単勝オッズ11.7倍(6番人気)のトータルクラリティが優勝(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
堅く収まる可能性は低いと見ておいた方が良いかも
AIマスターM(以下、M) 先週は新潟2歳Sが行われ、単勝オッズ11.7倍(6番人気)のトータルクラリティが優勝を果たしました。
伊吹 着差以上の完勝と言って良いのではないでしょうか。素晴らしいスタートを決めたものの無理には行かせず、向正面の半ばまでは中団の外めを追走。そこから少しずつポジションを押し上げ、3コーナー入口では先行したシンフォーエバー(9着)、ケイテンアイジン(10着)のすぐ後ろにつけています。その後、4コーナーを回り切ったところで先行勢を捕らえにかかり、内回りコースとの合流地点あたりで早くも単独先頭に。残り200m地点を過ぎたところで後方から伸びてきたコートアリシアン(2着)に一旦追い抜かれてしまいましたが、そこからしぶとく差し返し、最後は逆に1/2馬身の差をつけて入線しました。プロクレイア(3着)らにはより決定的な差をつけていましたし、仕掛けのタイミングや通ってきたコースを考えれば、仮に2着どまりだったとしても高く評価できるような内容。最後の最後まで諦めずに追った北村友一騎手も、そのアクションに応えて再逆転を果たしたトータルクラリティも、本当にお見事です。
M トータルクラリティはデビュー戦から2連勝で重賞のタイトルを獲得。昨年の新潟2歳Sを制したアスコリピチェーノは年末の阪神JFも勝ってJRA賞最優秀2歳牝馬に選出されていますし、この馬も今秋以降の大舞台で注目を集めることになるでしょう。
伊吹 トータルクラリティはアスコリピチェーノと同じノーザンファーム生産馬で、近親のスルーセブンシーズは昨年の宝塚記念で2着に、凱旋門賞で4着に健闘。母のビットレート、2代母のスルーレートも、それぞれ現役時代にJRAで2勝をマークしています。クロノジェネシス、ステラヴェローチェ、ビッグウィークといった個性的な活躍馬を多数輩出しているバゴの産駒で、まだまだ伸びしろがありそう。今後も目が離せません。
M ちなみに、2着となったコートアリシアンは先週の当コラムでAiエスケープが注目馬に指名していました。
伊吹 結果的に敗れてしまったとはいえ、こちらも強かったですね。連対は果たしたわけですし、見立て通りの好走だったと言って良いでしょう。前回お伝えした通り、正直なところコートアリシアンはレースの傾向を見る限りだと強調しづらかった馬。私は本命がトータルクラリティ、対抗格にプロクレイアという馬券で勝負したのですが、コートアリシアン絡みの目はあまり厚く買っておらず、大きく儲けることはできませんでした。長く好調をキープしているAiエスケープが有力と見ていたわけですから、この馬に逆らって高額払い戻しを狙ったのは悪手だったかもしれません。
M 今週の日曜新潟メインレースは、夏季競馬ラストウィークの名物競走としておなじみのサマー2000シリーズ最終戦、新潟記念。昨年は単勝オッズ5.0倍(2番人気)のノッキングポイントが優勝を果たしています。なお、その2023年は単勝オッズ28.7倍(7番人気)のユーキャンスマイルが2着に、単勝オッズ52.1倍(10番人気)のインプレスが3着に食い込んだこともあって、3連単22万1290円の好配当決着。ハンデキャップ競走ですし、波乱の決着をイメージしておいた方が良いのでしょうか。
伊吹 2022年には単勝オッズ22.0倍(10番人気)のカラテが、2021年には単勝オッズ42.8倍(12番人気)のマイネルファンロンが勝利。3連単の配当はここ3年連続で20万円を超えていますし、やはり伏兵の台頭を警戒しておきたいところです。
M 過去10年の単勝人気順別成績を見ても、3着以内馬30頭のうち11頭を単勝7番人気以下の馬が占めています。
