毎日どこかで開催がある英国から競馬が“消える”日?── 異例のブランクデーのワケとは
競馬発祥の地で一体何が?
今日・9月10日(水曜日)、競馬発祥の地・英国では、ひと開催も競馬が組まれていない。1年を通じて、毎日どこかで必ず開催が行われているのが英国で、唯一の例外が、クリスマスをはさんだ3日間(12月23日・24日・25日)というのは、このコラムでも過去何度か取り上げたことがあったと思う。
その英国で、秋競馬真っ盛りのこの時季、平日とはいえ開催がないとは、いったいどういうことなのか。
実は、年間の開催スケジュールでは、この日は英国北西部のカーライル競馬場と中部のアトックスター競馬場で芝の午後開催、南部のリングフィールド競馬場でオールウェザーの午後開催、ロンドン近郊のケンプトンパーク競馬場でオールウェザーの夜開催が予定をされていた。だが、カーライル競馬場の開催は9日(火曜日)の夜に、アトックスター競馬場の開催は11日(木曜日)の夜に、リングフィールド競馬場の開催は8日(月曜日)の午後に、ケンプトンパーク競馬場の開催は15日(月曜日)夜に、それぞれ移設されることになった。
10日(水曜日)が競馬のない「ブランクデー」になったのはなぜか?
馬主、調教師、騎手ら、主要な競馬関係者がウェストミンスターに集結し、政府に対して抗議活動を行うためであった。言ってみれば、競馬関係者が競馬統括団体のブリティッシュ・ホースレーシング・オーソリティ(BHA)の号令の下で一致団結し、ストライキを起こしたのである。
抗議の対象となったのは、英国政府だ。現行では、ブックメーカー各社が競馬のみならず、あらゆるスポーツを対象に売り出している賭け事の売り上げに対する税率は、一律15%と定められている。政府はこれを、今年11月から、21%に増税することを計画しているのだ。21%というのは現状、オンラインカジノやスロットの売り上げに課している税率で、これと横並びにしようというのが、英国大蔵省が出してきた提案であった。BHAは、この増税が実施されれば、競馬界は年間で最低でも6600万ポンドの収入減少になると試算。大蔵省の一部では、この税率をさらに段階的に高めていくことも検討されており、最終的には40%という税率を視野に入れているとの情報もある。
この増税が、競馬産業界に与える影響は大きい。直接的な打撃をうけるのはブックメーカー各社で、11月に21%への増税が実施されれば、彼らの経営が圧迫され、各地の競馬場で彼らがスポンサードしているレースの数は減少せざるをえなくなる。ブックメーカー業界の雇用情勢も厳しくなり、向こう1年で2500人から3000人の従業員が職を失うことになるという試算も出ている。
ブックメーカー各社が提示するオッズはシビアになり、馬券売り上げが下がるという、負のスパイラルが発生しかねない。最悪なのは、ファンの馬券が、より魅力的なオッズを提示するブラックマーケットに流れていくことだ。
これが、競馬産業界全体に影響を及ぼすことになれば、事はさらに深刻である。
BHAのチーフ・エグゼクティブを務めるブラント・ダンシア氏は、「スト決行というのは、決して簡単に出した結論ではありません」と語る。
「しかし、競馬がオンラインカジノと同列に論じられることには、断固反対しなければなりません。競馬というスポーツは、文化であり、大きな雇用を支える、国にとっての重要な産業なのです。オンラインカジノと同じではないのです」
障害のトップトレーナーであるニッキー・ヘンダーソン師も、ストに賛同する一人だ。「私は、ストライキという手法を常に支持しているわけではありません。しかし今回は、競馬産業界としてのメッセージを広く社会に発信する必要があり、これを効果的に行う手段は限られているのです」
週末にセントレジャー開催を控え、芝平地シーズンのクライマックスへ向けてヒートアップしていこうというこの時期に、競馬のない空白の1日が生じることで、どのようなリアクションが起こるか。注意深く見守りたいと思う。