単勝オッズ2.3倍(1番人気)のドウデュースが優勝(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
昨年は3連単で190万円超の高額配当が飛び出した
AIマスターM(以下、M) 先週はジャパンCが行われ、単勝オッズ2.3倍(1番人気)のドウデュースが優勝を果たしました。
伊吹 着差以上の完勝と言って良いのではないでしょうか。スタート自体は決して悪くなかったものの、先行争いに加わることなく、鞍上の武豊騎手は馬群の外めに誘導。レース後のコメントで各ジョッキーが「遅かった」と口を揃えるようなペースの中、向正面では最後方を進んでいます。しかし、4コーナーで馬群の外から一気にポジションを押し上げ、ゴール前の直線入り口では好位に進出。残り400m地点のあたりでチェルヴィニア(4着)を、残り300m地点を過ぎたところでドゥレッツァ(2着同着)をかわし去りました。ドゥレッツァが最後の最後までしぶとく追いすがったうえ、決勝線の手前では最内からシンエンペラー(2着同着)も迫ってきましたが、結局クビ差のリードを保ったまま入線。上がり3ハロンタイムの32秒7は、2位のシンエンペラー(33秒1)を大きく上回る単独トップです。積極策を取った実力馬がフィニッシュまでしっかり伸びたにもかかわらず、これを圧倒的な末脚で捻じ伏せた形。こんな競馬をされてしまったら、他の馬はなす術がありませんよね。
M ドウデュースは自身5度目のGI制覇。昨年は天皇賞(秋)で7着に、ジャパンCで4着に敗れてしまったものの、2レース連続の“リベンジ”に成功しました。
伊吹 最大のライバルであるイクイノックスが引退したとはいえ、今年の天皇賞(秋)やジャパンCも、昨年と同等かそれ以上に強力なメンバー構成。おそらく、この馬自身もさらに力をつけているのだと思います。天皇賞(秋)の時にnetkeibaのXアカウントがポストしていた通り、2歳から5歳までの4年連続でJRAGIを勝ったのは、メジロドーベル・ウオッカ・ブエナビスタに続く史上4頭目、牡馬としては史上初の快挙。しかも、この3頭のうち5歳時に複数のGIを勝ったのはウオッカ(2009年にヴィクトリアマイル・安田記念・ジャパンCを勝利)だけなんですよね。あまりにも達成困難な記録ですし、この偉業を成し遂げる馬にはもう二度とお目にかかることができないかもしれません。
M 次走は有馬記念を予定しているとのこと。今度はディフェンディングチャンピオンとして臨むことになります。
伊吹 YouTubeのJRA公式チャンネルに投稿されたドウデュースのジョッキーカメラ映像を観たのですが、地下馬道に入ったところで武豊騎手が「よし、有馬行こう、有馬。無事なら」と言っていましたね。直後には「有馬の方が競馬しやすいかもな」とも。長く脚を使った今回の勝利によって、昨年以上の手応えを感じたのでしょう。歴史的名馬がどんなラストランを見せてくれるのか、本当に楽しみです。
M 今週の日曜中京メインレースは、下半期のダート王決定戦としておなじみのGI、チャンピオンズC。昨年は単勝オッズ3.8倍(1番人気)のレモンポップが優勝を果たしました。なお、その2023年は単勝オッズ92.0倍(12番人気)のウィルソンテソーロが2着に、単勝オッズ31.2倍(9番人気)のドゥラエレーデが2着に食い込み、3連単190万2720円の高額配当決着となっています。
伊吹 過去10年のチャンピオンズCにおける3連単の配当を集計してみると、平均値は29万1376円、中央値は8万3670円。毎年のように荒れる――とまでは言えないものの、波乱の決着となった年は決して少なくありません。
M 過去10年の単勝人気順別成績を見ても、超人気薄の馬がそれなりに健闘している印象です。
伊吹 より実態に即した区切り方をすると、単勝4番人気から単勝7番人気の馬は2014年以降[2-1-2-35](3着内率12.5%)、単勝8番人気から単勝12番人気の馬は2014年以降[2-3-4-41](3着内率18.0%)、単勝13番人気以下の馬は2014年以降[0-0-1-35](3着内率2.8%)となっていました。上位人気馬や中位人気馬を信頼し過ぎてしまわないよう心掛けるべきでしょう。
M そんなチャンピオンズCでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ペプチドナイルです。
伊吹 興味深いところを挙げてきましたね。超人気薄ということはないはずですが、今回はそれなりに妙味あるオッズが付きそう。
M ペプチドナイルは今年2月のフェブラリーSを制している上半期のダートチャンピオン。前走の南部杯でも、勝ったレモンポップと3/4馬身差の2着に食い込んでいます。ただし、1600m超の重賞はこれまでに3戦して13着・4着・6着。コース替わりに不安を覚えている方が多いかもしれません。
伊吹 その一方で、Aiエスケープはまったく問題ないと見ている模様。これはなかなか面白い構図です。この見立てを踏まえつつ、レースの傾向とペプチドナイルのプロフィールを見比べていきましょう。
M 最大のポイントはどのあたりだと考えていますか?
伊吹 まずは臨戦過程をチェックしておきたいところ。2019年以降の3着以内馬15頭中11頭は、前走がGI・GII(JpnI・JpnII)のレースでした。
M 重賞以外のレースはもちろん、みやこSや武蔵野Sを含むGIIIのレースを経由してきた馬も、過信禁物と見ておいた方が良さそうですね。
伊吹 ちなみに、前走の条件がGI・GII以外、かつ“同年の、今回と同じ競馬場の、重賞のレース”において2着以内となった経験がない馬は2019年以降[0-0-0-34](3着内率0.0%)。コース適性が非常に高い馬でない限り、前走がGI・GIIのレースでなかった馬は強調できません。
M 先程も触れた通り、ペプチドナイルは前走がGI級競走(JpnI)の南部杯。この点は高く評価して良いのではないでしょうか。
伊吹 あとは血統も見逃せないファクターのひとつ。同じく2019年以降は、エーピーインディ系種牡馬やノーザンダンサー系種牡馬の産駒が期待を裏切りがちでした。
M こちらもなかなか興味深い傾向。どちらもダート向きの活躍馬を多数輩出している父系ですが……。
伊吹 おっしゃる通り。このチャンピオンズCは、他のビッグレースと少々異なる資質が求められるのかもしれません。
M ペプチドナイルの父はキングカメハメハで、エーピーインディ系やノーザンダンサー系に属していない種牡馬。血統面に不安を抱えていない側の一頭ということになります。
伊吹 さらに、同じく2019年以降の3着以内馬15頭中9頭は、出走数が15戦以内だった馬。そして、キャリア16戦以上だったにもかかわらず3着以内となった馬の大半は、ノーザンファーム生産馬でした。
M なるほど。ノーザンファーム生産馬でない馬同士を比較する際は、キャリアが浅い馬を重視するべきでしょうね。
伊吹 余談ながら、出走数が15戦以内、かつ生産者がノーザンファームの馬は2019年以降[1-0-1-8](3着内率20.0%)。キャリアの浅いノーザンファーム生産馬が若干苦戦していたのも面白いところです。
M ペプチドナイルは生産者が杵臼牧場、出走数が22戦なので、この条件に引っ掛かっています。
伊吹 ただし、特別登録を行った各馬について同様の評価を行ったところ、今年はほとんどの馬が何かしらの不安要素を抱えていました。6歳なのでキャリアが豊富過ぎるのは仕方ないと思いますし、無理に嫌う必要はないのかも。他ならぬAiエスケープが狙い目と見ているわけですから、しっかりマークしておきましょう。