レースレコードを「0秒9」更新 ハイレベルな資質見せたエリカエクスプレスの血統背景を深掘り
血統で振り返るフェアリーS
【Pick Up】エリカエクスプレス:1着
父エピファネイアはわが国で走った繁殖牝馬と相性が良く、デアリングタクト、エフフォーリア、サークルオブライフといった初期の活躍馬はこのパターン。そして、サンデーサイレンスのクロスを持つものがほとんどでした。ただ、昨年の日本ダービー馬ダノンデサイル、昨年のホープフルS2着馬ジョバンニ、そしてこのエリカエクスプレスと、ここにきて輸入繁殖牝馬から誕生した活躍馬が目立っています。
母エンタイスドはアイルランド産馬。現役時代は未勝利に終わったものの、アイルランドで長距離重賞を制した姉弟パッションIIとタワーオブロンドン(日本の短距離GI馬とは別馬)の全姉、という良血です。
父エピファネイアは、2歳戦と障害戦を除く芝平均勝ち距離が1883mという中長距離タイプ。したがって、ガリレオ産駒で長距離馬を近親に持つ母エンタイスドとの配合は、常識的に考えてスピード面に懸念を抱かせるものです。
サドラーズウェルズのクロスを持つエピファネイア産駒は、たとえば芝向きの素軽さを持つディープインパクトの血を同時に入れた場合、アリストテレス、オーソクレース、ムジカといった優れた産駒が出ています。これがサドラーズウェルズクロスを持つエピファネイア産駒のスタンダードな成功パターンです。
エリカエクスプレスの今回の勝ちタイムは1分32秒8。従来のレースレコードを0秒9更新しました。この血統でマイル戦のスピードレースに対応できたのは素晴らしく、奥の深いハイレベルな資質を証明したといえるでしょう。2歳女王アルマヴェローチェにも引けを取らないのでは、と感じます。重厚かつスタミナ豊かなヨーロッパ血統を含んでいるので、気性面の問題がなければ距離延長は問題なく、道悪も上手そうです。課題があるとすれば瞬発力を求められる競馬になったときでしょう。
血統で振り返るシンザン記念
【Pick Up】リラエンブレム:1着
2024年に初のチャンピオンサイアーとなったキズナは、2025年も引き続き首位を走っています。現3歳の重賞勝ち馬は、マジックサンズ(札幌2歳S)、ブラウンラチェット(アルテミスS)、エリキング(京都2歳S)、そして今回のリラエンブレムと4頭目です。
母デルフィニアIIは、ブリティッシュチャンピオンズフィリーズ&メアズS(英G1・芝11ハロン133ヤード)とロワイヤリュー賞(仏G1・芝2800m)でいずれも2着となりました。2代母アゲインは愛1000ギニー(G1・芝8ハロン)とモイグレアスタッドS(愛G1・芝7ハロン)を制覇した名牝。
ちなみに、本馬の半弟デルフィニアIIの23(父キタサンブラック)は、2024年のセレクトセール1歳において、国内セリ史上2番目となる5億9000万円(税抜)で落札されました。
母方にダンジグを持つ配合は父キズナの代表的ニックス。ジャスティンミラノ、シックスペンス、バスラットレオン、サンライズジパング、エリキング、パラレルヴィジョン、アリスヴェリテなど多くの活躍馬が出ています。また、母方にガリレオを持つキズナ産駒も好成績を挙げており、連対率、1走あたりの賞金額ともキズナ産駒全体の成績を上回っています。基本的にキズナはヨーロッパ血統主体の繁殖牝馬と相性良好です。
母の父ガリレオは、英愛チャンピオンサイアー12回の歴史的大種牡馬。ただ、わが国でデビューした38頭の産駒のうち、重賞で馬券になった馬は1頭もいませんでした。欧州系の重さが日本の馬場に合わなかった印象です。ただ、母の父としては8頭の重賞勝ち馬が出ています。フェアリーSの勝ち馬エリカエクスプレスもそうです。こうした重厚な血は、完成が遅い反面、大レース向きの底力を伝えます。GI戦線でも期待できそうです。
知っておきたい! 血統表でよく見る名馬
【アファームド】
1978年にアメリカ競馬史上11頭目の三冠馬となりました。通算29戦22勝、G1を14勝し、米年度代表馬に二度選出された歴史的な名馬です。
現役時代にライバルだったアリダーは、種牡馬になるとチャンピオンサイアーとなって大成功を収めました。それに比べると産駒成績は物足りない、という意見もありますが、タイプの違いで評価されづらかった部分はあると思います。主要な産駒はフローレスリー、ゾーマン、ビントパシャ、トラステッドパートナー、ザティンマンなど芝向き。ダート競馬が主流のアメリカでは過小評価されたように感じます。
ストームキャットとの相性が良好で、バーンスタイン、ハーランズホリデー(6年連続北米チャンピオンサイアーの座についたイントゥミスチーフの父)は、この組み合わせから誕生しています。さらに、アファームド、ストームキャット、サンデーサイレンスのトライアングルも実績があり、カラコンティ(BCマイル、仏2000ギニーの勝ち馬。北米G1を3勝したシーフィールズプリティの父)、アユサン、ショウナンマイティ、アルキメデス、ヒシイグアス、チカッパ、ロンドンムーン(ブラジルで14戦11勝、G1を4勝)などがいます。ニックスといえるでしょう。
日本に繁殖牝馬として入ったレガシーオブストレングス(スティンガー、サイレントハピネス、アーバニティの母)、フローラルマジック(ナリタトップロード、ホウシュウサルーン、フローラルグリーンの母、マツリダゴッホの2代母)、プリンセスリーマ(メイショウドトウの母)などは、優れた産駒成績を残しました。
血統に関する疑問にズバリ回答!
「2025年に産駒デビューする新種牡馬の馬産地における評判は?」
今年の注目はなんといっても三冠馬コントレイル。セリにおける高い評価は、乗り込みを開始したあとも変わっていません。手先の軽さがあり、ストライドが大きく速く、仕掛けるとスーッと伸びます。調教が進むにつれて身体が立派になり、見栄えは良好。サイズが大きくなりすぎると重い動きになる懸念はありますが、現時点ではまず問題なさそうです。
ダート戦線で大活躍したクリソベリルは、背は高いものの、幅はさほど無く、硬さもありません。そのため素軽さがあり、芝でも行けそうな感じ。真面目な性格で、気性的に問題なし。
ダノンキングリーは、サイズ的に小ぶりですが、弾むような動き。いかにもディープインパクト系らしい軽さがあります。いわゆるゴムマリ的な感触です。
ポエティックフレアは、馬体、健康面とも問題なく、完成度は高め。メンタルは内向きで難しさがあります。輸入種牡馬ですが、走りがしっかりしていて動けています。日本の馬場にも対応できるでしょう。
インディチャンプは、ステイゴールド系だけに早くからバリバリ、というタイプではありませんが、この系統特有の気性の悪さはいまのところ感じられず、スピードもありそうです。
ダノンスマッシュは、ロードカナロア譲りのスピードが武器で、やはりマイル以下がベストでしょう。サンデーサイレンスが入らない血統だけに、芝だけでなくダートでも走る仔を出しそうです。
ベンバトルは、落ち着いた性格で、成長力が感じられるタイプ。これからどんどん良くなってくるでしょう。