1年でG1・5勝の活躍 米3歳牝馬の年度代表候補が口腔内を手術
シエラレオーネやフィアースネスとの再対決に注目
来年1月23日に発表される2024年の全米年度代表馬の、最有力候補と見られているソーピードアンナ(牝3、父ファストアンナ)が、口腔内の手術を受けたことが明らかになった。同馬を管理するケン・マクピーク調教師が15日に発表したものだ。
陣営は、ソーピードアンナの口の中の下顎側に、黒い斑点があることを、同馬が11月2日にデルマー競馬場で行われたG1・BCディスタフ(d9F)で勝利する前から、察知していたという。飼い葉食いなどに影響がなかったため、処置としては、食塩水による洗浄などにとどめていたところ、BCディスタフ以降も斑点は消滅せず、レキシントンにあるルード・アンド・リドル診療所に馬を運んでレントゲンを撮ったところ、何らかの理由で壊死した骨片の残留が認められたそうだ。
「折れた歯の残骸かと推察していたのですが、死んだ骨の組織であると診断されました」と、マクピーク師は語る。「それが、いつ、いかなる状況で発生した骨片なのかは、不明だそうです。3年前からあったものかもしれないし、3週間前に発症したものかもしれないと言われました」。
その後、骨片の摘出手術が行われ、術後の経過は順調とのこと。ソーピードアンナは、年内はケンタッキーに留まって静養し、年が明けたら、本格的な運動を再開するようだ。
ファシグティプトン・ケンタッキー10月市場という、米国ではセカンドクラスの1歳マーケットと認識されているセールで、4万ドル(当時のレートで約620万円)という、後のチャンピオンホースとしては格安の値段でマクピーク師に発掘されたのがソーピードアンナだ。少しさかのぼれば、エスケンデレヤ、バルモントといったG1勝ち馬が出てくる牝系の出身だが、母スタヴェスも祖母パシフィックスカイも未出走馬で、ごく近しいところにブラックタイプは見当たらない同馬。
父ファストアンナ(その父メダグリアドーロ)も、現役時代はサラトガ競馬場のG1・キングズビショップS(d7F)2着の成績はあったものの、重賞は未勝利。母ドリーミングオブアンナが06年の米最優秀2歳牝馬という良血ぶりを加味され、16年にケンタッキーで種牡馬入り(種付け料7500ドル)し、初年度産駒からメキシコでチャンピオンとなったマリンチが出たものの、米国ではめぼしい活躍馬が出ていなかったという状況からして、ソーピードアンナのマーケットにおける評価が低かったのは、むしろ当然のことだったかもしれない。
ちなみにファストアンナは、ソーピードアンナが生まれた2021年の2月8日に、蹄葉炎に端を発した合併症のため、安楽死処分がとられている。すなわち、ソーピードアンナはファストアンナのラストクロップの1頭となるのだ。
ソーピードアンナは2歳10月にデビュー。キーンランド競馬場のメイドン(d7F)を8.1/2馬身差で、チャーチルダウンズ競馬場の条件戦(d8F)を9馬身で制すると、次走はチャーチルダウンズ競馬場のG2・ゴールデンロッドS(d8.5F)に挑み、ここではイントリケイトの2着に敗れて連勝がストップ。3戦2勝の成績で2歳シーズンを終えた。
3歳を迎えると、ソーピードアンナの快進撃がスタート。3月30日にオークローンパーク競馬場で行われたG2・ファンタジーS(d8.5F)で始動すると、ここを4馬身差で制して重賞初制覇。以降、チャーチルダウンズ競馬場のG1・ケンタッキーオークス(d9F)を4.3/4馬身差で、サラトガ競馬場のG1・エイコーンS(d9F)を5.1/2馬身差で、同じくサラトガ競馬場のG1・CCAオークス(d9F)を4.1/2馬身差で快勝。24年の米国における3歳牝馬世代では、抜けた実力の持ち主との評価を得た。
待望されていた牡馬との対決が実現したのが、8月24日にサラトガ競馬場で行われた「真夏のダービー」G1・トラヴァーズS(d10F)で、G1・ブルーグラスS(d9F)勝ち馬シエラレオーネ(牡3、父ガンランナー、2.75倍の1番人気)、G1・フロリダダービー(d9F)勝ち馬フィアースネス(牡3、父シティオブライト、4.9倍の3番人気)、G1・ベルモントS(d10F)勝ち馬ドーノック(牡3、父グッドマジック、5.6倍の4番人気)といった、超一線級の牡馬と激突。2番人気(4.4倍)に推されたソーピードアンナは、先行したフィアースネスをゴール前で追い詰めたものの、アタマ差届かずに2着に終わった。
その後、牝馬限定戦のG1・コティリオンS(d8.5F)を制したソーピードアンナは、デルマー競馬場を舞台としたG1・BCディスタフで、初めて古馬とぶつかった。
実はそのレース前、デルマー競馬場の厩舎村には、「ソーピードアンナ調子落ち」という噂が飛び交っていた。3月からほぼ休みなく使われており、例えばトラヴァーズSを制したフィアースネスが、そこから直行でBCクラシックに向かったことを考えれば、G1・コティリオンSは「ひとつ余計だった」感は否めず、そういう噂が流れてもおかしくはない状況だった。
だが、大レースの前に有力馬を巡って、こうした与太話が飛び交うことはよくあり、朝の調教に姿を現したソーピードアンナは、そういう目で見れば多少ガレているように見えなくはなかったものの、動きは悪くなかった。
実際にソーピードアンナは、1つ年上のG1勝ち馬レイジングシー(牝4、父カーリン)に2.1/2馬身差をつけてBCディスタフを快勝。今季5度目のG1勝利を手にした。
その実績は、G1・BCクラシック(d10F)を含めてG1・2勝のシエラレオーネ。G1・トラヴァーズSを含めてG1・2勝のフィアースネスらを大きく上回っており、09年のレイチェルアレクサンドラ以来となる、3歳牝馬の年度代表馬受賞が確実視されている。
ソーピードアンナと、シエラレオーネやフィアースネスとの再対決が、いつ、どこで実現するかが、2025年のアメリカ競馬における、大きな焦点となりそうだ。