
▲東京新聞杯に出走予定のウォーターリヒトを管理する河内洋調教師(撮影:大恵陽子)
京都金杯でクビ差2着だったウォーターリヒト。あと数十メートルあれば差し切ったのでは、と思うほど豪快な末脚を見せました。管理するのは定年まで約1カ月に迫った河内洋調教師。母も祖母も手掛けてきました。
次走の東京新聞杯当日は半妹ウォーターガーベラもきさらぎ賞に出走予定。この2頭には、騎手デビューの頃まで遡る縁もありました。それぞれの思い出や展望を伺いました。
(取材・構成:大恵陽子)
「重賞級の走りだな」素質感じた3勝クラス
──前走・京都金杯は外枠不利と言われる中、大外枠から豪快に差して2着でした。
河内 前走は重賞だったからどうかな? と思ったけど、ああいう競馬ができたら今後が楽しみですね。
──あと20mか50mくらいあれば届いていたのでは、と思うほどの脚でした。
河内 ね! 枠が外で、競馬は難しかったと思うけど、いい競馬でした。

▲上がり最速の末脚を繰り出し2着になった京都金杯(撮影:大恵陽子)
──ウォーターリヒトを初めて見たのはいつですか?
河内 生まれて少ししてから、生産牧場の伏木田牧場に見に行きました。栗毛のいい馬で、楽しみやなと思いました。
──代表の伏木田修氏も1歳春に「お尻が大きくなってきました。同じドレフォン産駒のジオグリフに横から見た姿が似ています」とおっしゃっていました。デビューは芝2000mで5着。
河内 デビューの頃はまだそんなに目立つ動きも見せていなくて、1600mでは短いかなと思って2000mでデビューさせました。何戦かは体に緩さがありましたけど、使っていくとだんだん身が入ってきて、3戦目くらいからだいぶしっかりしてきました。NHKマイルCの時はだいぶ使い詰めでしたけど8着にきたので、「これは秋に楽しみだな」と思いました。そこから夏休みを経て、秋になってさらにグンと良くなりました。馬体重は大きく変わっていないですけど、成長したんでしょうね。

▲「お尻が大きい」と伏木田修氏が褒めたウォーターリヒト。1歳夏に伏木田牧場にて。(撮影:大恵陽子)
──成長を裏付けるように、休養明け初戦の3勝クラスで差し切り勝ちを決めました。
河内 スローな流れでじっくりと脚を溜めて、上がり3ハロン32秒8の脚。これだけの末脚はなかなか出せないから、重賞級の走りだなと思いました。
──オープン初戦も勝って、京都金杯も僅差の2着ですから、まさにおっしゃる通りですね。母ウォーターピオニーも、祖母マチカネハヤテも河内厩舎でした。
河内 おばあちゃんのマチカネハヤテはサクラバクシンオー産駒だったから、芝1200mが主戦場のスピードタイプの馬でした。
──重賞の北九州記念でも先行できるくらい序盤からスピードのある馬だったんですね。追い込みタイプの孫とは両極端です。
河内 おばあちゃんは前向きすぎて、調教でもガーッと行くタイプでしたけど、リヒトは自在に調教できます。それも成長につながったのかな、と思います。1代挟んで、東京のマイルが一番合っているのかなとも思います。
「若い騎手も増えて、最後のチャンスだと思っていた」アグネスフライトのダービー
──3代にわたり手掛けるのも、調教師歴20年だからこそ。寂しいもので、3月4日をもって定年引退なんですね。
河内 寂しいと言えば寂しいところもありますが、それを言っても仕方ないですしね。騎手として約30年、調教師で20年。父が大阪府の長居競馬場(廃止)で調教師をしていて、地方競馬は家族経営のような厩舎が多く、私もそんな風にして厩舎で育ちました。横にずっと馬がいた人生なので、そういう意味では寂しいです。

▲「横にずっと馬がいた人生なので、そういう意味では寂しいです」(撮影:大恵陽子)
──騎手デビューは武田作十郎厩舎からでした。
河内 まさかと思っていたら、武田先生から誘っていただきました。面倒見のいい先生で、色んな厩舎にも声を掛けてくださって、騎乗依頼もくるようになりました。
──武田調教師とのご縁はウォーターリヒトにも繋がっていて、山岡正人オーナーの先代である故・良一オーナーが「武作会」という集まりを開いていたそうですね。武田厩舎には武邦彦・武豊騎手親子も所属していました。2000年の日本ダービーでは武豊騎手騎乗のエアシャカールとの追い比べを制し、アグネスフライトと勝利を手にしました。「河内の夢か、豊の意地か」との実況が語り継がれる一戦です。
河内 45歳で、若い騎手もどんどん増えていく中で、最後のチャンスだと思っていました。ダービーを勝ってもやることは変わりなかったですけど、ジョッキーは大きく注目されるので、気を引き締めないといけないなという気がしました。
──さて、話を今週のレースに戻します。1週前追い切りでは半妹ウォーターガーベラと坂路で併せ馬を行いました。きょうだい揃ってシンザン記念で人気薄ながら追い込んで3着。
河内 脚質的には似ているかな、というところはあります。ガーベラは掲示板外に敗れた2回は1400mの距離がちょっと短くて、もう少し距離が延びてもいいかなと感じています。

▲当歳夏のウォーターガーベラ。人に興味津々で、放牧地に入ってきた人の後ろをずっとついて回ったり、持ち物を鼻でつついたりしていた。(撮影:大恵陽子)
──日曜日は兄リヒトが東京新聞杯、妹ガーベラがきさらぎ賞。きょうだいで同日重賞制覇に期待がかかります。
河内 リヒトは調教の動きが良かったです。今回は菅原明良騎手で、NHKマイルCで1回乗っていますし、その後の競馬も見ているでしょう。
(文中敬称略)