▲菊花賞に出走予定のピースワンデュックに騎乗する柴田善臣騎手(撮影:馬切もえ)
菊花賞に挑む3連勝中の上がり馬ピースワンデュック。デビュー戦からコンビを組む鞍上は58歳・柴田善臣騎手です。前走の阿賀野川特別は、大ベテランでさえ「何だコイツ!?」と驚くパフォーマンスだったといいます。
横山典弘騎手や武豊騎手も揃う菊花賞について、「ジジイジャパンだな(笑)」というユーモア溢れる場面も! 豊富な経験から語るピースワンデュックの能力や騎手としての目標、技術の進化まで…。競馬界の相談役が大舞台を前にたっぷり語ります!
(取材・文:馬切もえ)
柴田善臣騎手が明かす“長距離を走るコツ”
──デビュー戦からコンビを組み続けて4戦3勝、2着1回。初めてコンタクトを取った時から素質は感じていたのでしょうか?
柴田善 乗った瞬間に能力は感じたよ。背中の良さや身のこなし、心肺機能。どれも素晴らしかったけど、それ以上にヒドかったのが気性面。確かデビュー前の1週前追い切りだったかな? 全くコントロールが利かずに持っていかれて…。調教時計からすべてメチャクチャ。大変だとは聞いていたけど、完全に想像以上。厩舎スタッフもそんな様子を見て笑ってたけどね(苦笑)。
──それでもデビュー戦は既走馬相手に2着と能力の高さを見せました。
柴田善 ハミを替えて多少はコントロールが利くようになったのと、調教よりは競馬の方が多少はマシ。あとはデビュー戦ということで馬がレースについて分かっていなかったのも良かったのかも。周りに気をつかいながら走っていたから。ただそんな状況でも2着に来て、「やっぱり走る馬なんだ!」と再認識しました。
──続く2戦目で勝ち上がって3連勝。成績だけを見るとトントン拍子です。
柴田善 成績だけ見ればね。本当は普段の調教から大変なんだけど(笑)。とはいえ一戦ごとに成長しているのも確か。コントロールの難しさが悪い方に行っていないから。
──どういうことでしょう?
柴田善 ピースワンデュックのコントロールの難しさって、真っすぐなんだよ。とにかく前へ前へと行きたがる感じ。これが右に左に逃げようとするようになると大変。エネルギーのロスが多くなるし、その次は馬場入りをしぶったりとか、そういう方向に行っちゃうから。だから自分としては競馬や調教を通じて、そうやって悪い方向に行かないように心がけてきたんだよ。
──3000メートルを走るうえで、その“コントロール性”の部分は気になるところです。
柴田善 長距離を走るコツは、いかにロスなく運べるか。それは折り合いだったり、単純に走る距離だけを指すんじゃなくて、フットワークも大切。さっき言ったように右に左にブレながら走ってしまってはロスが大きい。なるべく1本の線をなぞるようにキレイに走らせたいんだ。それには馬の走りだけでなく、ジョッキーの重心とか、馬の邪魔をしない動きも重要なんだけど…。そのあたりを最終追い切りから、当日のパドック、返し馬の気配、さらにはゲートを出た後の雰囲気も含めて考えて、最善の乗り方をしたいね。
──体力的な部分では3000メートルの適性があると思いますか?
柴田善 十分あると思う。最初に言った初めての追い切り。メチャクチャだったにも関わらず一切、息が乱れていなかったんだよね。あとは前走の阿賀野川特別もすごかった。スタートから1コーナー、2コーナーあたりまでガチャガチャしっぱなし。自分の経験上、ああなったら普通はもう“無い”ですよ。でも3コーナーからスーッと上がって、最後は差し切っちゃった。「何だコイツ!?」って感じだよね。まさに着差以上の強さだったし、相当に体力はあるよ。
▲粘り強い走りで阿賀野川特別を制したピースワンデュック(撮影:小金井邦祥)
──中間の気配は?
柴田善 追い切りはもちろん、それ以外の日も乗ったりしているけど、いい感じだね。ちょっとずつ落ち着きだったり、我慢できるところが増えてきています。肉体的にも背中の強さ、体幹の強さは目を見張るものがある。今回の1週前追い切りも荒れた馬場だったうえ、体を伸ばして走るフォームなのにも関わらず、一切バランスを崩さなかった。あのあたりは大したものですよ。あとはハミについても工夫の余地があると思うので、当該週の追い切りまで色々試しながら考えていきます。
──4回東京開幕週のグリーンチャンネルCを勝ったショウナンライシンもそうですが、最近は大竹厩舎との相性がいいですね。
柴田善 難しい馬しか回ってこないけどね(笑)。ピースワンデュックもそうだけど、ショウナンライシンも返し馬からかなり気をつかうんだよ。
▲見事な馬群捌きで勝利に導いたショウナンライシン(撮影:下野雄規)
──それだけ善臣さんの技術を買われているのではないでしょうか?
柴田善 物は言いようだな(笑)。まぁそう思ってもらえてるならありがたいですけど。おかげさまで若い頃からホクトヘリオスとか難しい馬に乗ってきたからね。そういう経験が生きてるのかもしれない。でもこの歳になってそんな馬ばっかりだと、もう体がもたないよ(苦笑)
ベテラン揃い踏みの菊花賞に「昔を思い出すね」
──58歳。JRAの歴代最年長ジョッキーですもんね。
柴田善 勝つたびに、乗るたびに新記録(笑)。周りからは冷やかされるばっかりですよ。
──何歳まで乗りたいとか目標はあるのですか?
柴田善 一切ない。今は出来る限りずっと乗っていたいって思ってる。本当に競馬が楽しい、馬に乗るのが楽しいって思えるから。でも同時に体も昔のように頑丈じゃない。しっかりメンテナンスをしながらやっていきたいね。
▲「本当に競馬が楽しい、馬に乗るのが楽しいって思えるから」(撮影:馬切もえ)
──年齢を重ねながら技術面で進歩を感じる部分はありますか?
柴田善 それはすごくある。簡単に言えば“いかに楽に乗るか”ということ。手を抜くとかではなくて、いかに馬の体力を温存するか。そして自分自身の体力を温存するか。これらを突き詰めると、些細な動きひとつひとつに敏感になって集中できるんだよ。若い頃はこういう部分が雑だったと、今は思う。体力は昔の方があったけど、間違いなく技術は今の方があるよ。
──善臣さんのほか、横山典弘騎手に、武豊騎手…。今年の菊花賞はそんな高い技術をもつベテランが揃い踏みします。
柴田善 おお、パリ五輪馬術の初老ジャパンみたいだね。いや、年齢的に初老じゃないか。ジジイジャパンだな(笑)。冗談はさておき、久々に彼らとGIの舞台で一緒に乗れるのは楽しみ。昔を思い出すね。返し馬からワクワクするだろうなぁ。
──それでは最後に意気込みを。
柴田善 ノリ(横山典弘騎手)の馬(ダノンデサイル)を筆頭に相手は強いと思う。でもピースワンデュックはそういう一線級と対戦していないので、未知の魅力はあるよね。3000メートルの舞台も含めて、やってみないと分からないと思う。能力的には十分やれていいと感じているので、楽しみにしてますよ。
(文中敬称略)