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アーバンシックが菊への切符を獲得 名馬ディープインパクトにも通じる血統背景を深掘り

  • 2024年09月17日(火) 18時00分

血統で振り返るセントライト記念


【Pick Up】アーバンシック:1着

 11着と大敗した前走の日本ダービーは、異例の超スローペースとなり、レースのラスト1000mはレース史上最速の56秒8。前に行った馬、内を回った馬しか勝ち負けに加われない特殊なレースでした。4コーナー15番手で直線大外に持ち出したこの馬が勝負にならなかったのは致し方ありません。

 気性面が幼く、折り合いに難があるため、レースぶりに大きな制約がある馬です。ただ、ひと夏を越して気性的な成長がうかがえました。後方ではなく中団で折り合えたのは収穫です。末脚の威力はメンバー中一番なので、直線では楽に抜け出しました。

 ホープフルSを勝ったレガレイラとは“父が同じで母同士が全姉妹”という関係。血統構成は100%同じです。牝系はディープインパクトの母として名高いウインドインハーヘアにさかのぼります。ディープインパクトもそうでしたが、アーバンシックとレガレイラも後ろからレースを進めるという共通点があります。

 母方にダンジグを持つスワーヴリチャード産駒は成功しており、アーバンシックとレガレイラの他に、スウィープフィート(チューリップ賞)、コラソンビート(京王杯2歳S)、パワーホール(札幌2歳S-2着、共同通信杯-3着)などが出ています。この配合は中山芝で13戦して[4-2-1-6]。勝率30.7%、連対率46.1%と抜群の成績です。

 一度使ってこのあとテンションが高くならなければ、菊花賞でも有力候補の一頭でしょう。

血統で振り返るローズS


【Pick Up】クイーンズウォーク:1着

 グレナディアガーズ(朝日杯FS、阪神C)の半妹。母ウェイヴェルアベニューは現役時代にBCフィリー&メアスプリント(米G1・ダート7ハロン)を勝った名牝です。本馬は兄よりも馬体に伸びがあり、陣営は以前から「兄とは似ていない」とコメントしています。

 母方にアンブライドルドを持つキズナ産駒は、スタンダードなキズナ産駒よりもややスタミナ型に出る傾向があります。中距離のレンジであればスタミナ切れを起こすことはないでしょう。

 父キズナは現在、中央と地方を合算して34億円あまりを稼ぎ、ロードカナロアに4億円強の差をつけて総合種牡馬ランキング首位。JRAの重賞勝利数は10勝一番乗りです。現3歳のキズナ産駒は、皐月賞馬ジャスティンミラノが天皇賞(秋)、シックスペンスが毎日王冠、サンライズジパングがジャパンダートクラシックと、菊花賞や秋華賞以外に向かう馬も多く、手駒が豊富。リーディングサイアー争いではかなり有利な立場にあるといえるでしょう。

 クイーンズウォークはこれで秋華賞が射程圏内に入りました。キズナ産駒は京都芝2200mで連対率41.1%と驚異的な成績を挙げているので、先の話ではありますが、エリザベス女王杯に出てくるようなら楽しみです。

知っておきたい! 血統表でよく見る名馬


【トニービン】

 20世紀半ば過ぎまでのイタリア競馬は、オルテッロ、ネアルコ、リボーといった名馬がターフを彩り、ヨーロッパのなかでも確固たる地位を保っていました。しかし、1970年代以降は徐々に斜陽化が進み、1980年代には誰の目にも衰退が明らかな状況となっていました。1984年秋、近年のイタリア最強馬との評判で来日したウェルノールは、ジャパンCの前哨戦として富士Sに出走し、断然人気を裏切ってアローボヘミアンの3着と敗れました(本番は9着)。

 そんな状況のなか現れたのがトニービンです。当歳秋、アイルランドのセールでイタリア人が購買(当時の邦貨で約65万円)し、同国の調教馬となりました。4歳を迎えて本格化すると、この年にG1を3勝。フランスに遠征して凱旋門賞2着と健闘しました。5歳時にはさらにスケールアップし、ついにイタリア調教馬として1961年のモルヴェド以来27年ぶりの凱旋門賞制覇を果たしました。

 翌1989年からわが国の社台スタリオンステーションで種牡馬入り。2000年まで12年間供用され、エアグルーヴ、ジャングルポケット、ウイニングチケット、ベガ、ノースフライトなど多くの活躍馬を出しました。1994年にはチャンピオンサイアーの座に就き、90年代後半にはサンデーサイレンス、ブライアンズタイムと合わせて“種牡馬御三家”とも称されました。総合種牡馬ランキングでは他に2位が3回、3位が5回あります。

 長くいい脚を使えるタイプで、東京コースの鬼。馬体は中型で、ヨーロッパ血統らしい成長力があり、気性的には難しいところもありました。母の父としてはハーツクライ、アドマイヤベガ、ルーラーシップ、カレンチャンといった芝の一流馬だけでなく、トランセンド、アドマイヤドンといった砂の名馬も出しています。スタミナ、底力、持続力の源としていまなお影響力の強い血です。

血統に関する疑問にズバリ回答!


「地方競馬における種牡馬の年間最多勝記録は?」

 ウェブで調べられる限りにおいては、2018年にサウスヴィグラスが記録した「432勝」です。

 稼働している産駒数が多くなければこれだけの数字を残すことは困難です。1980年代に7年連続勝利数ランキングで首位となったボールドコンバタントは、1982年の175勝が最多記録でした。

 受胎させる技術の進歩により、少ない交配回数で受胎させることが可能となり、その結果として人気種牡馬は1頭あたりの産駒数が増えました。ダートサイアーとしてのサウスヴィグラスの人気は高く、種牡馬生活の中期以降、毎年コンスタントに100頭以上の産駒が誕生し、それらが全国の競馬場で勝ちまくりました。2013年に初の300勝超え(340勝)、2016年に400勝超え(401勝)を果たし、2018年にパーソナルベストかつ歴代最多勝記録を樹立しました。

 サウスヴィグラスは300勝以上を9回記録し、そのうち5回は400勝以上。その他の種牡馬の最多勝記録はゴールドアリュールの301勝(2018年)ですから、いかにサウスヴィグラスが突出していたかが分かります。

 ちなみに、アングロアラブの年間最多勝記録は、1977年にタガミホマレが記録した710勝。同馬は、自身の年間最多種付け頭数が270頭という恐るべき種牡馬で(サウスヴィグラスは212頭)、なおかつ当時のアラブは競走数が多く、短い間隔でタフに走りまくったので、これだけの数字が出たというわけです。

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netkeibaでもおなじみの血統評論家・栗山求氏が血統の面白さを初心者にもわかりやすくレクチャー。前週の振り返りや、週末行われるレースの血統的推し馬、豆知識などを通して解説していきます。 関連サイト:栗山求の血統BLOG

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