3連単973万9870円というGI史上最高配当となった今年のNHKマイルC。波乱を演出したのは17番人気の牝馬ピンクカメオであった。
一部で報道されたように、ピンクカメオを管理する国枝栄調教師は、他の管理馬を出走させていた新潟競馬場にいたということで、“無欲の勝利”と揶揄されたりもしていた。
「勝てると思っていたんですか?」とストレートに質問を投げかけると「もちろん、勝つ意志があったから出走させたんだよ」と悪戯っぽく笑ってみせた国枝師。
「でも、新潟にいたんですよね」と、こちらも悪戯っぽく質問を投げ返した。
すると「出走馬がいたからだよ。助手たちは朝仕事をしてから行くんだから新潟では可愛そうじゃない。そういう事情があっただけで、勝つ意志はあったんだよ」と苦笑いを浮かべる。
しかし、前走の桜花賞では14着という大敗を喫していたピンクカメオ。しかも、NHKマイルCは牡馬との混合戦であったわけで、17番目という人気にもうなずけるもの。
この言葉に国枝師も「たしかに牡馬相手ということで簡単じゃないとは思ったけれどな。ただ…」と言葉を続けた。
「終わってから言うのは何か嫌な感じがするからあまり言いたくはないけれども、レースの週の追い切りは本当に良かったんだよ。調教助手が跨ったんだけれども、それまで出したことがない時計で動いたんだ。まあ、勝負に関してはやってみなければわからないけれど、コンデションだけは自信があったというのが本音だよ」。
しかしながら、そのコンデションの良さというのはメディア報道からは伝わって来なかったし、レースの後の勝因としても取り扱われるのをほとんど目にすることはなかった。雨、荒れた馬場、ハイペースの展開、そして鞍上等、様々な勝因がレース後に囁かれていたが、指揮官は「最大の勝因は何と言っても金子オーナーだよ」と笑顔を浮かべたのだ。
「当初は、スイートピーSからオークスへというローテーションを予定していたんだよ。そうしたら、金子オーナーが『NHKマイルCへ行きましょう』と言うんで、状態は良かったし、それならばと変更したんだ。たしかに、馬の力や状態以外にも様々な要因があったんだろうけれどさ、あのひと言がすべてで、やはり金子オーナーだよ」。
指揮官は続ける。「それこそ新庄(剛志)じゃないけれど、やっぱり何か持っているよ、金子さんは。間違いなく持っているね。ディープインパクトをはじめ、これだけ結果が出ているんだから」と笑顔を浮かべた。
これまで、ブラックホークにはじまり、クロフネ、キングカメハメハ、カネヒキリ、そして七冠馬ディープインパクトと、数々の名馬を所有してきた金子真人オーナー。勝率でも13%台という驚異の数字を残している。たしかにスゴい。国枝師は「いや体験記じゃないんだけれどさ。実はピンカメのNHKマイルだけじゃないんだよ」とさらに話を続けた。
「ブラックホークの安田記念も、金子オーナーのひと言で勝ったんだから。最初は秋に備えてスキップするつもりだったんだけれど、『行ってみましょうよ』と言われたし、『極端な競馬をしてみませんか』と提案されたんだ。正直、その時点では、馬の状態に問題がないのならば、オーナーの想いに応えるとつもりだったけれど、いまではその方が勝てるんだから。俺だけじゃなくて他の先生方もそう思っているはずだよ」。
毎年リーディング上位にランクインする指揮官は「いや本当に」と笑うのであった。
Part2は8/22に公開します。

国枝栄(くにえだ さかえ) 美浦所属
昭和53年から調教助手(美浦・山崎彰義厩舎)として活躍し、平成元年から美浦トレーニングセンターの調教師となる。GI勝ちは、ブラックホークで99年スプリンターズS、01年安田記念、ピンクカメオで07年NHKマイルC。04年から06年まで3年連続して優秀調教師賞を受賞している美浦の名伯楽。