■前回まで
新冠の武田牧場で生まれ、大井の伊藤正美厩舎に入厩したハイセイコーは、3歳時の1972年、デビューからすべて圧勝の6連勝を遂げる。翌1973年、馬主がホースマンクラブに替わり、中央入りすることになった。(馬齢は旧馬齢)
1973(昭和48)年1月16日、火曜日。府中の上空は晴れ渡り、澄んだ空気が頬に冷たかった。
東京競馬場の鈴木勝太郎厩舎の前に1台の馬運車が到着した。
明け4歳になったハイセイコーが、大井競馬場からやって来たのだ。
厩舎の前には、調教師の鈴木勝太郎と、息子で調教助手の康弘、娘婿で騎手の増沢末夫、厩務員の大場博らが立っていた。
──ハイセイコーというのはどんな馬なのだろう。
鈴木康弘は、父から「大井で6戦全勝した馬を預かるつもりだ」と聞かされるまで、ハイセイコーの存在を知らずにいた。父が前もって大井に実馬を見に行ったほどだから、相当期待していることは間違いない。
今日は大安であり、また、父・勝太郎の60回目の誕生日でもある。
──親父は今日を「特別な日」として記憶に残したいのかな。
無口で厳格な父は、勝負の世界で長く生きているだけに、