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国枝栄調教師 Part4 地理的な要因による東西格差

  • 2007年09月05日(水) 14時00分
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 それは何も未勝利、500万円下といった下級条件ばかりに影響を及ぼしているわけではない。今年も行なわれたサマーシリーズについても、国枝栄調教師はこう指摘している。

 「シリーズ各5戦のうち、北九州記念と小倉記念の2レースが小倉で行なわれるわけだから、やはり19時間かけて、しかもこの夏の暑い時期に輸送して行くというのは、極めてリスキー」

国枝栄調教師

 つまりは、スプリントと2000のそれぞれ5戦、計10レースのうち、関東馬にとってはふたつはないようなもの、というのが現実なのだ。これに対して、国枝師は「現実的な話をすれば…」と実際にJRAに提案した方法を口にする。

 それは「空輸」という選択肢。

 「JRAはもちろん『できません』と言っていたよ(苦笑)。でも、車で19時間掛かる小倉に対して、香港は飛行機で9時間で到着しちゃうんだ。移動時間だけならば、香港の方が近いということになってしまう。単純比較だろと言われるかもしれないけれど、車と飛行機の違いはあれ、時間にして10時間も遠いのが小倉というのが現実なんだ」

 輸送手段こそ違えど、香港の方が小倉よりも時間的には近いというのにはやはり驚かされる。ただ、イギリスとフランスでは、レースの朝に追い切りを掛けてそのまま空輸して出走するというケースもあっただけに、例え国内であっても陸路だけに移動手段を求める時代ではなくなっているのも現実なのかもしれない。

 厳然と存在するばかりか、年々広がる“地理的な格差”に対して、主催者であるJRAからはいまだ有効な対策を打ち出されていないのだ。そのような状況に対して国枝師は“南関東”を例にあげ、出馬投票の方法の改善を訴える。

 「南関東は、例えば大井開催のときにはまず地元所属馬から優先的に出走が認められて、それで空いているところにそれ以外の競馬場所属馬の出走が認められていくシステムとなっているだろ。たしかに、この夏の開催においては、いまでも馬房制限という制度はあるにはある。でも、それでこの現状なんだから。ハンデの条件など様々な理由はあれ、関西馬が出走しているにも関わらず、関東馬が出走できずに溢れ返ってしまっている。極論を言えば、関西は小倉、関東は新潟というくらいでも良いと思ってしまうくらいの状況なんだよ」

 また、除外になりそうならば関西馬は小倉へ行くことができるが、関東馬はただ翌週を待つばかり、と“地理的な格差”による弊害が生まれてしまっている現実。関東馬は新潟へ、関西馬は小倉へというスタイルが無理ならば、せめてそれぞれに優先出走権が与えられなければ“公正”とは言えないのではないか。

 しかし、実は“地理的な格差”よりもさらに根本的な“格差”が東西の間には存在するのだ。

Part5は9/12に公開します。

国枝栄(くにえだ さかえ) 美浦所属
 昭和53年から調教助手(美浦・山崎彰義厩舎)として活躍し、平成元年から美浦トレーニングセンターの調教師となる。GI勝ちは、ブラックホークで99年スプリンターズS、01年安田記念、ピンクカメオで07年NHKマイルC。04年から06年まで3年連続して優秀調教師賞を受賞している美浦の名伯楽。

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