▲チャンピオンズCに出走予定のアーテルアストレアを担当する酒井慎調教助手(撮影:大恵陽子)
強烈な末脚を武器に勝利を重ねてきたアーテルアストレア。8勝中7勝を中京や新潟などで挙げる左回り巧者でもあります。
それゆえ、次走に選んだのはJBCレディスクラシックではなく、左回りのチャンピオンズC。紅一点で挑みます。2歳の頃から美人で、「あーちゃん」と親しまれる同馬について、橋口慎介厩舎で担当する酒井慎調教助手に伺いました。
(取材・構成:大恵陽子)
チャンピオンズC「出るだけ、という気持ちじゃないです」
──デビュー前に函館競馬場に入厩した時から担当されているとのことですが、最初の頃の印象は?
酒井 入厩初日に記者さんから「グッドルッキングホース」と言われるくらい顔もスタイルも良かったです。めっちゃ美人で、馬体は黒光りして「いい馬やね」と言われていました。でも、今よりもスラッとしていたので、どちらかというと顔は長く見えました。当時の顔の大きさのまま、今は普段の馬体重が30〜40kg増えて、バランスの取れた美人になりました。牧場でもよく食べるんでしょうね。トレセンでもよく食べます。
▲入厩当初から美人だったアーテルアストレア(撮影:大恵陽子)
──牝馬でよく食べるのは長所ですね。鋭い末脚が武器ですけど、初勝利は逃げ切り勝ちでした。
酒井 芝でのデビュー戦があまりレースに参加できなかったので、(橋口)先生がもう一度同じような条件を使おうとしたら入らなくて、ダートを使いました。そうしたら逃げて後ろを突き放しての勝利。だから勝ち上がった後も前で競馬をしていたんですけど、上手く噛み合いませんでした。そんな時、菱田裕二騎手が「今回は行く馬が多いので、無理に行かずに控える競馬を覚えさせるのはどうですか」と。すると末脚を伸ばして4着で、こんないい競馬できるんやって思いました。で、その次のレースで勝ってくれました。
──菱田騎手、グッジョブ!
酒井 ホンマ、馬の人生変わりました。競馬を覚えて、一気に今に至りますからね。
──それからはほぼ最後方から直線だけでゴボウ抜きのレーススタイルが確立されていったんですね。
酒井 積み重ねがあって菱田騎手がアーテルアストレアを信じきれているからこそ、だと思います。マニュアル通りだと、4勝を挙げる中京ダート1800mで外から一気なんて無理じゃないですかね。
──それで言うと、2走前の川崎・スパーキングレディーCもすごかったです。ダートグレード競走はJRA馬が中団より前に固まりやすいのに後方2番手から。腹を括らないとできないのでは、と思いました。
酒井 それは間違いないです。レース後に菱田騎手も「この馬にはやっぱりこういう競馬が合うんですね」と話していました。前走の大井・レディスプレリュードは負けましたけど、誰かが「白砂に入れ替えて以降、ダート1800mの上がり3ハロン最速」と。やっぱりいい脚を使っていたんやなと思いました。
▲競馬を教えてくれた菱田騎手と勝利したスパーキングレディーC(撮影:高橋正和)
──左回りの成績もいいですよね。
酒井 普段の調教に乗っていて分かるくらい左右差がすごくあるので、左回りの方が成績はいいです。だから、右回りの大井が合っているとは思えないですけど、広いコースなので助かっています。園田や佐賀は……。
──小回りでコーナーがキツい右回りは不向きだと。もしかして、その理由から今年は佐賀開催のJBCレディスクラシックに出走しなかったんですか?
酒井 そうです。去年の場合はJBCの前哨戦を大井で勝って、「GI/JpnIで好勝負できる」と思って目一杯の仕上げで大井のJBCレディスクラシックを狙いました。チャンピオンズCはそこから状態を維持しながらの出走でした。
──そうした臨戦過程でも昨年のチャンピオンズCは9着ながら直線で外に出して伸びてはいました。
酒井 伸びていて、すごいなと思いました。今年も錚々たるメンバーですけど、この前、菱田騎手がニコニコしながら「楽しみですね」と口にするくらいだったので、嬉しいですね。出るだけ、という気持ちじゃないですし、出走しないことには勝負は分からないですから。
──菱田騎手が無事に復帰して乗れるというのも嬉しいことです。
酒井 それは本当に嬉しいです。今のこの子があるのは、菱田騎手のおかげ。「控える競馬を覚えさせたい」という一言がきっかけでしたから。
とにかく人懐っこい! それを物語る写真の数々
──アーテルアストレアは普段はどんな性格ですか?
酒井 昔から人懐っこいです。競馬と分かったら、女の子だしカイバを食べなくなったり、それまで大人しくても馬場入り前にはピリッとしてくるところもありますけど、いいスイッチの切り替えができます。ずっと担当しているからトリセツも分かっていて、うるさい仕草を見せても大丈夫、と安心感を持てます。
──一番好きなところは?
酒井 人懐っこいところです。僕がSNSに載せている写真や動画から大人しいイメージがあると思うんですけど、普段触らない人が少し警戒して触ろうとするとパクパクッとするところがありますけど、僕のことは大丈夫と分かっているから、どれだけ近づいてもOKです。ほら。
▲酒井助手からのハグにも動じない様子(撮影:大恵陽子)
──以前、担当していたゴーストもそうですし、酒井調教助手が担当する馬は人懐っこくなりますね。
酒井 家族と過ごすよりも一緒にいる時間が長いです。この仕事は趣味や特技の延長線上で馬に携わらせてもらって、それでいてお給料をもらっている感覚なので、楽しく仕事をしたいと思っています。だから、デビュー前の2歳馬を担当することになったら「俺色に染めたろ。まずは仲良くなろう」ってところから始めています。
▲担当が決まった馬への接し方は「まずは仲良くなろう」(撮影:大恵陽子)
──ゴーストがいま移籍先の高知で可愛がられていることを知ってヤキモチを妬いていましたもんね。
酒井 めっちゃ妬きます(笑)。
──担当馬への愛情は小道具からも感じます。馬房前のボックスにはカラフルな手作りボンボンがたくさん入っていますね。
酒井 最近は毛糸を買ってきて、いろんなカラーのボンボンを作るのが趣味なんです。僕には真似できないですけど、五十嵐調教助手(アルナシームやパンジャタワーを担当)が作ってくれた「あ」とハートマーク入りのボンボンもあるんです。すごいですよね。
▲チャンピオンズCのゼッケンと五十嵐助手手作りのボンボン(撮影:大恵陽子)
──器用すぎます! さぁ、いよいよチャンピオンズCです。
酒井 GIは厳しいと思いますけど、この馬のスタイルを崩さない方がいいんじゃないのかなと思っています。川崎、園田、いろんな競馬場を経験して、早めに相手を負かしに動いたり、序盤で置いて行かれないように出していく競馬もしましたけど、アーテルアストレアに合わない戦法ではパフォーマンスや結果も良くなかったです。昨年とは臨戦過程が違って今年はJBCを使っていない点はプラスだと思いますし、ドキドキよりワクワク。楽しみな気持ちの方が勝っています。
(文中敬称略)