単勝オッズ2.6倍(1番人気)のダノンデサイルが優勝(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
堅く収まりがちなレースと見ておいた方が良さそう
AIマスターM(以下、M) 先週はAJCCが行われ、単勝オッズ2.6倍(1番人気)のダノンデサイルが優勝を果たしました。
伊吹 恐れ入りましたと言うほかないですね。好スタートを決めて先行争いに加わり、行きたい馬を先に行かせる形で7番手前後のポジションを確保。道中も先団のすぐ後ろでレースを進め、3コーナーから徐々に追い始めています。残り200m地点のあたりで一旦はマテンロウレオ(2着)とコスモキュランダ(3着)が抜け出したものの、ゴール前の急坂でグイグイと差を詰め、決勝線の手前で単独先頭に。結局、この2頭に3/4馬身の差をつけて入線しました。マテンロウレオの横山典弘騎手、コスモキュランダの横山武史騎手が絶妙な手綱捌きで勝利を掴みかけた分、それを捻じ伏せたダノンデサイルの強さや、隙のないレース運びで逆転劇を演出した戸崎圭太騎手の好騎乗がより際立った印象。着差以上の完勝と言って良いのではないでしょうか。
M ダノンデサイルは昨年の日本ダービー以来となる自身3度目の重賞制覇。前走の有馬記念でも勝ったレガレイラと0.2秒差の3着に健闘していましたが、その実力を改めて見せつけた形です。
伊吹 正直に白状しておくと、私は今回のダノンデサイルに重いシルシを打つことができませんでした。近年のAJCCは大型馬や前走で先行していた馬が苦戦していましたし、大目標だったであろう有馬記念から約1か月しかたっていない点や、4歳になってから伸び悩んだ例が少なくないエピファネイア産駒である点も、懸念して然るべき材料だったはず。見立て違いとなった理由はもう少し時間をかけて検証していくつもりですが、私の挙げた不安要素が問題にならないくらい、今回のメンバー構成においては総合能力が頭ひとつ抜けていた可能性もあります。
M そうなると、今後も目が離せませんね。
伊吹 次走は様子を見ながら検討するようですが、当然ながら、どこを使ってくるとしてもかなりの注目を集めることになるでしょう。2歳時のレースを除くと、今のところ馬券に絡むことができなかったのは3走前の菊花賞(6着)のみ。陣営からさまざまな課題を指摘されている一方、まだ底を見せていないのも事実ですから、今回の反省を踏まえつつ引き続き動向を注視していきたいです。
M 今週の日曜東京メインレースは、フェブラリーSの前哨戦と位置付けられているダート重賞、根岸ステークス。昨年は単勝オッズ2.5倍(1番人気)のエンペラーワケアが優勝を果たしました。ちなみに、その2024年は単勝オッズ14.1倍(6番人気)のアームズレインが2着に、単勝オッズ3.9倍(2番人気)のサンライズフレイムが3着に食い込み、3連単の配当は9390円どまり。波乱が起きづらい一戦と見ておくべきでしょうか?
伊吹 過去10年の根岸Sにおける3連単の配当は、平均値が2万9153円、中央値が2万7300円。5万円を超えたのは2020年(6万9270円)だけで、2023年には2610円という記録的な低額配当決着も発生しています。
M 過去10年の単勝人気順別成績を見ても、7番人気以下の馬はほとんど上位に食い込めていません。
伊吹 より実態に即した区切り方をすると、単勝2番人気以内の馬は2015年以降[7-4-4-5](3着内率75.0%)、単勝3番人気から単勝6番人気の馬は2015年以降[3-5-3-29](3着内率27.5%)、単勝7番人気から単勝10番人気の馬は2015年以降[0-1-2-37](3着内率7.5%)、単勝11番人気以下の馬は2015年以降[0-0-1-56](3着内率1.8%)となっていました。「人気薄の馬が馬券に絡む可能性は低い」という前提で買い目作りに臨むべきでしょう。
M そんな根岸SでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ドンフランキーです。
伊吹 興味深いところを挙げてきましたね。実績上位ではあるものの、それなりに妙味あるオッズがつく可能性もありそう。
M ドンフランキーはこれまでにダートグレード競走を3勝している馬。3走前のドバイゴールデンシャヒーンでも2着に健闘しています。もっとも、前走のBCスプリントでは9着に敗れてしまいましたし、今回は帰国初戦、かつ休養明けでもありますから、積極的に狙おうと考えている方は意外と少ないかもしれません。
伊吹 最近は1200mのレースを主戦場としてきましたが、中京ダ1400mが舞台だった2023年のプロキオンSを勝っている馬なので、コース替わりを心配する必要はなさそう。人気次第では楽しみな一頭ですよね。Aiエスケープが中心視していることを踏まえたうえで、私はレースの傾向からこの馬の好走確率を見積もっていきたいと思います。
M 真っ先にチェックするべきポイントはどのあたりでしょうか?
伊吹 もともと前走好走馬の活躍が目立っていたレース。近年は特に顕著で、2022年以降の3着以内馬9頭は、いずれも前走の着順が1着、もしくは前走の1位入線馬とのタイム差が0.1秒以内でした。
M 優勝争いに絡んだ直後の馬でないと、上位に食い込むのは難しいようですね。
伊吹 おっしゃる通り。今年もこの条件をクリアしている馬はさほど多くありませんし、大胆に絞り込んで良いのではないかと思います。
M 先程も触れた通り、ドンフランキーは前走のBCスプリントで9着に敗退。慣れない環境が影響した可能性もあるとはいえ、大敗直後である点は考慮するべきでしょう。
伊吹 あとは前走の距離も明暗を分けそうなファクターのひとつ。同じく2022年以降の3着以内馬9頭中8頭は、前走の距離が1200m超1600m以下でした。
M 1400mや1600mのレースをステップに臨む馬が優勢、と。
伊吹 前走の距離が1200m超1600m以下でなかったにもかかわらず3着以内となったのは、2024年2着のアームズレインのみ。この条件に引っ掛かっている馬は、過信禁物と見ておいた方が良さそうです。
M ドンフランキーの前走、BCスプリントは1200m戦。残念ながら、この傾向からも強調しづらい一頭ということになります。
伊吹 さらに、同じく2022年以降の3着以内馬9頭は、いずれも出走数が21戦以内でした。
M なるほど。キャリアが豊富過ぎる馬は高く評価できませんね。
伊吹 今年もタガノビューティーらがこの条件に引っ掛かっていますから、該当馬を信頼し過ぎてしまわないよう注意しましょう。
M ドンフランキーはキャリア18戦。6歳にしては出走数が少ない馬です。
伊吹 臨戦過程に少々不安があるものの、その前走が世界的な大一番だったわけですから、度外視するのも無理筋ではないはず。私自身は他の馬を連軸に据える予定ですが、ドンフランキーも無印にはしないつもりでした。少なくともAiエスケープは狙い目と見ているわけですし、想定の段階で私がイメージしていたよりも人気はなさそうな雰囲気。十分にチャンスがありそうなこの馬まで手を広げられるよう、慎重に買い目を組み立てたいと思います。