単勝オッズ9.5倍(3番人気)のスタニングローズが優勝(c)netkeiba
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
2021年までは堅めの決着が目立っていた点に注意
AIマスターM(以下、M) 先週はエリザベス女王杯が行われ、単勝オッズ9.5倍(3番人気)のスタニングローズが優勝を果たしました。
伊吹 完勝と言って良いでしょう。好スタートを決めて流れに乗り、行きたい馬を先に行かせて道中は4番手のポジションを追走。4コーナーで早くも先行勢を捕らえにかかり、ゴール前の直線に入ってすぐ先頭のコンクシェル(16着)をかわし去っています。そのまま馬場の外めへと持ち出し、独走態勢に。決勝線の手前でホールネス(3着)、ラヴェル(2着)らが差を詰めたものの、セーフティリードを保ったまま入線しました。強気の仕掛けで後続の追撃を封じたC.デムーロ騎手も、その指示に完璧な走りで応えたスタニングローズも、本当にお見事。こんな競馬をされてしまったら、他の馬はなす術がありませんよね。
M スタニングローズは2022年の秋華賞に続く自身2度目のGI制覇。その秋華賞を最後に優勝から遠ざかっており、今回が約2年ぶりの勝利です。
伊吹 念のため「私の調査した範囲内では」とお断りしておきますが、2年以上に渡って優勝のなかったJRA所属馬がJRAのGIを制したのは、ニホンピロバロンが勝った2018年の中山大障害以来。平地のGIに限るとロゴタイプが勝った2016年の安田記念以来、牝馬に限るとダンスインザムードが勝った2006年のヴィクトリアマイル以来となります。ちなみに、スタニングローズは過去2年以内のレースで3着以内となった実績すらなく、2着のラヴェルも2年以上前の2022年アルテミスSを勝った後は一度も馬券に絡んでいなかった馬。なかなか珍しい決着と言えるのではないでしょうか。大一番に合わせて立て直した両陣営の手腕も光る一戦でした。
M 次走は未定とのことですが、今後も楽しみですね。
伊吹 3歳時にオークスで2着となった実績もある馬ですし、もう少し長い距離も問題なくこなせるはず。牡馬相手のビッグレースでも十分にチャンスはあると思います。いわゆる“薔薇一族”の末裔で、無事に牧場へ帰らなければならない立場ではあるものの、もう何度かレースを使ってくれたら盛り上がりそう。動向を見守りつつ陣営の発表を待ちましょう。
M 今週の日曜京都メインレースは、各世代のトップマイラーが一堂に会する注目の一戦、マイルチャンピオンシップ。昨年は単勝オッズ17.3倍(5番人気)のナミュールが優勝を果たしました。
伊吹 早いもので、ナミュールと藤岡康太騎手の豪快な差し切り勝ちから丸1年、その後の悲劇から約7か月も経ったんですね。ナミュールがまた元気にエントリーしてきてくれたのは嬉しい限り。多くのファンや関係者にとって、感慨深い一戦になるのではないかと思います。
M ちなみに、その2023年は単勝オッズ5.8倍(3番人気)のソウルラッシュが2着に、単勝オッズ27.5倍(7番人気)のジャスティンカフェが3着に食い込み、3連単17万6490円の好配当決着。今年も伏兵の台頭を警戒しておくべきでしょうか?
伊吹 セリフォスが制した2022年も3連単14万2650円と同水準の配当で決着。このくらいの波乱は十分にあり得ると考えておきたいです。ただし、2015年から2021年までの7年間に限ると、3連単の配当は平均値が2万3499円、中央値が1万6580円。荒れやすいレースとはとても言えません。
M 過去10年の単勝人気順別成績を見ると、単勝1番人気馬の3着内率が4割にとどまっている一方で、単勝2番人気から単勝6番人気までの馬が比較的優秀な成績を収めています。
伊吹 より実態に即した区切り方をすると、単勝4番人気から単勝5番人気の馬は2014年以降[4-0-3-13](3着内率35.0%)、単勝6番人気から単勝9番人気の馬は2014年以降[2-1-5-32](3着内率20.0%)、単勝10番人気以下の馬は2014年以降[0-0-0-82](3着内率0.0%)でした。仮に伏兵を狙うとしても、買い目を作る段階で手を広げ過ぎないよう心掛けるべきでしょう。
M そんなマイルCSでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ジュンブロッサムです。
伊吹 話の流れ的にちょうど良い塩梅の馬を挙げてきましたね。超人気薄ということはなさそうですが、ある程度は妙味あるオッズがつくはず。
M ジュンブロッサムは5歳馬。今年6月8日の水無月Sを勝ってオープン入りしたばかりですが、主要な前哨戦のひとつである富士Sを制し、勢いに乗っています。水無月Sは今回と同じ京都芝1600m外で施行されたレースですから、コース適性の高さは証明済み。GI初挑戦とはいえ、積極的に狙おうと考えている方も多いのではないでしょうか。
伊吹 その一方、実績馬との力関係が不明瞭なので、他の馬を中心視する予定の方にとっては悩ましい存在ですよね。Aiエスケープが有力視しているという事実を踏まえたうえで、私はレースの傾向を参考に評価していきたいと思います。
M 最大のポイントはどのあたりでしょう?
伊吹 まずは臨戦過程をチェックしておきたいところ。2018年以降の過去6年に限ると、今回より長い距離のレースを経由してきた馬がやや優勢でした。
M 前走が1マイル以下のレースだった馬は、疑ってかかった方が良さそうですね。
伊吹 ただし、前走の距離が1600m以下、かつ“前年以降の、JRAの、今回と同じ距離の、GI・GIIのレース”において1着となった経験がある馬は2018年以降[3-3-1-16](3着内率30.4%)とまずまず堅実。十分な実績のあるマイラーであれば、前走が1マイル以下のレースであっても評価を下げる必要はありません。
M ジュンブロッサムが制した前走の富士Sは、東京芝1600mで施行されたGII競走。臨戦過程に不安はないとみなして良いでしょう。
伊吹 あとは生産者別成績に偏りがある点も大きな特徴のひとつ。同じく2018年以降の3着以内馬18頭中12頭は、ノーザンファーム生産馬と生産者名義がNorthern Farmの馬でした。
M はっきりと明暗が分かれていますね。
伊吹 互角と言えそうな成績を収めていたのは、セリフォスとペルシアンナイトが好走を果たした追分ファームくらい。他のブリーダーが生産した馬は、割り引きが必要です。
M ジュンブロッサムはノーザンファーム生産馬。こちらの傾向も強調材料のひとつと言えるのではないでしょうか。
伊吹 さらに、同じく2018年以降の3着以内馬18頭中17頭は、キャリア16戦以内でした。
M なるほど。キャリア17戦以上の馬は強調できませんね。
伊吹 古馬GIであることを考えるとかなり高いハードルですが、今年も出走数が比較的少ない馬を重視するべきだと思います。
M ジュンブロッサムはキャリア19戦。残念ながら、この条件に引っ掛かっている側の一頭です。
伊吹 もっとも、今年はキャリア16戦以内の馬が例年よりも少なめ。それもあって、特別登録を行った馬の大半が何かしらの条件に引っ掛かっていました。どちらかと言うとジュンブロッサムは不安要素が少ない方ですし、他ならぬAiエスケープが有力と見ているのであれば、積極的に狙って良いのではないでしょうか。私自身も、実際のオッズを確認したうえで最終的な判断を下したいと思います。