単勝オッズ10.5倍(5番人気)のアルマヴェローチェが勝利(c)netkeiba
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
上位人気馬の好走率がかなり高いレースである点に注意
AIマスターM(以下、M) 先週は阪神JFが行われ、単勝オッズ10.5倍(5番人気)のアルマヴェローチェが優勝を果たしました。
伊吹 完勝と言って良いでしょう。まずまずのスタートを決めてポジションを取りに行き、向正面では先行した各馬のすぐ後ろ、中団のやや外めを追走。その後も前の集団についていくような形で3コーナーから4コーナーを通過し、ゴール前の直線に入ると躊躇なく大外へ持ち出しています。
内外大きく広がっての追い比べとなる中、残り200m地点のあたりで内の各馬を射程圏内に捉え、最後は外めに進路を切り替えながら伸びてきたビップデイジー(2着)との追い比べに。しかし、決勝線の手前でさらに力強く伸び、結局1馬身1/4差をつけてのゴールとなりました。
鞍上の岩田望来騎手は通算61回目のJRA・GI騎乗で初めての勝利。ちなみに、JRA・GIで単勝オッズ7倍未満の馬に騎乗したことはなく、単勝オッズ15倍未満の馬に騎乗したのも今回がまだ8回目です。もともと現在の日本競馬界を代表する若手ジョッキーのひとりですし、今後はビッグレースで活躍する場面が急激に増えてくるかもしれませんね。
M アルマヴェローチェはキャリア3戦目でGI初制覇。前走の札幌2歳Sは2着どまりだったものの、勝ったマジックサンズとはハナ差でした。
伊吹 その札幌2歳Sは、先行勢の外から早めに仕掛けて抜け出したマジックサンズが、巧みな進路取りで内ラチ沿いから伸びてきたアルマヴェローチェをギリギリのところで封じ切った形。アルマヴェローチェがこれだけの結果を残したわけですし、マジックサンズは次走に予定しているホープフルSでかなりの注目を集めることになるのではないでしょうか。
そもそも、この2頭から0.2秒差の3着だったファイアンクランツは次走の東京スポーツ杯2歳Sで4着に、1.1秒差の5着だったレーヴドロペラは次走の芙蓉Sで2着に健闘。1.3秒差の8着だったショウナンマクベスも、次走の百日草特別を快勝しています。ハイレベルな一戦だった可能性が高いので、このレースに出走していた馬がオープンクラスや1勝クラスのレースを使ってきたら、しっかりマークしておきたいところです。
M アルマヴェローチェ自身も、今後が楽しみになりましたね。
伊吹 母のラクアミは現役時代にJRAで3勝している馬。なお、主戦場としていたのは芝短距離で、ダートや1600m超のレースには一度も出走していません。近親には2016年の京王杯2歳Sで1着、同年の朝日杯FSで2着となったモンドキャンノもいますから、母系だけを見るならば比較的完成が早い芝短距離向きの血統。もっとも、この馬自身の戦績やハービンジャー産駒であることを考えると、中長距離のレースも問題なくこなせそうな気がします。オッズや出走予定レースの傾向を考慮しながら、来春以降も上手く付き合っていきましょう。
M 今週の日曜京都メインレースは、平成初期から2歳牡馬チャンピオン決定戦として親しまれてきたGI競走、朝日杯FS。昨年は単勝オッズ2.7倍(1番人気)のジャンタルマンタルが優勝を果たしました。ちなみに、その2023年は単勝オッズ10.0倍(4番人気)のエコロヴァルツが2着に、単勝オッズ13.2倍(5番人気)のタガノエルピーダが3着に食い込んだこともあって、3連単の配当が1万2910円にとどまっています。
伊吹 朝日杯FSで3連単の配当が10万円を超えたのは、現在のところ2016年(22万1200円)が最後。2017年以降の過去7年に限ると、3連単の配当は平均値が3万1679円、中央値が1万4840円です。
M 過去10年の単勝人気順別成績を見ても、単勝1番人気の支持を集めていた馬は3着内率が9割。大きく崩れてしまった例はほとんどありません。
