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国枝栄調教師 Part3 ますます広がる東西の出走頭数

  • 2007年08月29日(水) 13時00分
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 前回、話題となった坂路の違いも大きな要因となっているといわれる“西高東低”。以前はよく取り沙汰されたが、19年間も続くと“風化”ではないが、当たり前となりつつある。

 そのことについて国枝栄調教師は、「いや、本当に冗談じゃないよ」と訴えるとともに「根本的なことも問題」と格差を生んでいる要因について指摘する。

 「そもそもは、関東でいえば中山は中山、東京は東京というようなスタンスで競馬が行われていたんだよ。それが、東と西というスタイルになり、競馬場単位ではなく、いまのトレセンに集められた。先に栗東、そして美浦ができたんだ。ただ、その時代は馬が少なかったし、栗東から近い中京を除いた、福島、新潟、小倉の3場は滞在競馬だったんだよ。つまりは、同じ馬房数で、開催中に滞在している馬たちで競馬をしたし、取り巻く環境に“差”がなかった。それが、売り上げが伸びて登録頭数が増えて、道路事情が良くなったことで輸送競馬が主流となった。いわゆる“地理的格差”が生まれてしまったということなんだ」

 頭数が増え、輸送競馬が当たり前となった環境の変化が、“栗東”と“美浦”という両トレセンの立地条件から、格差となって表れているということなのだ。国枝調教師がその現状について、具体的に説明を加える。

国枝栄調教師

 「例えば、いま行われている夏競馬で、栗東の馬は新潟に6時間、小倉に7時間半程度で行けちゃうんだよ。ところが、美浦からだとね、新潟へは6時間くらいで行けるんだけど、小倉だと19時間もかかっちゃうんだ。以前は、北海道組以外の栗東の馬たちは、小倉に滞在していたんだけど、いまは栗東にいたままで、小倉でも新潟でも好きな方を選べちゃう。でも、美浦は新潟へ輸送競馬で行けるけど、小倉は相変わらずの滞在競馬のまま。現実的には小倉へ輸送競馬というのは無理」

 国枝調教師の言葉から、8月4(土)、5日(日)、第2回新潟7、8日目と第2回小倉の7、8日目を調べてみると、驚きよりも愕然とさせられるデータが浮かび上がる。

 まずは、8月4日の新潟。栗東からの出走馬は12頭、勝ち星が2つ。翌5日は倍の22頭出走して、何と5勝を挙げているのだ。1日12レースの約半分ということになる。

 それに対して、小倉での関東馬の出走を調べてみると、4日が8頭出走して勝ち星どころか、掲示板に乗った馬さえゼロ。翌5日は7頭出走して、掲示板にこそ2レースで2頭乗ったが、勝ち星はなし。

 「確かに、馬房の関係もあるからこのくらいで収まっているけど、出走頭数だけみても単純に倍以上だよ、倍。夏競馬の間だけじゃないか、というかもしれないけれど、新潟の2か月間だって単純計算で192レースあるんだよ。つまりだ、小倉も192レースあるのだから、小倉分のほぼ192全てのレースは関西馬が取る。更に、新潟でも関西馬は勝っているわけだから、たとえそれが30勝としても、2か月間で222勝するわけ。一方の関東は162勝となるわけだから、間違いなく大きな差だよ」

 地理的な条件の違いをいまさら変えることはできない、ということについては国枝調教師も「仕方がない」と肯く。しかしながら、そこから生まれた“格差”は予想以上に大きく、同師は「早急なる対策を」とJRAに求めるのだ。

Part4は9/5に公開します。

国枝栄(くにえだ さかえ) 美浦所属
 昭和53年から調教助手(美浦・山崎彰義厩舎)として活躍し、平成元年から美浦トレーニングセンターの調教師となる。GI勝ちは、ブラックホークで99年スプリンターズS、01年安田記念、ピンクカメオで07年NHKマイルC。04年から06年まで3年連続して優秀調教師賞を受賞している美浦の名伯楽。

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