netkeibaのレース成績画面で、2024年12月9日より個別ラップタイムが見られるようになりました。
その中でも2024年天皇賞(秋)、2024年ジャパンカップでのドウデュースの個別ラップタイムを見て、他馬とのラップタイム差に興味を持った方は多いのではないかと思います。この個別ラップタイムはどのように捉え、考えればよいのか、そのポイントをいくつか説明していきましょう。
※このコラムは、最後まで無料でお楽しみいただけます。
(構成:Mahmoud)
個別ラップタイム比較から浮かび上がる“段違いのスピード”
GI競走の1着馬で公式上がり600mが出走馬中1位かつ32秒台をマークしたのは11例ありますが、そのうち2度マークしたのはグランアレグリアと、今年の有馬記念が引退レースとなるドウデュースの2頭。ここ2走の
天皇賞(秋)と
ジャパンCでは強烈に速い末脚を披露しました。既にご覧になった方は多いと思いますが、他馬より圧倒的に速いラップタイムを刻んでいます。
▲netkeibaマスターコースで公開されている2024天皇賞(秋)個別ラップタイム
天皇賞(秋)では2着入線を果たしたタスティエーラより残り400〜200mでは0.5秒、残り200〜0mでは0.3秒、ラスト400mだけで計0.8秒も速く走っているという段違いのスピードを見せつけました。
ラップタイムの増減に影響を及ぼす要因としては、馬場状態の違い、坂の勾配の有無、風などが挙げられますが、このように同一レース内で他馬とラップタイムを比較するというのは、コーナー区間での進路の取り方の違いによって生じる距離ロス以外、ラップタイムに与える影響度を全て均一状態で考えることができるので、初歩的かつ最も有効な個別ラップタイム考察という形になります。
このドウデュースの爆発的な末脚の源はピッチ走法にあります。この有馬記念で4戦連続の対決となるジャスティンパレスは出走馬の中でも有数のピッチが遅い=ストライドが大きい馬ですが、この2頭が200mを11秒程度の同じスピードで走るとドウデュースのストライド長はジャスティンパレスより70cm以上も短くなります。しかもドウデュースの方が馬体重は30kg少々重く、馬体重比で考えるとドウデュースは超の字が付くほどのピッチ走法と言えます。この超ピッチ走法によって瞬発力が極めて優れておりアッという間に高スピードを出すことが可能な他、コーナーワークにも優れているのがドウデュースのストロングポイントとなります。
個別のペースバランスで末脚爆発の背景を探る
ドウデュースが爆発的な末脚を発揮する背景はどこにあるのか次の表を見ていきたいと思います。現レイアウトとなった2003年以降における1位入線馬について、個別ラップタイムの前半1000mを後半1000mで割った値を小さい順で並べてみました。値が大きければ後半のペースバランスが速いということになります。
▲近22回の天皇賞(秋)勝ち馬の個別ラップタイムから、前後半のバランスを比較(作成:Mahmoud)
ドウデュースは2番目に後傾度の高いペース推移で走破しました。2009年カンパニーや2018年レイデオロも後半1000mは相当速かったのですが、それを上回るドウデュースの後半の速さ。その2頭より後傾型の走りでした。次は残り1000m地点を基点とした形でジャパンCも同様のペースバランスで見てみましょう。
▲近22回のジャパンC勝ち馬の個別ラップタイムから、前後半のバランスを比較(作成:Mahmoud)
ジャパンCではディープインパクトを上回るほどのトップの後傾度で走破。ドウデュースは前半を極力遅く走ってため込んだ余力を使い、後半爆発的なトップスピードをマークし勝利したというのがこの秋の2戦でした。このレーススタイルがストロングポイントの背景と考えられます。次はドウデュースの国内全13戦を残り1000m地点を基点とした形でペースバランスを見てみましょう。
▲ドウデュースの国内13戦の個別ラップタイムから、残り1000m地点を基点とした前後半のバランスを比較(作成:Mahmoud)
2022年日本ダービーではレースラップタイムの前後半が70.6-71.3となっていて、ハイペースと見る向きがあるかもしれませんが、ドウデュース自身の前後半は73.1-68.8。残り1000m地点を基点としたバランスは106.39%で前述のジャパンC歴代なら15位相当。ドウデュースのペースバランスとしては前半全く速くなくマイペースを貫いての勝利でした。
最も前半が速いペースバランスはマイル戦の1着朝日杯FSですが、2番目に前半が速いペースバランスの2023年天皇賞(秋)では7着と沈んでいます。傾向として前半遅いペースバランスで走った方が成績は良くなっているのがドウデュースです。
昨秋2戦と宝塚記念の凡走はなぜ?
しかし、快勝した
2023年京都記念より前半のペースバランスが遅かった2024年宝塚記念では6着に敗れています。その要因は次の表で解説できると考えています。後半1000m区間のラップタイムを後半1000〜600mと600〜0mに分け、それぞれの200mの平均ラップタイムで割った比率をまとめた物となります。値が大きければ後半1000mの内、600〜0mが速いペースバランスとなります。
▲ドウデュースの後半1000mの個別ラップタイムから、さらに前後半のバランスを比較(作成:Mahmoud)
前半のペースが速かった
2023年天皇賞(秋)では、後半1000mでも1000〜600mが断然速く、大きく負けた理由が浮かび上がってきます。問題の2024年宝塚記念は1000〜600mが2番目に速いペースバランス。例え中間点辺りまで遅いペースで走っても、ラストスパート始動のタイミングが早くなると良くないのがドウデュースです。その他、少しわかりづらいのが
2023年ジャパンC。こちらは2022年日本ダービーと200m毎の個別ラップタイムを比べてみると敗因が感じ取れます。
▲同舞台で行われた2023年ジャパンCと2022年日本ダービーの個別ラップタイムを比較(作成:Mahmoud)
黄色区間で妙に速いラップタイムを刻んでいます。ラストスパートではラスト600〜400mで一気に値が跳ね上がって最速区間。日本ダービーと比べてラップタイム推移の滑らかさが異なります。つまり、優れた瞬発力は大きな武器になる反面、不必要な区間で披露してしまうと余力を大きく失いがちになるのがドウデュースと言えます。
ラストスパートまで慎重な走りを行い、かつ緩やかにラストスパート始動できるかが、あの爆発的な末脚を披露する大きなポイントになると分析しています。
2023年有馬記念は後半1000〜600mのペースバランスが勝利したレースの中では最も速い形でした。この区間の約半分がコーナー区間で巧みなコーナーワークのマージンがあったゆえの快走だったと思われますが、それでも速過ぎるかどうかのギリギリのラインだったのではないかとも感じています。したがって連覇のカギは前半のペースとともにバックストレッチ後半からのペースアップのタイミングと強度になると考えています。
(明日は有馬記念全体の展望をお届けします)
netkeibaマスターコースでの個別ラップタイムの提供は、2023年の重賞レースおよび2024年以降のレースが対象となっており、一部提供外のデータを使用しておりますことをご了承ください。