伊吹 さすがに単勝14番人気以下の馬は2014年以降[0-0-0-39](3着内率0.0%)だったものの、単勝4番人気から単勝13番人気の馬は2014年以降[4-6-7-83](3着内率17.0%)。中位人気くらいの馬も単勝10番人気前後の馬も好走率はさほど変わりません。人気薄の馬を積極的に狙う価値があるレースと言えるでしょう。
M そんな新潟記念でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、アリスヴェリテです。
伊吹 なかなか面白いところを挙げてきましたね。超人気薄ということはなさそうですが、上位人気グループの一角を占める可能性は低いはず。
M アリスヴェリテは2連勝中の4歳牝馬。格上挑戦だった前走のマーメイドSを逃げ切り、重賞初制覇を果たしています。もっとも、そのマーメイドSは牝馬限定のハンデキャップ競走で、当時の負担重量は50kg。今回は牡馬相手のレースですから、思いのほか妙味あるオッズがつくかもしれません。
伊吹 前走は大逃げの形に持ち込めたことが勝因のひとつだったと思いますし、舞台が新潟芝2000m外に替わる点も不安視されそうですよね。積極的に狙おうと考えている方も、思い切って軽視しようと考えている方も、それぞれかなり多いはず。Aiエスケープが前者の立場である点を踏まえたうえで、好走馬の傾向とこの馬のプロフィールを見比べていきたいと思います。
M 最大のポイントはどのあたりでしょうか?
伊吹 古馬重賞における実績はひと通りチェックしておきたいところ。2019年以降の3着以内馬15頭中10頭は“JRAの、3歳以上・4歳以上の、重賞のレース”において2着以内となった経験がある馬でした。
M 重賞で善戦したことのない馬はもちろん、2歳限定や3歳限定の重賞でしか好走したことがない馬も、過信禁物と見ておいた方が良さそうですね。
伊吹 ちなみに、この経験がなかったにもかかわらず3着以内となった5頭は、いずれも前走との間隔が中8週以上、かつ前走の4コーナー通過順が9番手以内。古馬重賞にこれといった実績がないうえ、十分な休養を挟みつつここを狙ってきた――というわけでもない馬は、疑ってかかるべきだと思います。
M 先程も触れた通り、アリスヴェリテは古馬重賞のマーメイドSを勝ったばかり。強調材料のひとつとみなして良いでしょう。
伊吹 あとは血統も明暗を分けそうなファクターのひとつ。父にサンデーサイレンス系種牡馬を持つ馬は、2019年以降の3着内率が11.3%にとどまっていました。
M こちらは少々気掛かりな傾向。アリスヴェリテの父、キズナはサンデーサイレンス系種牡馬です。
伊吹 もっとも、父がサンデーサイレンス系種牡馬、かつ前走の4コーナー通過順が5番手以内だった馬は2019年以降[1-1-2-10](3着内率28.6%)とまずまず。先行力が高い馬であれば、評価を下げる必要はありません。
M なるほど。アリスヴェリテは前走を逃げ切っていますから、減点しなくて良い側の一頭ということになります。
伊吹 さらに、同じく2019年以降の3着以内馬15頭中13頭は、前走の馬体重が470kg以上でした。
M 小柄な馬は割り引きが必要、と。
伊吹 昨年も単勝オッズ2.5倍(1番人気)の支持を集めたサリエラが7着に敗れていますし、この条件をクリアしていない馬は扱いに注意するべきでしょう。
M アリスヴェリテは前走の馬体重が468kg。ギリギリではあるものの、残念ながらクリアできていません。
伊吹 これくらいなら大目に見て良いような気もするのですが……何とも悩ましいですね。私自身、この馬に関してはまだ最終的なシルシを決めかねているところ。ただ、不安要素は比較的少ないわけですし、好調なAiエスケープも高く評価しているのですから、相応のシルシを打つことになると思います。魅力を感じるオッズがついていたら、素直に狙って良いのではないでしょうか。