■前回まで
新冠の武田牧場で生まれたハイセイコーは大井の伊藤正美厩舎に入厩した。初陣は3歳時の1972年7月12日、大井ダート1000mの未出走戦。辻野豊を背に2着馬を8馬身突き放し、驚異的なレコードタイムで圧勝した。(馬齢は旧馬齢)
ハイセイコーの初陣のゴールはどよめきに包まれていた。あまりの強さに、観客は声を上げるのも忘れていたのだ。勝ちタイムはレコードの59秒4。
それまで大井ダート1000mのレコードを保持していたのは南関東で史上初の三冠馬となったヒカルタカイであった。同馬は古馬になると中央に移籍し、天皇賞(春)で2着馬に2秒8という八大競走史上最大の着差をつけて優勝。さらに次戦の宝塚記念をレコードで制した名馬である。
ヒカルタカイが大井のダート1000mでレコードを記録したのは、ハイセイコーのデビュー戦から遡ること6年、1966年7月16日のことだった。タイムは1分0秒2。1分の壁はまず破られないと言われていたのだが、ハイセイコーは、まったく追われることなくコンマ8秒も更新してしまったのだ。
前評判どおりの「怪物」だった。
ハイセイコーのデビュー戦に騎乗した辻野豊は、自分が上手く乗ったとも、下手に乗ったとも思っていなかった。ただ