新設されたポリトラックコースの効果を適切に理解したうえで、坂路調教が主体というスタイルを変えないのには、脚元への負担の軽減以外にもうひとつ“インターバル”というトレーニングスタイルで馬を鍛える目的があるという。
過去にも、ミホノブルボンをはじめとする名馬の調教にも採り入れられた“インターバル・トレーニング”だが、大久保洋吉厩舎所属馬のほとんどは坂路を3本駆け上がるというメニューが調教で行なわれている。
「馬によっては、負荷が足りないというケースもありますし、もちろん常に他に何か良い方法もあるのではないかということは考えていますよ。皆が同じです(笑)。ただ、まずは出走を目指すなかで、脚元へのリスクの軽減を図り、そのうえで十分な負荷を求める。そう考えると、やはり坂路ということになるんですよね」
2004年に、それまで計測区間が600mであった坂路が、800mに延長された。当時、その効果について各方面で話題となったのだが、大久保厩舎では以前と同じく、“3本”というメニューは変わっていない。
「それは、どう対応しようか考えましたよ。もともとは“短い”ということで3本だったものですから。時計が計測される区間が200m延びて、実質は400m延長されたわけですが、その延長された部分は、“坂”ではなく“平地”なんです。1F20-20のキャンターを延ばしたとしても、負荷に大きな変化はないはずだと思ったものですから、いままで通り“3本”というメニューで行なうことにしたんです」
延長された当時、同じように坂路を主体に調教を行なう調教師たちからも、やはり“負荷の増減”を模索する声を多く聞いた。大久保厩舎と同じように、それまでと変えないという厩舎もあれば、減らすという厩舎もあり、当時は調教の変化が話題になっていたのだが、その後はあまり聞かなくなった。
あれから4年。大久保洋吉調教師は「ウチとしては“短い”ときの方が良かったですかね」と苦笑いを浮かべる。
「以前と比べて、インターバルの時間が長くなったんですよ。いまは10分以上かかるのですが、5分から7、8分くらいの間隔で行なっていきたい。汗のかき具合などを見ても、少し足らない感じで、冬場などは特にそうなので、10分は少し長いということですね」
ただ、前回触れたように、コースを走るだけの調教ばかりでなく、乗り運動などを含めた調教全体の時間が長いのが特徴なのだ。指揮官が「運動量がひとつの基本です」と言うように、全体を考えたなかで“負荷”を求めながら、メニューを決めているということのようだ。
「昔は、朝の攻め馬をして、午後また運動するというスタイルが多く見られたんですよね。まあ、それぞれ馬にもよりますし、状態にもよります。山登りと同じように、それぞれ人によってアプローチの仕方も違いますから。ただ、レースに向けた調教において、やはり脚元への負担をより軽減しながら、十分な負荷を求めているということは同じでしょう」
“インターバル・トレーニング”の効果について、「自らの体験というのではなく感覚的になのですが」という指揮官だが、そこには豊富な経験とたしかな戦略があるのだ。
続く
大久保洋吉 (おおくぼ ようきち) 美浦所属
1944年生まれ、東京都出身。早稲田大学を卒業した後、実父である大久保末吉厩舎の調教助手を経て1976年に調教師免許を取得、開業。79年、メジロファントムで東京新聞杯(GIII)を制し、初重賞制覇、96年にはメジロドーベルで挑んだ当時の阪神3歳牝馬Sを制し初GIを挙げた。昨年はユメノシルシで新潟記念(GIII)を制している。所属騎手は吉田豊、高橋智大。