伊吹 単勝4番人気以下だった馬の成績をより詳しく見てみると、単勝4番人気から単勝7番人気の馬は2014年以降[2-2-2-34](3着内率15.0%)、単勝8番人気から単勝14番人気の馬は2014年以降[0-2-3-65](3着内率7.1%)、単勝15番人気以下の馬は2014年以降[0-0-0-24](3着内率0.0%)となっていました。過去10年の3着以内馬30頭中19頭を単勝3番人気以内の馬が占めているわけですから、堅く収まりがちな一戦と認識しておくべきでしょう。
M そんな朝日杯FSでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、エイシンワンドです。
伊吹 興味深いところを挙げてきましたね。実績上位ではありますが、上位人気グループの一角を占める可能性は低そう。
M エイシンワンドはデビュー2戦目の小倉2歳Sを快勝している馬。もっとも、前走の京王杯2歳Sでは8着に敗れています。1600mのレースを使うのも今回が初めてですし、積極的に狙おうと考えている方はそれほど多くないかもしれません。
伊吹 現在の雰囲気だと、単勝二桁人気クラスの立場で臨むことになる可能性すらありそうですね。Aiエスケープの思い切ったチョイスを踏まえたうえで、好走馬の傾向とこの馬の戦績を見比べていきましょう。
M 最大のポイントはどのあたりだと考えていますか?
伊吹 まずはここ2か月あまりの戦績をチェックしておきたいところ。2018年以降の3着以内馬18頭中17頭は、同年10月以降に芝のレースで“着順が1着、かつ上がり3ハロンタイム順位が2位以内”となったことのある馬でした。
M なるほど。9月以前のレースしか勝っていない馬は強調できませんね。
伊吹 極端に差し有利というわけではありませんが、先行力の高さを活かす競馬で10月以降のレースを勝った馬も苦戦していましたから、該当馬は扱いに注意しましょう。
M エイシンワンドが制した小倉2歳Sは9月1日に行われたレース。残念ながら、この傾向に引っ掛かっている側の一頭です。
伊吹 あとは実績や距離適性も見逃せないファクターのひとつ。同じく2018年以降の3着以内馬18頭中11頭は、1500m超の重賞やオープン特別を勝ったことのある馬でした。
M 該当馬の半数以上が馬券に絡んでいますね。
伊吹 なお、“JRAの、1500m超の、オープンクラスのレース”において1着となった経験がなかったにもかかわらず3着以内となった7頭のうち3頭は、前走の着順が1着、かつ前走の2位入線馬とのタイム差が0.5秒以上だった馬。直近のレースを圧勝しているような馬でない限り、1500m超の重賞やオープン特別を勝っていない馬は、疑ってかかった方が良いかもしれません。
M エイシンワンドは1500m超のレースに出走した経験すらなく、先程も触れたように前走の着順も8着。この傾向を見る限りだと、今回のコース替わりがプラスに働く可能性はそれほど高くなさそうです。
伊吹 さらに、同じく2018年以降の3着以内馬18頭中13頭は、キャリア2戦以内でした。
M キャリア3戦以上の馬は過信禁物、と。
伊吹 ちなみに、出走数が3戦以上、かつ“JRAの、GI・GIIのレース”において1着となった経験がない馬は2018年以降[1-0-0-53](3着内率1.9%)。格の高いレースを勝ち切ったことがある実績馬でない限り、キャリアが豊富過ぎる馬は評価を下げるべきでしょう。
M エイシンワンドはキャリア3戦で、GI・GIIを勝った経験もありません。
伊吹 レースの傾向からは強調しづらいため、正直なところ私は無印にする予定です。もっとも、今年のヴィクトリアMでAiエスケープが推奨していたテンハッピーローズも、私の感覚からすると強調材料に乏しかった馬。配当的な妙味は十分にありそうですから、エイシンワンドがこれまでの傾向を覆す可能性に賭けるのもひとつの手だと思います。