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イギリス芝12F戦の大一番 キングジョージ6世&クイーンエリザベスSを振り返る

  • 2024年07月31日(水) 12時00分

カランダガンら欧州の注目馬も併せて紹介


 27日にアスコットで行われた12F路線の大一番・G1キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(芝11F211y)は、単勝26倍の7番人気タイだった仏国調教馬ゴリアット(英国で出走する時の地元メディアの呼び方はゴライアス、セン4、父アドラーフルーク)が、2着以下に2.1/4馬身差をつける快勝を演じるという、想定外の結果となった。

 後段で”キングジョージ”の回顧も行うが、6月から7月にかけて欧州で行われた12F戦から、今季後半、あるいは、来季のこの路線で注目すべき存在を、筆者自身の覚え書きとして記していきたいと思う。

 ゴリアットの前走はロイヤルアスコット最終日(6月22日)のG2ハードウィックS(芝11F211y)で2着だったが、実はその前日に行われた3歳限定のG2キングエドワード7世S(芝11F211y)で印象的な勝ち方を見せていたのが、ゴリアットと同じフランソワ・アンリ・グラファールが管理するカランダガン(セン3・父グレンイーグルス)だった。

 アガ・カーン殿下による自家生産馬で、G3ミネルヴ賞(芝2500m)2着馬カラヤナの2番仔となるのがカランダガンだ。

 2歳8月にデビュー。ドーヴィル競馬場のメイドン(芝1600m)で後にG1仏二千ギニー(芝1600m)勝ち馬となるメトロポリタンの3着に敗れた後、10月にシャンティイ競馬場で行われた条件戦(AW1900m)を10馬身差で快勝。デビュー2戦目で初勝利をあげて2歳シーズンを終えた。

 カランダガンは、その直後に去勢をされてセン馬となっている。

 3歳2戦目となったG3ノアイユ賞(芝2100m)を制し重賞初制覇を果たすと、続いて挑んだG2オカール賞(芝2200m)も勝って重賞連勝。この馬の最適距離は12Fとみる陣営が、次走に選んだのがロイヤルアスコットのG2キングエドワード7世Sだった。

 鋭い末脚を武器にするこの馬は、キングエドワード7世Sでも前半は後方に待機。鞍上S.パスキエが動いたのは、馬群が直線に向いてからで、大外に進路をとったカランダガンは1頭だけ桁違いの瞬発力を見せ、13頭のライバルをまとめて交わして残り300mで先頭に立つと、そこから6馬身抜ける快勝となった。

 過去6年の勝ち馬のうち5頭が、その後G1を制しているのがキングエドワード7世Sで、カランダガンにも同様の期待がかかる。今年の同競走は、あまり水準が高い顔ぶれではなかったとの見解もあるが、勝ち時計は同日に同距離で行われた古馬のハンデ戦より1.45秒速く、また同競走の3着馬ロイヤルスプレマシー(牡3)はその後、G3バーレーントロフィー(芝13F)で2着に入っており、そこそこのレベルにあったことは間違いない。

 セン馬のためG1凱旋門賞には出走できないが、それ以外の主要競走でカランダガンは存在感を発揮しそうである。当面は、8月21日にヨークで行われるG1インターナショナルS(芝10F56y)のエントリーを保持しており、出走してくれば、ドゥレッツァ(牡4・父ドゥラメンテ)にとって侮りがたい敵になりそうである。

 7月13日にパリロンシャンで行われた、同じく3歳限定のG1パリ大賞(芝2400m)は、2番人気のソシエ(牡3・父シーザスターズ)が、2着イリノイ(牡3・父ガリレオ)に2馬身差をつけて勝利を飾った。

 ヴェルトハイマー兄弟による自家生産馬で、LRシャルルラフィット賞(芝2000m)など2つの準重賞を制した他、5つの重賞で入着したアナシアの半弟にあたるのがソシエだ。

 A.ファーブル厩舎から2歳9月にデビュー。2歳時を2戦1勝で終えた後、3歳初戦となったパリロンシャンの一般戦フェリエール賞(芝2150m)で2勝目をゲット。陣営が次走に選んだのがシャンティーのG1仏ダービー(芝2100m)で、重賞初挑戦だったソシエはそこで3着に健闘した。続いて出走したのがG1パリ大賞で、ソシエはG1で重賞初制覇を果たすことになった。

 2着イリノイは、LRダービートライアルS(芝11F133y)で、後にG1英ダービー(芝12F6y)で2着になるアンビエンテフレンドリーの2着となり、続くG2クイーンズヴァース(芝14F23y)を制しての参戦だったという実力馬だ。これに2馬身という決定的な差をつけての優勝は高く評価してよく、ブックメーカー各社もパリ大賞の結果を受け、秋の凱旋門賞へ向けた前売りでソシエを、オッズ13〜17倍の3〜4番人気に浮上させた。次走は9月15日にパリロンシャンで行われるG2ニエル賞(芝2400m)と言われている。

