単勝オッズ5.9倍(2番人気)のエリカエクスプレスが優勝(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
堅めの決着となった年が意外と多いハンデキャップ競走
AIマスターM(以下、M) 先週はフェアリーSが行われ、単勝オッズ5.9倍(2番人気)のエリカエクスプレスが優勝を果たしました。
伊吹 完勝と言って良いでしょう。好スタートを決めて先行争いに加わりましたが、鞍上の戸崎圭太騎手が手綱を抑えながら好位へ導き、結局ティラトーレ(2着)とニシノラヴァンダ(16着)を先に行かせる形で3番手のポジションを確保。前の2頭が1000m通過57秒3のペースで引っ張る中、中盤は4番手以下の各馬を引き離しつつ単独3番手を追走し、ゴール前の直線入り口で早くもティラトーレとニシノラヴァンダに外から並びかけています。残り200m地点のあたりまではティラトーレが抵抗していたものの、これを急坂で難なく突き放し、単独先頭に。最終的にはティラトーレも中団から伸びてきたマイスターヴェルク(4着)、エストゥペンダ(3着)の追撃を凌ぎ切ったのですが、エリカエクスプレスは2着争いを繰り広げた3頭に3馬身以上の差をつけて入線しました。何度見返してもまったく危なげのないレース運びで、単純に今回のメンバー構成では能力が頭ひとつ抜けていたのかもしれません。
M エリカエクスプレスはデビュー戦に続く連勝で重賞初制覇を達成。ちなみに、勝ち時計の1分32秒8は従来の記録を0秒9も上回るレースレコードだそうです。
伊吹 4コーナー通過順はデビュー戦が1番手、今回が3番手で、上がり3ハロンタイム順位はデビュー戦が単独4位、今回も4位タイ。基本的には先行力の高さを活かしたいタイプと見て良いでしょう。現時点では中長距離をこなせそうなイメージがあまりないものの、マイラーとしての資質はかなり高そう。順当に桜花賞へ駒を進めてきたら、やはり相応に高く評価するべきだと思います。
M 余談ながら、昨年のJRA賞最優秀2歳牝馬に選出されたアルマヴェローチェは、2走前の札幌2歳S(2着)、前走の阪神JF(1着)でいずれも出走メンバー中単独トップの上がり3ハロンタイムをマーク。桜花賞で対戦が実現するとしたら、持ち味の異なるこの2頭をどう評価するかが馬券上のポイントになるかもしれませんね。
伊吹 2024年までの桜花賞における種牡馬別成績を見ると、エピファネイア産駒は[2-0-0-3](3着内率40.0%)、ハービンジャー産駒は[0-0-0-7](3着内率0.0%)です。デアリングタクト(2020年)、ステレンボッシュ(2024年)とエピファネイア産駒から2頭の優勝馬が出ている一方、ハービンジャー産駒は単勝4番人気以内の支持を集めたプレサージュリフト(2022年)・ナミュール(2022年)・チェルヴィニア(2024年)がいずれも10着以下に敗退。アルマヴェローチェかエリカエクスプレスかの二択で考えるならば、エリカエクスプレスの方を上位に取るべきではないでしょうか。
M 今週の日曜中京メインレースは、古馬中長距離路線の精鋭が集う年明けの名物ハンデキャップ競走、日経新春杯。昨年は単勝オッズ4.1倍(1番人気)のブローザホーンが優勝を果たしました。なお、その2024年は単勝オッズ5.9倍(4番人気)のサヴォーナが2着に、同じく単勝オッズ5.9倍(3番人気)のサトノグランツが3着に食い込んで、3連単1万3230円の低額配当決着となっています。
伊吹 2021年に3連単96万1790円の高額配当が飛び出しているとはいえ、2016年以降の過去9年に限ると、3連単の配当が4万円を超えたのは、2020年(11万680円)、2021年、2023年(9万6330円)の3回だけ。波乱の多いレースとは言えませんね。
M 過去10年の単勝人気順別成績を見る限りだと、人気薄の馬もまずまず健闘しているように思えるのですが……。
伊吹 より実態に即した区切り方をすると、単勝2番人気から単勝4番人気の馬は2015年以降[4-3-6-17](3着内率43.3%)、単勝5番人気から単勝13番人気の馬は2015年以降[2-5-4-77](3着内率12.5%)、単勝14番人気以下の馬は2015年以降[0-0-0-18](3着内率0.0%)でした。当然ながら伏兵の台頭は警戒しておくべきだと思うのですが、上位人気グループ内の序列をどう見るかも重要なポイントと言えるでしょう。
M そんな日経新春杯でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ホールネスです。
伊吹 興味深いところを挙げてきましたね。断然の単勝1番人気ということはなさそうですが、上位人気グループの一角を占めることになりそう。
M ホールネスは前走のエリザベス女王杯で3着に健闘。明け5歳とはいえキャリア7戦ですし、まだ底を見せていません。4走前に2勝クラスの熊野特別を快勝していて、コース適性の高さは証明済み。中心視しようと考えている方も多いのではないかと思います。
伊吹 狙うにしても嫌うにしても、買い目作りを行ううえで重要なポジションにいる馬ですよね。Aiエスケープが“買い”と見ていることを踏まえたうえで、レースの傾向からこの馬の取捨を判断していきましょう。
M 真っ先に注目しておくべきポイントはどのあたりだと考えていますか?
伊吹 高齢馬は過信禁物と見ておきたいところ。2020年以降の3着以内馬15頭中11頭は、馬齢が5歳以下でした。
M 6歳以上の馬は強調できませんね。
伊吹 ちなみに、馬齢が6歳以上だったにもかかわらず3着以内となった4頭のうち3頭は、前走の着順が4着以内、かつ前走の距離が2000m超だった馬。臨戦過程に何らかの不安がある高齢馬は、思い切って評価を下げるべきだと思います。
M 明け5歳のホールネスにとっては、心強い傾向と言えるのではないでしょうか。
伊吹 あとは馬格と血統も重要なファクターのひとつ。同じく2020年以降に限ると、前走の馬体重が490kg未満、かつ父にディープインパクト系・ロベルト系以外の種牡馬を持つ馬は、すべて4着以下に敗れていました。
M 比較的大柄な馬と、ディープインパクト系種牡馬やロベルト系種牡馬の産駒を重視したいところですね。
伊吹 前走の馬体重が490kg未満だった馬に限ると、ディープインパクト系種牡馬の産駒ですら3着内率は2割未満。「大型馬とロベルト系種牡馬の産駒に注目するべきレース」と断じてしまって良いかもしれません。
M ホールネスの父はLope de Vegaで、ディープインパクト系にもロベルト系にも属していない種牡馬ですが、前走の馬体重が536kgの超大型馬。この傾向からも強調できる一頭ということになります。
伊吹 さらに、同じく2020年以降は、中央場所や中京のレースに実績のある馬が優秀な成績を収めていました。
M 中京を除くローカルのレースばかり使ってきた馬は、扱いに注意した方が良さそうですね。
伊吹 おっしゃる通り。この条件に引っ掛かっている馬は、思い切って評価を下げるべきでしょう。
M 先程も触れた通り、ホールネスは昨春に熊野特別を快勝している馬。中京芝2200mへのコース替わりがマイナスに働くとは思えません。
伊吹 私自身も、この馬には重いシルシを打とうと考えていました。Aiエスケープが有力と見ているのであれば心強い限り。少なくとも、無理に嫌う必要はないと思います。あとは実際のオッズがどうか――といったところ。想定以上に人気を集めてしまうようであれば話は別ですが、余程のことがなければ連軸を任せるつもりです。