中京記念は単勝オッズ8.2倍(5番人気)のアルナシームが優勝(c)netkeiba
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
近年の結果を見る限りだと波乱含みの一戦だが……
AIマスターM(以下、M) 先週は中京記念が行われ、単勝オッズ8.2倍(5番人気)のアルナシームが優勝を果たしました。
伊吹 この馬自身の能力と鞍上のファインプレーが見事に噛み合った、素晴らしいパフォーマンスだったと思います。好スタートを決めましたが、行きたい馬を行かせる形でスッと引き、道中は中団のインコースを追走。縦長の展開で、序盤から飛ばしたテーオーシリウス(14着)やセルバーグ(12着)にはだいぶ離されていたものの、すぐ前に単勝1番人気のエルトンバローズ(3着)がいましたし、理想的なポジションだったのではないでしょうか。
3〜4コーナーでも引き続き内ラチ沿いを進んでいましたが、一団となったゴール前の直線入り口で馬群を縫うように外めへ持ち出し、残り200m地点の手前で早くも先頭に。その後も脚色は衰えず、内から抵抗したエピファニー(2着)やエルトンバローズを最後の最後まで抑え切って決勝線に達しました。
結果的に敗れたとはいえ、実績上位のエピファニーとエルトンバローズもまずまず上手く立ち回っていましたから、道中のどこかでひとつでも判断ミスを犯していたら、この2頭に先着するのは難しかったはず。大ベテランの横山典弘騎手が、その凄みを改めて見せつけた一戦とも言えそうです。
M アルナシームは重賞初制覇。2023年のカシオペアSなどを制した実績があるとはいえ、重賞ではまだ馬券に絡んだことがなく、半信半疑くらいに見ていた方が多かったのではないかと思います。
伊吹 正直なところ、私もそのひとり。個人的にはゴール前の直線が長いコースを得意としている印象を持っていて、今回は相手本線くらいの評価にとどめてしまいました。素直にエピファニーやエルトンバローズから買っていたので、馬券自体は無事に的中させることができたものの、結果的にこの馬を過小評価してしまったのは紛れもない事実。反省しなければなりませんね。
M この後は休養に入るとのことですが、今秋以降の大舞台でもそれなりの注目を集めることになりそうです。
伊吹 母のジュベルアリは競走馬としてデビューできませんでしたが、全弟に2017年の皐月賞などを勝ったアルアイン、2021年の日本ダービー馬シャフリヤールがいる超良血馬。2代母のドバイマジェスティは現役時代にBCフィリー&メアスプリント(米G1)などを制しています。これだけ血統的なポテンシャルの高い馬ですし、まだまだ伸びしろはあると見ておいた方が良さそう。今回のパフォーマンスやこれまでの戦績を今のうちにじっくり振り返って、狙いどころのアタリをつけておきましょう。
M 今週の日曜新潟メインレースは、新潟芝千直を舞台に争われる夏の名物重賞、アイビスSD。昨年は単勝オッズ39.2倍(9番人気)のオールアットワンスが優勝を果たしました。ちなみに、その2023年は単勝オッズ9.7倍(6番人気)のトキメキが2着に、単勝オッズ48.6倍(12番人気)のロードベイリーフが3着に食い込んで、3連単80万4460円の高額配当が飛び出しています。
伊吹 2022年が3連単26万7060円、2021年が22万340円と、近年は波乱続きですね。もっとも、2011年から2020年の計10回における3連単の配当を振り返ってみると、最高額が2012年の8万960円で、平均値は3万4918円、中央値は4万5750円。長期間に渡って堅く収まりがちだった点は頭に入れておくべきでしょう。
M 過去10年の単勝人気順別成績を見ても、人気の中心となっているような馬の好走率が極端に低いわけではありません。
