単勝オッズ1.8倍(1番人気)のクロワデュノールが優勝(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
単勝2番人気や単勝3番人気の馬がやや苦戦している
AIマスターM(以下、M) 先週はホープフルSが行われ、単勝オッズ1.8倍(1番人気)のクロワデュノールが優勝を果たしました。
伊吹 完勝と言って良いでしょう。スタート直後にやや内へヨレてしまったうえ、その後もしばらくは行きたがるような素振りを見せていましたが、結局行きたい馬を先に行かせる形となり、向正面では中団外めのポジションを確保。残り1000m地点のあたりで後方からファウストラーゼン(3着)が一気に先頭までポジションを押し上げ、逃げていたジュンアサヒソラ(12着)とともに一旦は後続を引き離したものの、クロワデュノールもこの2頭を追うように仕掛け、4コーナーを3番手で通過しています。そのまま残り200m地点のあたりで前の2頭をかわし、独走態勢に。中団から伸びてきたジョバンニ(2着)に対してもセーフティリードを保ったまま入線しました。デビュー戦が11頭立て、前走の東京スポーツ杯2歳Sが9頭立てだったので、陣営や鞍上の北村友一騎手の立場からすると、18頭立て、かつ内寄りの枠に入った今回はプレッシャーのかかる一戦だったはず。そんな中でまったく隙のないレース運びを見せたわけですから、本当にお見事です。
M クロワデュノールはデビュー戦から3連勝でGIのタイトルを獲得。東京スポーツ杯2歳Sも着差以上の強さを感じる勝ち方でしたし、まったく底を見せていません。
伊吹 母のライジングクロスは現役時代に英オークスで2着に、愛オークスで3着に健闘した実績がある馬。半姉のアースライズも3歳時のフラワーCで2着に、オークスで4着に食い込みました。本馬はサンデーサラブレッドクラブの所属馬で、募集総額は5000万円。決して安い値段はありませんが、キタサンブラック産駒の牡馬、しかも斉藤崇史厩舎に入厩予定ということを考えると、かなりお買い得だったのではないかという気がしてきますね。出資した、もしくは出資を申し込んだ会員さんの慧眼ぶりにも敬意を表したいです。
M 当然ながら、来年の3歳牡馬クラシック戦線でも主役級の扱いを受けることになるでしょう。
伊吹 クロワデュノールは前走までの2戦がいずれも東京芝1800mのレースで、右回りのレースを使うのも、1800m超のレースを使うのも今回のホープフルSが初めてでした。皐月賞の舞台である中山芝2000m内に対する適性の高さはもちろん、前走より長い距離のレースを難なくこなせるタイプであることも証明したわけですから、今のところ“三冠”のどこかが大きな壁になるようなイメージはありません。あとは、無敗のまま京都2歳Sを制したエリキングや、これから台頭してくるであろう新興勢力との力関係がどうか――といったところ。その答えを然るべき舞台で確認できるよう、まずは無事に来春のビッグレースへ駒を進めてくれればと思います。
M 今週の日曜中山メインレースは、年明けの名物重賞として長く親しまれてきた伝統の一戦、中山金杯。昨年は単勝オッズ7.8倍(5番人気)のリカンカブールが優勝を果たしました。なお、その2024年は単勝オッズ15.4倍(8番人気)のククナが2着に、単勝オッズ11.1倍(6番人気)のマイネルクリソーラが3着に好走。ハンデキャップ競走ですし、やはり伏兵の台頭を警戒しておくべきなのでしょうか?
