単勝オッズ5.3倍(4番人気)のソウルラッシュが優勝(c)netkeiba
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
ここ10年の3着以内馬はすべて7番人気以内
AIマスターM(以下、M) 先週はマイルCSが行われ、単勝オッズ5.3倍(4番人気)のソウルラッシュが優勝を果たしました。
伊吹 強かったですね。スタートがそれほど良くなかったうえ、序盤から積極的にレースを進めた馬が多かったこともあり、道中は10番手前後のポジションを追走。しかし、3コーナーから4コーナーで少しずつ差を詰め、ゴール前の直線に入ったところでは先行した各馬のすぐ後ろに迫っています。残り300mほどの地点で一旦はウインマーベル(3着)が完全に抜け出したものの、その外へ持ち出したソウルラッシュが残り200m地点のあたりで難なく捕らえ、並ぶ間もなく先頭へ。中団からしぶとく伸びたエルトンバローズ(2着)に対してもセーフティリードを保ったまま入線しました。改めてレース映像を観返してみると、鞍上の団野大成騎手は決勝線のかなり手前から左手でガッツポーズしており、完全に立ち上がったのもゴール板を通過する前。あまりにも豪快な“フライング”でしたし、実際にこの件で5万円の過怠金を科せられてしまったわけですが、思わずそうしてしまうくらい最後まで手応えが良かったのでしょう。もう本当に、お見事と言うほかありません。
M ソウルラッシュは悲願のGI初制覇。通算22戦目、国外を含めると7度目のGI挑戦でようやくビッグタイトルの獲得に成功しました。
伊吹 2014年に当時6歳、キャリア28戦のダノンシャークが優勝を果たしているものの、2015年から2023年のマイルCSにおける優勝馬延べ9頭は、いずれも馬齢が5歳以下、かつ出走数が18戦以内だった馬。6歳、かつキャリア21戦でこのレースを勝ち切ったのはまごうことなき快挙です。もちろん、いつGIを勝ってもおかしくないくらい強い馬であることは衆目の一致するところでしたが、晩年にキャリアハイの結果を残すことの難しさは、長く競馬を観ている方であれば自然と理解できるはず。陣営にとっても会心の勝利だったのではないかと思います。
M 次走は香港マイルを予定しているとのこと。ちなみに、初挑戦だった昨年は勝ったGolden Sixtyから約0.5秒差の4着でした。
伊吹 当時3着のナミュールとはクビ差だったうえ、大外を周るロスもありましたから、このレースが合っていないということはないでしょう。今年はマイラーズC(1着)、安田記念(3着)、富士S(2着)、マイルCS(1着)と、過去に出走経験のあるレースばかりを4戦しており、前年以前の当該レースにおける最高着順を下回った例は皆無。この傾向が続くと仮定すれば「悪くとも4着以内」ということになりますし、これだけ勢いに乗っている今なら、2走連続で大仕事をやってのける可能性も十分にありそうです。
M 今週の日曜東京メインレースは、芝中長距離路線の強豪が国内外から集結する秋の大一番、ジャパンC。昨年は単勝オッズ1.3倍(1番人気)のイクイノックスが優勝を果たしました。ちなみに、その2023年は単勝オッズ3.7倍(2番人気)のリバティアイランドが2着、単勝オッズ26.6倍(5番人気)のスターズオンアースが3着となり、3連単1130円の低額配当決着。堅く収まりがちなレースと見ておいた方が良いのでしょうか。
伊吹 ジャパンCにおける3連単の配当を振り返ってみると、10万円を超えたのは2013年(22万4580円)が最後。2017年以降に至っては2万円を超えた年すらなく、平均値が7140円、中央値が2690円にとどまっています。
M 過去10年の単勝人気順別成績を見ても、7番人気以下の馬はほとんど上位に食い込めていませんね。
