関屋記念は、単勝オッズ6.6倍(3番人気)のトゥードジボンが優勝(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
低額配当決着となった年が多い点に注意したい
AIマスターM(以下、M) 先週は関屋記念が行われ、単勝オッズ6.6倍(3番人気)のトゥードジボンが優勝を果たしました。
伊吹 手綱を取った松山弘平騎手にとっては、終始レースを支配することに成功して最高の結果を手繰り寄せた、会心の勝利だったのではないでしょうか。7枠15番からの発走でしたが、好スタートを決めてすぐ先頭に立ち、内の各馬を牽制しながらインコースへ。2番手のラインベック(7着)らに対して1馬身ほどのリードをキープしたまま3〜4コーナーを通過しています。ゴール前の直線に入っても脚色は衰えず、内回りコースとの合流地点、残り400mほどのところで追い出して後続を突き放す形に。先団からしぶとく伸びたディオ(2着)、大外から追い込んだジュンブロッサム(3着)らが差を詰めたものの、結局ディオに1馬身1/2差をつけて入線しました。この馬向きのペースだったとはいえ、こういった展開に持ち込むことができたのは、人馬にそれを可能とするだけの資質があったからこそ。恐れ入りましたと言うほかありません。
M トゥードジボンは重賞初制覇。前走の米子Sに続く連勝でサマーマイルシリーズにおける獲得ポイントは18となり、現在のところ単独トップです。
伊吹 10ポイントで単独2位のアルナシーム、9ポイントで単独3位のディオが京成杯AHを勝たなければ、シリーズ王者のタイトル獲得が確定。アルナシームは京成杯AHをスキップして富士Sに出走予定とのことですし、チャンピオンの座を手中に収める可能性はかなり高いと見て良いのではないでしょうか。母のコッパは現役時代にヴィクトリーライドS(米G3)を勝っている馬で、トゥードジボンが初仔。この母や、父であるイスラボニータの今後を占ううえでも、引き続き注目しておくべき一頭だと思います。自分の形に持ち込むことができればそうそう崩れないでしょうから、強敵相手のレースでも侮れません。
M ちなみに、3着となったジュンブロッサムは前回の当コラムでAiエスケープが注目馬に指名していました。
伊吹 結果的には単勝1番人気でしたが、単複の支持率はプレサージュリフト(5着)とあまり変わらない水準。明らかに不利なペースとなった中で複勝圏内を確保したわけですし、決して悪い見立てではなかったと思います。レパードSのミッキーファイト(1着)、アイビスSDのウイングレイテスト(2着)など、ここ最近はAiエスケープの推奨した馬が非常に堅実。波に乗っているようなので、この調子のまま夏季競馬の後半戦を戦い抜いてもらいましょう。
M 今週の日曜札幌メインレースは、サマー2000シリーズの第4戦であり、実績馬が多く出走してくる一戦としても知られている真夏の大一番、札幌記念。昨年は単勝オッズ5.1倍(2番人気)のプログノーシスが優勝を果たしました。なお、その2023年は単勝オッズ49.6倍(9番人気)のトップナイフが2着に食い込んだこともあり、3連単16万8930円の好配当決着。今年も伏兵の台頭を警戒しておいた方が良さそうですか?
伊吹 過去10年の札幌記念における3連単の配当を振り返ってみると、10万円を超えたのは2015年(23万3540円)・2017年(20万1410円)・2023年の計3回。ただし、残る7回はいずれも2万5千円未満でしたから、むしろ堅く収まりがちなレースと見ておいた方が良いかもしれません。
M 単勝7番人気以下の馬は優勝例がなく、3着内率も6.0%にとどまっています。
伊吹 より実態に即した区切り方をすると、単勝2番人気から単勝5番人気の馬は2014年以降[9-2-5-24](3着内率40.0%)、単勝6番人気から単勝9番人気の馬は2014年以降[1-3-2-34](3着内率15.0%)、単勝10番人気以下の馬は2014年以降[0-1-0-53](3着内率1.9%)となっていました。人気薄の馬から買うのは別に構わないと思うのですが、買い目作りにおいては上位人気グループの各馬を安易に軽視してしまわないよう心掛けるべきでしょう。
M そんな札幌記念でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ドゥラエレーデです。
伊吹 興味深いところを挙げてきましたね。それなりの注目は集まると思いますが、人気の中心ということはないはず。
M ドゥラエレーデは4歳馬。2歳時にホープフルSを制しているうえ、昨年のチャンピオンズCと東京大賞典で3着となった実績もあります。もっとも、芝のレースを使うのは2023年のセントライト記念(8着)以来で、およそ11か月ぶり。前走のエルムSから中1週という異例の臨戦過程もあり、取捨に悩んでいる方が多いのではないでしょうか。
伊吹 人気の度合いに関しては、馬券の発売が始まるまで何とも言えませんね。それなりに妙味あるオッズがつくことを祈りつつ、調子の良いAiエスケープが有力視している点を踏まえ、好走馬の傾向とこの馬のプロフィールを見比べていきたいと思います。
M ポイントになりそうなファクターはどのあたりですか?
伊吹 近年の札幌記念は、2200m未満のレースに実績のある馬が優勢。“JRAの、2200m未満の、GI・GIIのレース”において2着以内となった経験がある馬は2018年以降[5-5-4-20](3着内率41.2%)でした。一方、この経験がなかった馬のうち“中山の、GI・GIIのレース”において2着以内となった経験もなかった馬は、3着内率が2.2%にとどまっています。
M 2200m未満のGIやGII、もしくは中山のGIやGIIにおける戦績が重要、と。
伊吹 もともと実績馬が強いレースですし、GIIIやオープン特別のレースを主戦場としてきた馬は強調できません。
M 先程も触れた通り、ドゥラエレーデは中山芝2000m内で施行されたホープフルSの勝ち馬。この点は強調材料のひとつと見て良いのではないでしょうか。
伊吹 あとは馬齢にも注目しておいた方が良さそう。同じく2018年以降の3着以内馬18頭中16頭は、馬齢が5歳以下でした。
M 高齢馬は苦戦していますね。
伊吹 今年は6歳以上の実績馬が多いので、例年以上に強く意識しておいた方が良いかもしれません。
M 逆に言うと、4歳のドゥラエレーデにとっては心強い傾向です。
伊吹 さらに、同じく2018年以降の3着以内馬18頭中17頭は、前走がGIのレースか鳴尾記念でした。
M こちらもはっきりと明暗が分かれています。
伊吹 ちなみに、前走の条件がGIだった馬は2018年以降[5-6-4-25](3着内率37.5%)。基本的にはビッグレースからの直行組を重視するべきでしょう。
M 前走がエルムSである点は、ドゥラエレーデが抱える不安要素のひとつと言えそうですね。
伊吹 ただ、今年は出走予定馬の大半が何かしらの不安要素を抱えているので、無理に嫌う必要はないかもしれません。もともと私も、人気薄ならそれなりに重いシルシを打とうと考えていました。さすがに伏兵扱いはできなさそうな雰囲気ですが、Aiエスケープが高く評価しているのであれば、連軸候補の一頭として取捨を検討したいところ。最終的なオッズも踏まえたうえで、買い目上の位置付けを決めたいと思います。