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【吉村智洋騎手】WASJ参戦! 地方全国リーディング3度の名手を徹底解明──その技術と準備の裏側に迫る

  • 2024年08月21日(水) 18時01分
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▲WASJに挑む吉村智洋騎手に直撃(撮影:大恵陽子)


世界中の名手と、日本のスタージョッキーが競演するワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)。今年も8月24日、25日の2日間4戦にわたって札幌競馬場で行われます。

唯一の地方競馬代表枠として出場するのは、2022年、23年と2年連続で地方全国リーディングに輝いた吉村智洋騎手(園田・姫路)。今春、JRAでデビューした吉村誠之助騎手の父でもあります。どんなレースが得意で、どんな人なのか。WASJを前に徹底解明します。

(取材・構成:大恵陽子)

「たぶん吉村くんが優勝だよ」予選で森泰斗騎手からの言葉


──2019年以来2回目となるWASJ出場、おめでとうございます。

吉村 ありがとうございます。19年に出場した時には「次はもうないんじゃないかな」と思っていました。地方競馬の騎手はおそらくみんなが「行きたい!」と思っているレースなので嬉しいです。WASJでは抽選で騎乗馬が当たるので、3勝クラスの1番人気の馬に乗れる可能性もありますから、その乗り味を感じてみたいなと思います。それに、地方競馬からは1年に1人しか出られません。まずは地元でリーディングを獲るところから始まって、その中から予選を勝ち抜いての出場ですから、思いも強いです。

──地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップという、各地のリーディングジョッキーが集う戦いで優勝せねば、WASJには出場できないですからね。同レースは今年、園田競馬場で2戦が行われ、吉村騎手は第1戦で8着ながら、第2戦を勝って総合優勝を手にしました。

吉村 馬も強かったです。騎乗馬は抽選なんですけど、偶然前走で乗って僅差の2着だった馬でした。その前走は高知からの移籍で間隔が空いていて、勝ち馬は走る馬で接戦で負けましたけど、そこから上積みもあって自信を持って乗りました。僕の庭でもある園田競馬場でやる以上は、負けてしまうと地元の威厳が保てないと思っていました。

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▲総合優勝を手繰り寄せた地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップ第2戦の勝利。(撮影:大恵陽子)


──しかし、総合順位は拮抗していました。第1戦を勝った森泰斗騎手が7着以上なら彼が優勝。ハラハラドキドキしたのでは?

吉村 第1戦がもう少し上の着順だったらドキドキしなくてよかったんでしょうけどね。2戦目のゴール後、1コーナーくらいで後ろを振り返ったら森騎手が見えなくて、「あれ? ワンチャン優勝もあるのかな!?」と意識しました。そうしたら帰りがけに森さんから「たぶん吉村くんが優勝だよ」と。「何着ですか?」「たぶん8着」というやり取りをしました。

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▲レース後報道陣に手を振って応える吉村智洋騎手(撮影:大恵陽子)


──ともに1着と8着で着順に応じたポイントは同点ですが、最終戦で上位着順の騎手が優勝というルールがありますからね。

吉村 森さんが7着なら完全に抜かれていましたから、ガッカリしていたでしょうね。

──「園田は僕の庭」とよく言っていますが、コースやレースの特徴は?


吉村 小回りコースで、直線も213mしかないので、どうしても先行争いが激しくなります。その日の馬場傾向にもよりますけど、基本は逃げか2番手外か逃げ馬の後ろの3つが一番いいポジションと言われています。みんながそこをめがけてレースを組み立てるので、先行争いの激しさが一番の売りです。

──“園田ペース”と呼ばれるものがあって、最初のコーナーでグッとペースが落ちてスローのヨーイドンになるのも特徴だと感じます。

吉村 そうですね、隊列が決まるとグッとペースが落ちます。だから、後ろの馬はいつまでも押していっちゃうと引っ掛かって終わってしまうので、前に行けないと思ったら周りをパッと見て「ここなら内に入れるかな」とか瞬時に判断していかないといけません。

 もう一つ、園田で面白いのが「3角捲り」というのがあって、向正面に入ると外に出して、後方から一気に脚を伸ばして3コーナーまでに捲りを決める、という荒業もあります。

──日本ダービーのレイデオロのような。

吉村 レイデオロは捲って2番手外に収まりましたけど、イメージ的にはそんな感じです。園田は直線も短いですから、3コーナーまでに捲りきって内に入れられれば、残る可能性が高いです。3コーナー頂点から下り坂なので、馬もある程度楽です。そんな風に入れ代わり立ち代わりが激しいレースもちょいちょいあります。

ストレッチの鬼「検量室とパドック控室では違うストレッチを」


──小回りコースで豊富な経験を持つ吉村騎手が、ご自身で思うセールスポイントは?

吉村 スタートから出していっても、馬の力を損なわないように抑えられることじゃないですかね。

──それが可能なのはどんな理由からですか? 馬とのコンタクトの取り方、重心の位置、ご自身の筋力など。

吉村 たぶん全てだと思います。バランスもそうですね。あとは馬の特性をある程度、把握しておくことだと思います。

──吉村騎手はムキッとした筋肉がついていますけど、レース前には様々なストレッチもしていますね。

吉村 ストレッチはルーティンで、それぞれの場面で決まったストレッチをしています。レース前は風呂場でそれなりにストレッチをしているので、検量室に来た時には腰を捻って動かしたり、股関節を広げたりしています。パドックの控室に行ってからは足の裏、腕、背中を伸ばしています。

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▲その日の最初の騎乗前、検量室前で行うストレッチ。腰を捻ったり、股関節を広げています。(撮影:大恵陽子)


──園田といえば今月、小牧太騎手が復帰して盛り上がっています。小牧騎手は「泣き虫ジョッキー」と言われていますけど、吉村騎手は?

吉村 僕、泣かないですね。師匠の橋本忠男調教師が引退前、最後の重賞をエイシンニシパで勝てた時は、表彰式の帰りに歩きながら泣きました。でも、自分が勝って嬉しくて泣くことはないです。息子の誠之助がJRA初勝利を挙げた時もテンションが上がって叫んでいただけです。

──となると、WASJで勝っても涙はなさそうですね(笑)。WASJ前に、JRAファンにぜひアピールを。

吉村 僕が吉村誠之助の父です(笑)。僕の中では2年連続地方全国リーディングを獲った昨年が一つの区切りで、今年は「楽しく怪我なく乗ること」を目標にしています。だからといって手を抜くわけではなく全力で乗っていて、WASJも全力で楽しみたいですね。
(文中敬称略)

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ジョッキーや調教師など、毎週“旬”な競馬関係者にインタビュー。netkeiba特派員がジョッキーや調教師、厩舎スタッフなど、いま最も旬な競馬関係者を直撃。ホースマンの勝負師としての信念から、人気ジョッキーのプライベートまで、ここだけで見せてくれる素顔をお届けします!

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