ホープフルSとの違いとは

弥生賞を制したファウストラーゼン(撮影:下野雄規)
奇襲にも近いロングスパートで、12月の「ホープフルS」を目下クラシック候補No.1クロワデュノールの0秒5差3着に粘った伏兵ファウストラーゼン(父モズアスコット)が、また、ほぼ同じような果敢なスパートをかけて快勝した。
今回は(重馬場にも近い)稍重の芝コンディション。前走の自身の2分01秒0(上がり36秒0)より時計を要して2分01秒3(上がり37秒2)だが、馬場差を考慮すると前回よりはるかに優れた中身だった。
ホープフルS2000mのレース全体の前後半バランスは「61秒4-59秒1」=2分00秒5。今回の弥生賞2000mは「60秒9-60秒4」=2分01秒3。稍重で明らかにホープフルSより全体時計を要する馬場なのにバランスを失っていない。前半の主導権を握ったのは人気のC.ルメール騎手のヴィンセンシオ(父リアルスティール)。ライバルも納得のペース配分だった。
置かれて進んだ前走のファウストラーゼンの前半1000m通過はスローなので推定63秒4前後だった。そこから一気にスパートしたが、今回は同じような一気のスパートに見えて前半900m通過あたりからもうスパート開始。1000m通過地点では先頭のヴィンセンシオから5馬身前後の位置にまで進出している。前走のファウストラーゼンの前半1000m通過が目測で63秒4とするなら、今回の前半1000m通過は「61秒9前後」だったろう。同じような奇策に見えて、今回は前回より1秒5近くも速い中間地点の通過だった。
だが、そこからも11秒台のレースラップを2ハロン連続させている(自身は確実に3ハロン連続)。一旦は先頭だったヴィンセンシオを3馬身近く離した。
でもこれはヴィンセンシオがついて行けなかったのではなく、C.ルメール騎手のきわめて的確なペース判断。脚を使うところではない。こんなところで強引にスパートしたファウストラーゼンを追撃しては、後続の格好の目標になって自分が末脚を失ないかねない。ヴィンセンシオ(C.ルメール騎手)は4角まで待って追撃に出た。直線に向いて残り300mあたりでは、ヴィンセンシオが(見る角度にもよるが)、先頭に並んで一度はかわしたようにも見えた。
でも、途中から厳しい流れだったので「12秒7」に落ち込んだ最後のしのぎあいの1ハロン。差し返すように勝ったのは杉原誠人騎手のファウストラーゼンだった。少しもフロックではない。自分たちで独特のレースを作り上げた実力勝ちとしていい。
ただこの戦法が、もっと全体のペースが速くなり、確実に走破時計の短縮が求められる本番の「皐月賞」で再現できるかとなると、おそらくそうはいかないだろう。重馬場の巧拙はともかく、スタミナの勝負になって欲しい。スケールで上回る馬体ではない。シャープではあっても迫力タイプではない。レース運びも、血統背景はまったく異なるが、なんとなく若かった当時のステイゴールドを連想させるムードがあった。
モズアスコット産駒だが、祖父Frankel、3代父Galileoに通じるところがあり、日本で知られる牝系の代表馬には、重賞を4勝したエアエミネム(父デインヒル、その父Danzig)がいる。ファウストラーゼンのDanzigクロスは知られるが、歴史的名馬Frankelの母の父がデインヒルになる。デインヒルのしぶとさがあった。
2番人気だったったヴィンセンシオは、迫力あふれる516キロの馬体が光った。ただ、体型もあるだろうが今回は心持ち余裕残りの体つきに映った。これで変わるはずだ。
3着アロヒアリイ(父ドゥラメンテ)は、まだここが3戦目のためか、流れに乗れなかった。ミュージアムマイル(父リオンディーズ)と並んで3コーナー過ぎから勢い良く上がってきたが、外に振られ気味で、自身もコーナーがスムーズではなかった。坂上からヴィンセンシオをクビ差まで追い詰めたところがゴール。少し脚を余した印象が残ったが、優先出走権を得たのは実に大きい。さらに上昇して本番に出走できる。
デキの良さが目立って途中から1番人気に浮上したのがミュージアムマイル。道中は余裕を持って追走し、一気に動いたファウストラーゼンをやり過ごしたあたりまでは良かったが、初コースのためだろう。スムーズにスパートできなかった。最後に鈍ったあたりが気になるが、これは距離ではなく、初コースと馬場の回復が進まなかったことが響いたのではないか。決して完敗という内容ではなかった。
皐月賞に挑戦するスケジュールはさまざまに別れてきたが、弥生賞が終わった時点では、12月の「ホープフルS」組の評価がかなり高まった印象が濃い。