伊吹 より実態に即した区切り方をすると、単勝4番人気から単勝5番人気の馬は2014年以降[3-3-2-12](3着内率40.0%)、単勝6番人気から単勝7番人気の馬は2014年以降[0-1-2-17](3着内率15.0%)、単勝8番人気以下の馬は2014年以降[0-0-0-98](3着内率0.0%)となっていました。伏兵の台頭は基本的に期待できないレースと見るべきでしょう。
M そんなジャパンCでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ソールオリエンスです。
伊吹 面白いところを挙げてきましたね。人気の中心ということはなさそうですが、それなりの支持は集まるはず。
M ソールオリエンスは昨年の皐月賞を勝っている4歳馬。今回と同じ東京芝2400mが舞台だった日本ダービーでも、勝ったタスティエーラとクビ差の2着に健闘しています。前走の天皇賞(秋)は7着どまりだったものの、勝ち馬ドウデュースとの差はわずか0.4秒。休養明け2戦目で上積みもありそうですし、妙味ある存在と見ている方も多いのではないでしょうか。
伊吹 2走前の宝塚記念(2着)も、ブローザホーンに2馬身離されたとはいえ、上がり3ハロンタイム順位は1位タイ。状態面を心配する必要はなさそうですね。Aiエスケープが有力と見ていることを踏まえたうえで、私はレースの傾向からこの馬の好走確率を見積もっていきたいと思います。
M 真っ先にチェックしておくべきポイントはどのあたりでしょうか?
伊吹 近年はコース適性の高い実績馬が圧倒的に優勢。2017年以降の3着以内馬延べ21頭中19頭は、東京のビッグレースで馬券に絡んだことのある馬でした。
M これはわかりやすい。GIで上位に食い込んだことのない馬はもちろん、東京以外のGIでしか好走していない馬も割り引きが必要ですね。
伊吹 なお、“東京の、GIのレース”において3着以内となった経験がない、かつ“同年6月以降の、JRAの、GI・GIIのレース”において1着となった経験がない馬は2017年以降[0-0-0-63](3着内率0.0%)。東京のビッグレースで馬券に絡んだことがなく、主要な前哨戦を勝ち切っているわけでもない馬は、思い切って評価を下げた方が良いかもしれません。
M 先程も触れた通り、ソールオリエンスは昨年の日本ダービーで2着に好走している馬。この条件はしっかりとクリアしています。
伊吹 あとは直近の競走成績も素直に評価したいところ。同じく2017年以降の3着以内馬延べ21頭中15頭は、前走のコースがJRA、かつ前走の着順が1着、もしくは前走の1位入線馬とのタイム差が0.3秒以内でした。
M 前走好走馬が中心、と。
伊吹 ちなみに、前走のコースがJRA、かつ前走の着順が2着以下、かつ前走の1位入線馬とのタイム差が0.4秒以上だったにもかかわらず3着以内となった6頭は、いずれも馬齢が5歳以下、かつ生産者がノーザンファーム。若いノーザンファーム生産馬でない限り、大敗直後の馬は過信禁物と見るべきでしょう。
M ソールオリエンスは前走の1位入線馬とのタイム差が0.4秒で、馬齢こそ4歳ですが、生産者が社台ファーム。微妙なところではあるものの、この条件に引っ掛かっている側の一頭です。
伊吹 さらに、同じく2017年以降の3着以内馬延べ21頭中18頭は、馬番が1番から8番でした。
M なるほど。外寄りの枠に入った馬は強調できませんね。
伊吹 ただし、馬番が9番から18番、かつ“前年以降の、今回と同じコースの、GIのレース”において3着以内となった経験がある馬は2017年以降[0-1-2-5](3着内率37.5%)。ソールオリエンスのように東京芝2400mの大舞台で好走したことがある馬なら、枠順はそれほど気にしなくて良さそうです。
M 不安要素を抱えている一方で、強調材料もそれなりにありますね。
伊吹 私自身、この馬はしっかり押さえておこうと考えていました。ライバルの多くが不利な枠を引いて、相対的に有利な状況となったら、それなりに重いシルシを打つかもしれません。Aiエスケープも有力と見ているのであれば心強い限り。当然ながら、素直にこの馬を中心とした買い目で勝負するのもひとつの手でしょう。