06年の欧州競馬は、牝馬の年と言われた。欧州では04年から各国足並みを揃えて、牝馬限定のG1を増やすなど番組面での牝馬優遇策を推進してきたが、これが奏功したか長く現役に留まる一流牝馬が増加し、メジャーなレースで牝馬が牡馬に互して戦う光景が今年は特に目に付いたのである。
そんな中、アレグザンドローヴァ(英愛オークスなどG1・3勝)、マンデシャ(ヴェルメイユ賞、オペラ賞などG1・3勝)など、来季も現役に留まる一流牝馬もいる一方で、今季限りで引退する牝馬も勿論おり、そんな馬たちの来季の配合プランが続々と発表されている。
今季もG1・3勝で自身2度目のカルティエ賞欧州年度代表馬に輝いたウィジャボードの来季のお相手は、北米供用のキングマンボだ。父ケイプクロス、母の父ウェイルシュペイジェントというウィジャボードの配合は、欧米のトップサイヤーならグリーンデザート系以外のほとんどの種牡馬が交配可能で、例えば欧州の至宝サドラーズウェルズでもその直仔たちでも問題は無かったのだが、ノーザンダンサーにミスタープロスペクターという近代クラシック血脈の王道を行くことになった。あるいは、昨年のJCでアルカセットが見せた強烈なパフォーマンスの印象が、陣営の頭の片隅にでも残っていたのかもしれない。
現役を通じてG1・5勝、英国における真夏のマイル王決定戦サセックスSで3年連続連対を果たしたソヴィエトソングの、来春の初供用の相手はモンジューだそうだ。昨年、稼働世代わずか2世代で欧州リーディング第2位となった、モンスターサイヤーである。ソヴィエトソング自身、父マージュで母の父がソヴィエトスターというマイラー色の濃い配合で、従ってクラシックディスタンスをこなせる種牡馬をという意図は至極当然なのだが、ソヴィエトソング自身がノーザンダンサーの4×4のインブリードを持っているのにも関わらず、ノーザンダンサーの孫を配合するというのはやや意外な選択とも言えようか。
3歳時の香港C優勝を含め、こちらも現役を通じてG1・5勝を挙げたアレグザンダーゴールドランの初年度の交配相手に決まったのは、ガリレオである。言うまでもなく、初年度産駒が3歳となった06年に大ブレークし、07年の種付け料が15万ユーロと、価格未発表のサドラーズウェルズを除けばクールモアでも最高値となった、今が旬の若手種牡馬である。父ゴールドアウェイに母の父ダルシャーンという配合は、既にしてノーザンダンサーの4×4を持っているのだが、ダルシャーンの血を活かすためには、これとニックスにあると言われるノーザンダンサー系を配合するというのはロジカルな選択で、ならばガリレオというのは頷ける配合だ。もっとも個人的には、シンダーを一度付けて貰いたいと思っているのだが。
有終の美を自ら飾った香港Cが今季3度目のG1制覇だったプライドの、来春の交配相手は、ドイツ供用のモンズンと決まった。モンズンと言えば、サムーム、シロッコ、アンナモンダ、フロリオットなど、ドイツ生まれの一流馬を続々と輩出。ダンスインザムードの初年度の交配相手にも検討されたという、これもある意味では今が旬の種牡馬である。同じ牝系から今季の英1000ギニー勝ち馬スペシオーサが出たため、その父デインヒルダンサーあたりに行くのが無難な選択なのだが、敢えてモンズンに行ったあたりに、重厚にして底力のある欧州らしい血脈を守ろうとする姿勢が見えて好感が持てる。
いずれにしても、一流牝馬の交配相手は、そのまま現代における種牡馬勢力分布の縮図を見るようで、実に興味深いのである。