▲チャンピオンズカップで上位人気が予想されるレモンポップ(撮影:高橋正和)と2連勝中のクラウンプライド(c)netkeiba
競馬アナライザーのMahmoud氏が、動画解析を駆使して科学的に競馬を分析する連載コラム。
前半では、先週のジャパンCを詳細に回顧。「ドウデュースのラストスパート」や「チェルヴィニアが伸びを欠いた理由」などを、個別ラップタイムと動画解析を用いて振り返ります。
後半はチャンピオンズカップの展望へ。“抜けた存在”とみた2頭に対し、「割って入るなら」と本命に推奨したのは、2桁人気必至の大穴馬。その推奨理由とは──。
(構成:Mahmoud、netkeiba編集部)
「ジャパンC史上最遅」記録的スローペースをねじ伏せたドウデュース
──まずは先週のジャパンC回顧から。ドウデュースがまたしてもキレにキレましたね。
Mahmoud とにかくペースが遅かったことで、上がり3Fの破壊力を持つドウデュースにとってはアドバンテージとなりました。個別ラップタイムを用いて、今年のジャパンCのペースがどれくらい遅かったのか、過去のジャパンCや今年の出走馬の過去走と比較してみましょう。
▲過去のジャパンC好走馬の走破タイムを今年の天皇賞(秋)当日の馬場差に換算した値に、今年の結果を加えた。前半1400m換算値TOP30(作成:Mahmoud)
2003〜2024年の1〜3着馬計66頭の前半1400m換算値を見ると、今年は2013年に次いでペースが遅く、またハナに立って3着以内に入った馬で過去最も遅かった2016年キタサンブラックより1秒以上遅いペースでした。L5-3換算値(ラスト5F〜3F=残り1000〜600mのタイムレベル)で見ると、今年のジャパンCの特異性がさらにわかります。
▲過去のジャパンC好走馬の走破タイムを今年の天皇賞(秋)当日の馬場差に換算した値に、今年の結果を加えた。L5-3換算値TOP30(作成:Mahmoud)
残り1000m地点を13番手辺りで通過したドウデュースでさえL5-3換算値は66頭中58位、そして2着同着の2頭はこの区間の歴代最遅タイムを更新しました。展望では過去の傾向を踏まえて「後半のペースアップのタイミングが早くなるケースが多い」としましたが、実際にはペースアップのタイミングは極めて遅くなりました。
──天皇賞(秋)の回顧で「次走ジャパンCでのドウデュースは、残り700m辺りまでゆったりとしたリズムのまま追走できれば再度爆発的なラストスパートを期待できます」と話していましたが、まさに“ドウデュースの展開”となったということですね。
Mahmoud 後半1000mの換算値と後半600mの換算値からも、そのレース質がわかります。
▲過去のジャパンC好走馬の走破タイムを今年の天皇賞(秋)当日の馬場差に換算した値に、今年の結果を加えた。後半1000m換算値TOP30(作成:Mahmoud)
▲過去のジャパンC好走馬の走破タイムを今年の天皇賞(秋)当日の馬場差に換算した値に、今年の結果を加えた。後半600m換算値TOP30(作成:Mahmoud)
後半1000mではドウデュースこそ7位ですが、2着同着の2頭は下位に位置していて、後半1000mを速く走ったわけではありません。そして後半600mでは、ドウデュースは歴代でぶっちぎりのトップ。2着同着の2頭もトップ10入り。後半600m超特化型のレースとなったのがよくわかります。
──過去のジャパンCと比較すると、「前半1400m=遅い」「後半1000〜600m区間=遅い」「後半1000mトータル=遅い」「後半600m=極限に速い」というイメージですね。
Mahmoud 次は今年の出走馬の過去走との比較です。出走馬の持ちタイムにジャパンCの結果を加えた換算値を見てみましょう。まずは前半1400m換算値から。
▲出走馬の持ちタイムを今年の天皇賞(秋)当日の馬場差に換算した値に、今年の結果を加えた。前半1400m換算値TOP30(作成:Mahmoud)
計93例の中で最上位がドゥレッツァの57位。出走馬の過去走との比較でもペースがかなり遅かったと言えます。次は後半1000m換算値。
▲出走馬の持ちタイムを今年の天皇賞(秋)当日の馬場差に換算した値に、今年の結果を加えた表。後半1000m換算値TOP30(作成:Mahmoud)
ドウデュースでも前走天皇賞(秋)より0.54秒遅い。各馬、遅いわけではないが速くもないという結果。レース後半の厳しさは感じられません。次はL5-3換算値です。
▲出走馬の持ちタイムを今年の天皇賞(秋)当日の馬場差に換算した値に、今年の結果を加えた表。L5-3換算値TOP30(作成:Mahmoud)
L5-3の遅さはジャパンC史上という意味だけでなく、出走馬の過去走との比較でも記録的に遅いという結果になりました。これでは持ち味が生かせない馬が多かったと考えるのが妥当なところです。次は後半600m換算値です。
▲出走馬の持ちタイムを今年の天皇賞(秋)当日の馬場差に換算した値に、今年の結果を加えた表。後半600m換算値TOP30(作成:Mahmoud)
L5-3とは一転して、キャリアハイをマークした馬が多数。大げさに例えると、残り600mから急角度のジェットコースターを下るようなペース推移。ドウデュースは前走天皇賞(秋)より0.26秒速いという猛烈なスピード能力を披露。ドウデュースのストロングポイントを大いに発揮できる絶好の展開となりました。
「自滅的敗戦」チェルヴィニアが伸びを欠いたワケ
──私もトラッキングシステムの時速表示を見ていて、3コーナーを回ってもペースが上がっていなかったので、「ドウデュースの競馬だなぁ」と思って見ていました。それにしても、絶好の展開とはいえ、あの位置から一瞬で抜け出して最後までよく踏ん張りましたよね。
Mahmoud ドウデュースのここ4走(国内戦)の後半1200mを平均完歩ピッチで比較してみましょう。
▲ドウデュースの平均完歩ピッチグラフを過去走と比較(1完歩に要する時間を平均した値。グラフの値が下になるほど、ピッチ=脚の回転が速いことを表す)(作成:Mahmoud)
前走天皇賞(秋)と概ね似た波形ですが、道中のペースが遅く追走余力が前走以上に残っていたと考えられます。そのため反応が良すぎて、まだ激しく追われていないL(ラスト)500〜400mが全開完歩ピッチ区間となり、スパートのピークが早いタイミングになった影響でラスト100mは他馬と比べ失速度合いが大きくなりました。
ドウデュースは赤枠で囲んだラストスパート始動のタイミングがポイント。2024年宝塚記念(ピンク)はL900mから動き出したのが敗因の一つです。
──2023年有馬記念ではL800mから動き出して勝利できた要因は何なのでしょう?