゃる通り。今年もこの条件に引っ掛かっている馬がわりといるので、該当馬は扱いに注意するべきだと思います。
M カテドラルは4走前の中山金杯で勝ち馬と0.5秒差の8着に健闘。ギリギリとはいえ、この条件をクリアしている側の一頭です。
伊吹 あとは直近のパフォーマンスも素直に評価した方が良さそう。前走の着順が5着以下だった馬は2021年以降[1-2-1-25](3着内率13.8%)ですし、3着以内となった4頭のうち3頭は前走がGI競走でした。
M 前走好走馬やビッグレースからの直行組が優勢、と。
伊吹 ちなみに、特別登録を行った16頭のうち、前走の着順が4着以内だった馬は3頭、前走の条件がGIだった馬も3頭。今年は出走予定馬の大半がこの条件をクリアできていません。
M なるほど。前走がGIだったカテドラルは貴重な存在と言えますね。
伊吹 さらに、同じく2021年以降の3着以内馬9頭中延べ8頭は、馬齢が5歳以下でした。
M 高齢馬は疑ってかかった方が良さそうですね。
伊吹 ただ、馬齢が6歳以上だったにもかかわらず3着以内となった唯一の馬は、2022年2着のカテドラル。この馬だけは例外と見ておいた方が良いのかもしれません。
M レースの傾向を見る限りでも不安要素は案外少ないようですし、これは絶好の狙い目と言って良いのではないでしょうか。
伊吹 正直に言うと、私はまだシルシを打つかどうか迷っています。一変してもおかしくないシチュエーションではありますが、8歳となった本馬がどこまで変わってくるのか、まだ半信半疑なんですよね。もっとも、Aiエスケープが有力と見ているのであれば、その確率は私が思っているより高いのかも。押さえておくに越したことはないでしょう。