伊吹 より実態に即した区切り方をすると、単勝2番人気以内の馬は2014年以降[7-6-0-7](3着内率65.0%)、単勝3番人気から単勝9番人気の馬は2014年以降[3-4-7-56](3着内率20.0%)、単勝10番人気から単勝14番人気の馬は2014年以降[0-0-3-44](3着内率6.4%)、単勝15番人気以下の馬は2014年以降[0-0-0-23](3着内率0.0%)となっていました。単勝二桁人気クラスの馬が上位に食い込んだ例は少ないので、無理に手を広げる必要はないと思います。
M そんなアイビスSDでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ウイングレイテストです。
伊吹 面白いところを挙げてきましたね。ある程度の支持は集まりそうですが、取捨に悩んでいる方も少なくないはず。
M ウイングレイテストは7歳馬。2023年のスワンSなどを勝った実績があるうえ、初めての1200m戦だった前走の函館スプリントSでも2着に食い込んでいます。ただ、やはりコース適性が未知数である点は気掛かり。思いのほか妙味あるオッズがつくかもしれません。
伊吹 枠順にもよるでしょうしね。まぁ、少なくとも現時点においてはAiエスケープが有力と見ているわけですから、狙う価値は十分にありそう。この見解を踏まえたうえで、私はレースの傾向からウイングレイテストの好走確率を見積もっていきたいと思います。
M 真っ先に注目しておくべきポイントはどのあたりですか?
伊吹 まずは直近のパフォーマンスを素直に評価したいところ。2020年以降の3着以内馬12頭中8頭は、前走の着順が1着、もしくは前走の1位入線馬とのタイム差が0.3秒以内でした。
M 基本的には前走好走馬が優勢、と。
伊吹 一方、前走の着順が2着以下、かつ前走の1位入線馬とのタイム差が0.4秒以上、かつ前走の出走頭数が16頭以下だった馬は2020年以降[0-1-1-35](3着内率5.4%)。多頭数のレースを経由してきた馬でない限り、大敗直後の馬は疑ってかかるべきでしょう。
M ウイングレイテストは前走の1位入線馬とのタイム差が0.2秒。勢いに乗っている点は高く評価できます。
伊吹 あとは血統も明暗を分けそうなファクターのひとつ。同じく2020年以降の3着以内馬12頭は、いずれも父か母の父にミスタープロスペクター系種牡馬を持つ馬でした。
M これはなかなか興味深い傾向。ここまで極端に偏っているとは……。
伊吹 ちなみに、特別登録を行った21頭のうち、父か母の父にミスタープロスペクター系種牡馬を持っている馬は8頭だけ。わりと大胆に絞り込んでしまって良いのかもしれません。
M ウイングレイテストは父がスクリーンヒーロー、母の父がサクラユタカオーで、いずれもミスタープロスペクター系に属していない種牡馬。残念ながら、この条件に引っ掛かっている側の一頭です。
伊吹 さらに、同じく2020年以降の3着以内馬12頭中9頭は“前年以降の、新潟の、1勝クラス以上のレース”において2着以内となった経験がある馬でした。
M なるほど。新潟のレースにこれといった実績がない馬は、あまり強調できませんね。
伊吹 なお“前年以降の、新潟の、1勝クラス以上のレース”において2着以内となった経験がない、かつアイビスSDにおいて3着以内となった経験がない馬は、2020年以降[1-0-0-31](3着内率3.1%)とさらに苦戦しています。
M ウイングレイテストが新潟のレースを使うのは2022年の長岡S(2着)以来で、もちろんアイビスSDは出走経験なし。やはり過信禁物と見ておいた方が良いのでしょうか。
伊吹 私は思い切って評価を下げるつもりでした。もっとも、他ならぬAiエスケープが狙い目と判断しているわけですし、コース適性の高さを示す要素が見当たらない分、私以外にも不安視している方はたくさんいるはず。これだけの実績馬ですから、人気の盲点になるようであれば逆らう必要はありません。安易に軽視してしまわないよう心掛けつつ、枠順やオッズの確認後に最終的な評価を下したいと思います。