 ソシエのG1パリ大賞快勝で、三段論法的に評価が高まったのが、この馬に2馬身以上の差をつけてG1仏ダービーを制していたルックドヴェガ(牡3、父ロペドヴェガ)である。目下のところ、凱旋門賞の前売りで3.5倍〜4.5倍のオッズを提示され、抜けた1番人気の座にあるのがルックドヴェガである。

 そして、冒頭でも触れた、先週土曜日に行われたG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスS。

 勝ち馬ゴリアットは独国産馬で、フィリップ・フォン・ウルマン男爵のシュレンデルハン牧場による自家生産馬だ。LRベルリナースクロス賞(芝1800m)勝ち馬ガッシュの初仔で、3代母がG1伊オークス(芝2200m)勝ち馬ガダループ。その産駒に、G1バーデン大賞(芝2400m)など3つのG1を制したギニョール、G1バイエルンツフトレネン(芝2000m)勝ち馬ギリアーニらがいる牝系の出身である。

 シャンティーに拠点を持つフランソワ・アンリ・グラファール厩舎に入厩。球節にスクリューを埋め込む手術を受けたため、デビューは3歳5月になったが、いきなり3連勝。重賞初制覇となった秋のG3プランスドランジュ賞(芝2000m)で4着となって、3歳シーズンを終了した。

 今季2戦目となったG3エドヴィル賞(芝2400m)を制し重賞初制覇。続くG2シャンティイ大賞(芝2400m)は4着。前走G2ハードウィックS(芝11F211y)は2着だった。

 G3エドヴィル賞は、超がつくスローペースになった中で逃げ切り勝ち。G2シャンティイ大賞では一転して、道中最後方から追いこむ競馬で4着。そして前走G2ハードウィックSでは、序盤の下りで馬が頭を上げて行きたがるのを、鞍上が無理矢理抑えて3番手からの競馬となった。推察するに、気性的にいささか難しいところがありそうで、ゆえに脚質も安定しない馬という印象を抱いていた。

 しかし、後から考えてみれば、前半折り合いを欠きながら2着というハードウィックSの内容は、それが“キングジョージ”と同コース・同距離の競馬であったことを鑑みれば、もう少し高く評価してしかるべきだったように思う。ましてや、前々走まではほぼ押しなべて渋り気味の馬場で競馬をしていた馬が、初めて硬めの馬場で走ったのがG2ハードウィックSで、“キングジョージ”の馬場も同じように硬めだったことを考えれば、買いの材料は揃っていたと思う。いずれにしても、後の祭り。

 それにしても、ゴリアットに3.3/4馬身差をつけてG2ハードウィックSで快勝していたアイルオブジュラ(セン・父ニューアプローチ)とは、いったいどれほどの大物なのかと、おおいに気にかかる。

 ゴドルフィンの自家生産馬で、2歳11月にC.アップルビー厩舎からデビューしたものの、2歳時を1戦0勝の成績で終わった後、タタソールズ・アスコット3月ミックス市場に上場され、バーレーンの王族プリンス・ナッサーの競馬組織ヴィクトリアス・レーシング社の代理人に15万ギニー(当時のレートで約2597万円)で購買されたのがアイルオブジュラだ。

 去勢をされてセン馬となり、G.スコット厩舎の所属となった同馬は、英国で5戦2勝の成績を残した後、馬主の拠点であるバーレーンに移籍した。どうやら、そこで馬が変わったようだ。英国時代には、主に8F以下のレースを使われていたのが、移籍後は10F以上のレースを走るようになったことも、この馬にはよかったのかもしれない。

 3月までバーレーンで5戦し、LRハマドビンイーサアールハリーファC(芝2400m)など、2つの準重賞を含む4勝をマーク。英国に戻り、初戦となったグッドウッド競馬場のLRフェスティバルS(芝9F197y)も制して臨んだのがロイヤルアスコットのG2ハードウィックSだった。

 そこで、今年2月以来の連勝を5に伸ばすとともに、重賞初制覇を果たしたアイルオブジュラは、当初はG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスSに向かう予定だったが、その後、故障発生により年内一杯は休養とのニュースが流れた。

 故障の具体的な箇所や、どの程度の故障かなど、詳細は明らかにされておらず、果たして復帰できるかどうかも不明だが、完調で戦線に戻れれば、大きなところを狙える器であろう。ぜひ忘れずに覚えておきたい馬である。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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