単勝オッズ28.5倍(9番人気)のルガルが優勝(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
上位人気グループの馬が優秀な成績を収めている
AIマスターM(以下、M) 先週はスプリンターズSが行われ、単勝オッズ28.5倍(9番人気)のルガルが優勝を果たしました。
伊吹 上位入線馬のオッズだけ見れば波乱の決着なのですが……何と言うか、もう単純にルガルの強さが際立った一戦ですね。好スタートを決めて先行争いに加わり、道中は3番手のポジションを追走。ハナを切ったピューロマジック(8着)が3コーナーから4コーナーでオーバーペース気味に後続を引き離したものの、ルガルも臆することなく追いかけていき、2番手だったウイングレイテスト(14着)にゴール前の直線入り口で早くも並びかけています。そんな態勢から、まずすぐ後ろにいたビクターザウィナー(6着)を突き放し、残り200m地点過ぎの急坂で並ぶ間もなくピューロマジックを逆転。決勝線の手前で迫ったトウシンマカオ(2着)、ウインマーベル(5着)、ナムラクレア(3着)、ママコチャ(4着)らの追撃も、余裕をもって凌ぎ切りました。横綱相撲と言って良いくらいの内容だったと思いますし、鞍上の西村淳也騎手も、「この馬が一番強い」くらいの気持ちを持っていなければこんなレース運びは選択しなかったはず。人馬ともにお見事と言うほかありません。
M ルガルはGI初制覇。2走前のシルクロードSを勝っているとはいえ、単勝1番人気の支持を集めた前走の高松宮記念では10着に敗れてしまいましたし、好走確率はそれほど高くないと見ていた方が多かったのではないでしょうか。
伊吹 高松宮記念のレース中に骨折していたこともあり、今回は約半年の休養明け。正直なところ、私も厳しい戦いになるのではないかと思っていました。コース適性や枠順など、他にもさまざまな不安要素を抱えていたわけですから、本当に価値のある勝利です。
M ビッグタイトルを獲得したことで、今後はさらに注目が集まるのではないかと思います。
伊吹 ルガルの父はドゥラメンテで、ドゥラメンテ産駒がJRAGIを制したのは13回目。3歳牝馬クラシック戦線で圧倒的な強さを見せたスターズオンアース・リバティアイランド、ステイヤーとして活躍したタイトルホルダー・ドゥレッツァなど、幅広いカテゴリでスターホースを輩出してきました。もっとも、残念ながら2021年の夏にこの世を去っており、2022年生まれの現2歳世代がラストクロップ。現在は後継種牡馬たちに対する期待が高まっているところで、当然ながらルガルも有力候補の一頭だと思いますから、そういった意味でも目が離せません。
M 今週の日曜東京メインレースは、天皇賞(秋)やマイルCSなどの前哨戦としておなじみの名物重賞、毎日王冠。昨年は単勝オッズ17.5倍(4番人気)のエルトンバローズが優勝を果たしています。ちなみに、その2023年は単勝オッズ2.0倍(1番人気)のソングラインが2着に、単勝オッズ2.9倍(2番人気)のシュネルマイスターが3着に食い込んだこともあって、3連単1万2920円の低額配当決着。堅く収まりがちというイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。
伊吹 実際、3連単の配当が10万円を超えたのは、現在のところ2014年(38万8350円)が最後。2015年から2023年までの計9回における3連単の配当は、平均値が1万7358円、中央値が1万170円です。
M 過去10年の単勝人気順別成績を見ても、人気薄の馬はあまり上位に食い込めていません。
伊吹 より実態に即した区切り方をすると、単勝2番人気から単勝5番人気の馬は2014年以降[2-8-7-23](3着内率42.5%)、単勝6番人気から単勝11番人気の馬は2014年以降[1-1-3-53](3着内率8.6%)、単勝12番人気以下の馬は2014年以降[0-0-0-13](3着内率0.0%)となっていました。連対率が8割に達している単勝1番人気馬はもちろん、上位人気グループを形成している2番手以下の各馬も、無理に嫌わない方が良いでしょう。
M そんな毎日王冠でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ヨーホーレイクです。
伊吹 面白いところを挙げてきましたね。おそらく上位人気グループの一角を占めることになると思いますが、単勝1番人気ということはなさそう。
M ヨーホーレイクは6歳の秋を迎えたものの、まだキャリア10戦。丸2年以上に渡る長期休養を挟んで今春から戦線へと復帰し、前走の鳴尾記念で久々の重賞制覇を果たしています。もっとも、2000m未満のレースを走るのはデビュー戦以来で、東京のレースを使うのも3歳時の日本ダービー以来。このあたりを不安視している方は少なくないかもしれません。
伊吹 予想や買い目作りのカギを握る一頭と言えそうですね。Aiエスケープが有力視していることを踏まえたうえで、この馬のプロフィールを好走馬の傾向と照らし合わせていきましょう。
M 真っ先に注目しておくべきポイントはどのあたりだと考えていますか?
伊吹 近年は前走好走馬が圧倒的に優勢。2019年以降の過去5年に限ると、前走で5着以下に敗れていた馬はまったく上位に食い込めていません。
M これはわかりやすい。前走の内容を素直に評価した方が良さそうですね。
伊吹 2022年には前走のヴィクトリアマイルで12着に敗れたレイパパレが出走し、単勝2番人気の支持を集めながらも4着に敗退。たとえビッグレースからの直行組であっても、大敗直後の馬は疑ってかかるべきでしょう。
M 先程も触れた通り、ヨーホーレイクは前走の鳴尾記念で勝利を収めている馬。この点は強調材料のひとつと言えます。
伊吹 あとは臨戦過程も重要。同じく2019年以降の3着以内馬15頭中13頭は、前走との間隔が中13週以上でした。
M 休養明けの馬が中心、と。
伊吹 今年の場合だと、7月以降のレースを使っている馬は前走から中12週以内。順調に使い込んできた馬よりも、暑い時期をスキップして臨む馬の方が信頼できる一戦です。
M ヨーホーレイクの前走、鳴尾記念が施行されたのは今年の6月1日。この馬自身も休養明けを苦にしないタイプですし、臨戦過程を心配する必要はありませんね。
伊吹 さらに、同じく2019年以降の3着以内馬15頭中14頭は、今回と同じ東京、かつ3勝クラス以上のレースを勝ち切ったことがある馬でした。
M 東京のレースにこれといった実績のない馬は苦戦していますね。
伊吹 2023年はこの条件をクリアしていないエルトンバローズが優勝を果たしたものの、もともと該当馬が4頭しかいませんでしたし、2着のソングラインと3着のシュネルマイスターはいずれも東京のGIを制した実績があった馬。今後も引き続き重視したい傾向です。
M ヨーホーレイクは自身初、そして現状唯一の東京参戦だった3歳時の日本ダービーで7着に敗退。残念ながら、この条件はクリアできていません。
伊吹 正直なところ、私自身はやや懐疑的な立場でした。前走が好内容だったとはいえ、やはり今回はコース適性が気掛かり。オッズ次第ではあるものの、扱いに注意するべきではないでしょうか。ただし、今年は前出の条件を綺麗にクリアしている馬がほとんどいないんですよね。Aiエスケープが有力と見ているわけですし、リスクを取ってまで逆らう必要はまったくないと思います。