伊吹 2015年以降の中山金杯における3連単の配当は、平均値が6万3060円、中央値が5万4365円。2015年から2018年までの計4回はいずれも2万円未満の低額配当決着だったのですが、2019年以降の過去6回に限ると平均値は9万5687円、中央値は7万555円です。最高額が2019年の21万6370円で、極端な高額配当はしばらく出ていないものの、堅く収まりがちなレースとは言えません。
M 過去10年の単勝人気順別成績を見ると、「2番人気から3番人気」の馬が3着内率25.0%とやや苦戦していますね。
伊吹 より実態に即した区切り方をすると、単勝2番人気から単勝4番人気の馬は2015年以降[5-1-2-22](3着内率26.7%)、単勝5番人気から単勝7番人気の馬は2015年以降[1-7-2-20](3着内率33.3%)、単勝8番人気から単勝11番人気の馬は2015年以降[0-1-4-35](3着内率12.5%)、単勝12番人気以下の馬は2015年以降[0-0-0-51](3着内率0.0%)となっていました。単勝最低人気クラスの馬までマークする必要はないかもしれませんが、上位人気グループの馬が期待を裏切ってしまった例も少なくないので、そのあたりを意識しながら買い目作りに臨むべきでしょう。
M そんな中山金杯でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、バラジです。
伊吹 思い切ったところを挙げてきましたね。今回のメンバー構成だと、人気はあまりなさそう。
M バラジは明け6歳。前走のディセンバーSで3着に健闘しています。もっとも、重賞のレースはこれまでに6回走って最高着順が5着。現時点で積極的に狙おうと考えている方はそれほど多くないのではないでしょうか。
伊吹 いずれも8着どまりだったとはいえ、4走前の目黒記念は勝ち馬と0.4秒差、3走前の新潟記念も勝ち馬と0.5秒差。今回は負担重量も55.0kgとやや軽めですし、面白い存在かもしれませんね。Aiエスケープが中心視していることを踏まえたうえで、私はレースの傾向からこの馬の好走確率を見積もっていきたいと思います。
M 真っ先に注目しておくべきポイントはどのあたりですか?
伊吹 近年の中山金杯は内枠有利。2020年以降の3着以内馬15頭中12頭は、馬番が1番から9番でした。
M はっきりと明暗が分かれていますね。
伊吹 ちなみに、馬番が10番から17番、かつ前走のコースがJRA、かつ前走の上がり3ハロンタイム順位が5位以下だった馬は2020年以降[0-0-0-30](3着内率0.0%)。近走成績の良い差し馬でない限り、外寄りの枠に入った馬は強調できません。
M バラジは前走の上がり3ハロンタイム順位が9位タイ。まずは好枠を引き当てたいところです。
伊吹 あとは臨戦過程も重要なファクターのひとつ。同じく2020年以降は、関西圏のレースをステップに臨む馬の活躍が目立っています。
M 前走が関東圏やローカルのレースだった馬は、疑ってかかるべきなのでしょうか。
伊吹 一応、前走のコースが京都・阪神以外、かつ前走の着順が2着以内だった馬は2020年以降[2-2-0-8](3着内率33.3%)とそれなりに善戦していました。前走好走馬であれば、前走のコースは不問と考えて良さそうです。
M 先程も触れた通り、バラジの前走は中山芝1800m内のディセンバーSで、着順が3着。惜しいところではあるものの、厳密に言うとこの条件はクリアしていません。
伊吹 さらに、同じく2020年以降の3着以内馬15頭中12頭は、キャリア21戦以内でした。
M キャリア22戦以上の馬は過信禁物、と。
伊吹 ちなみに、出走数が22戦以上、かつ“前年以降の、中山の、重賞のレース”において2着以内となった経験がない馬は2020年以降[0-0-1-31](3着内率3.1%)。よほどコース適性の高い馬でない限り、キャリアが豊富過ぎる馬は評価を下げるべきでしょう。
M バラジはキャリア24戦ですし、中山の重賞を使うのも今回が初めて。この条件にも引っ掛かっていますね。
伊吹 正直なところ、私は別の馬を中心視するつもりでした。もっとも、Aiエスケープが有力と見ている人気薄ですから、無理に嫌う必要はまったくないはず。出走してきたら、買い目上の位置付けをもう一度じっくり検討するつもりです。
当コラムの次回更新は1月7日(火)18時予定です。