▲ジャパンCに出走予定のシンエンペラーを担当する吉田一成調教助手(撮影:大恵陽子)
この秋、愛チャンピオンS3着と、ヨーロッパで活躍を見せたシンエンペラー。凱旋門賞馬の全弟として挑んだ大一番は12着でしたが、帰国初戦にジャパンCが選ばれ、再びの活躍が期待されます。
この春、日本ダービーの「ゆるい出馬表」ではカラスにまで威嚇しに行くというエピソードが披露された“シンちゃん”。ヨーロッパ遠征を経て、成長も見られるようです。ジャパンCを前に矢作芳人厩舎・吉田一成調教助手に伺いました。
(取材・構成:大恵陽子)
デビュー前は「これは未勝利で終わるかも…」
――この秋はフランスへと渡り、約1カ月半をヨーロッパで過ごしました。初戦の愛チャンピオンS前にはロンシャン競馬場で追い切っていましたね。凱旋門賞が行われる競馬場で追い切りができるんだ、と驚きました。
吉田 日本馬がロンシャン競馬場で追い切ったのは初めてみたいですね。当初、エーグル調教場で追い切りをしていたら、地元の馬場管理のような立場の人が「ロンシャンで追い切ったらいいのに」と。「えっ!追い切れるんですか?」「いけるよ」という会話の流れで行きました。凱旋門賞に向けてスクーリング効果は大きかったです。人間も慣れることができて、そうすれば馬も落ち着くでしょうからね。
――そうしてロンシャン競馬場で追い切った後、まずは愛チャンピオンSに臨みました。昨年の英ダービーなどを制したオーギュストロダンにも迫る3着には興奮しました。
吉田 正直、あそこまで走れると思っていませんでした。8月はじめにトレセンに帰厩した時の状態が良くない中、なんとか競馬まで持っていった感じなので、「恥ずかしくない競馬をしてくれたらいいかな」と思っていました。そうしたらあれだけの小差。凱旋門賞の方が相手関係は少し楽になりそうだったので、みんな「勝てる」と思いました。
――状態が万全ではない中であのメンバー相手に3着ですから、期待は高まりますよね。しかし、凱旋門賞は12着。外枠で終始、内に入れられない展開も厳しかったのでしょうか。
吉田 結果論で言うと、もうちょっと内枠ならタメが利いたかな、とも思いますが、こればっかりはしょうがないですね。レース後はみんなもうね、無言。あそこまで負けるとは思っていませんでしたから……。
――陣営の悔しさやショックはさぞ大きかったと察します。ところで、日本ダービーの頃は他馬だけでなくカラスにまで威嚇していると聞きましたが、いまも変わらずですか?
吉田 だいぶ落ち着いた感じはします。フランスに行ってから落ち着きが出て、だいぶ大人になってきました。いい経験になってくれていたらいいですね。
▲遠征の日々を通じて「だいぶ大人になってきました」(撮影:大恵陽子)
――大きな変化ですね。
吉田 思い返すとデビュー前、最初の追い切りをする前は「これは未勝利で終わるかも……」と感じていたんです(苦笑)。
――えっ! 凱旋門賞馬ソットサスの全弟として大きな注目を浴びていた馬が!?
吉田 あまりにも真面目に走らなかったんです。普段も後ろから馬が来るとすぐに止まっていました。この血統で未勝利で終わったらヤバいな、と思いました。今では普段の常歩もだいぶ真面目に歩くようになりました。
▲デビュー前は意外な評価だったシンエンペラー(撮影:大恵陽子)
――最初の頃、「凱旋門賞馬の弟だ! すごい!」みたいな感覚はありましたか?
吉田 ないことはないですけど、普段意識することはありませんでした。慣れでしょうね。
――少し話はそれますが、吉田調教助手はお父様が佐賀競馬で調教師をしていました。地元・佐賀では先日、初めてJBCが開催され、吉田調教助手はラヴズオンリーユーでBCフィリー&メアターフを勝ち、今夏は凱旋門賞挑戦など、それぞれに活躍していますね。
吉田 ついに佐賀でもJBCを開催する時が来たか、と思いました。テレビで見ていましたけど、すごい人でしたね。これを機にファンが増えてくれたらいいですし、難しいかもしれませんが4〜5年に1回やってくれたらいいのになって思います。僕自身は佐賀にいた頃はBCや凱旋門賞なんて夢にも思ったことがなかったです。遠い世界というかね。ありがたいです。
――さて、シンエンペラーはジャパンCでオーギュストロダンと再戦します。意気込みを聞かせてください。
吉田 今回、帰厩してから状態はいいです。帰ってきてから間隔が少し短い点だけが気になりますけど、それ以外はコースも距離も問題ありません。古馬との戦いもヨーロッパでやってきていますから、楽しみです。馬もジョッキーも、日本の競馬に慣れているのは大きいかなと思います。
(文中敬称略)