スマートフォン版へ

斎藤誠調教師 Part8 “長所優先主義”の極意

  • 2008年04月02日(水) 14時50分
  • 0
 斎藤誠調教師は、開業1年目に管理したサンツェペリンで初重賞制覇、そして2年目の世代にあたるゴスホークケンでGI制覇を成し遂げ、調教師としてまさに順風満帆な船出と言われ、各方面から注目を集めている。


斎藤誠調教師

 しかし、本人はその言葉に「運が良かったんですよ」と笑い、聞かれた目標に「頂点を目指してはいないですね」と語る。

 「ファンの方々に対してももちろんなんですが、より直接的なお客さまである馬主さんあっての我々だと思うんです。その馬主さんたちからは財産である愛馬をお預かりさせていただいているわけで、馬主さんの期待に応えられるように、より納得していただけるように、そしてより楽しんでいただけるようにと思うんです。さらに、それで利益が上がれば最高ということになるのですが抽象的な言い方ですし、一般社会と同じで、お客さまである馬主さんとの間に信頼関係がなければ僕らの仕事はできないということなんです」

 調教師は馬に対して“職人”という資質を求められる一方で、厩舎の長として経営者としての資質も求められるということなのだが、斎藤師は“お客さまのニーズ”にひとつひとつ丁寧に応え、信頼関係を築いていくことを目指しているということなのだ。だからなのだろう、預託された馬たちに対しては、“長所優先主義”という教育方針を口にする。

 「すべての馬は、どこかひとつ長所を持っていると思います。そして、悪いところを改善、あるいは矯正するのではなく、その良いところを伸ばしていく方が、全能力を引き出せることができるのではないかと思うんです」

 厩舎システムの変更がそうさせるのか、あるいは他に要因があるのかもしれないが、より馬にとって厳しい時代といわれるいま、現場では長所よりも短所に目が向けられがちな“流れ”とは一線を画す師の方針。

 そのうえで斎藤師は、「すべての馬に対して、出走させるときには勝つつもりです」と言い切るのだ。

 「もちろん、競走相手がいるわけですし、人間で言えば速く走ることができない、走ることが苦手な馬もいます。ならば、ひとつでも上の着順を目指して頑張るわけですよ。一回、一回、例えどんな内容であっても、競馬を走れば間違いなく馬は疲れるし、消耗します。明日命を落としてしまうかもしれない、たったの一走で終わってしまうかもしれない、そういう可能性だってありますからね。つまり“次はない”、そういうところで馬たちは頑張っているんです。だからこそ、フィジカルはもちろん、メンタル面でもできる限りのケアをするわけです。毎日“普通にできることをやる”ということが大切だと思いますね。ただ、そのような“平凡”が一番難しかったりするんですけど」

 今回話を聞いていて、とにかく“しっかりと地に足が着いている”という印象を受けた。

 自らの境遇を「運が良い」と言う指揮官。だが、“チャンスの女神に後ろ髪はない”という言葉を聞いたことがあるが、日々しっかりと精進しているからこそ、新人調教師は女神を抱きしめることができたのだ。

斎藤誠 (さいとう まこと) 美浦所属 1971年生まれ、千葉県出身。平成5年7月に美浦・前田禎厩舎にて調教厩務員となり、平成18年から調教師へと転身。開業3年にしてサンツェッペリン(重賞1勝)、ゴスホークケン(GI1勝)などを管理する若手調教師。

※来週(4月9日)、再来週(4月16日)は都合により休載いたします。次回の更新は4月23日です。お楽しみに!

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング