デビュー前には管理する加藤征弘調教師に「一番心配な馬」と感じさせていたシャドウゲイトだったが、3戦目で未勝利を勝ち上がってみせた。しかも、そのレースでみせた“走り”に、指揮官はダービートライアルであるプリンシパルSへ向かうことを決めたという。
「中山の1800mを1分50秒1というタイムで逃げ切って勝ったのですが、12.6-12.4-12.8-12.5-12.7-12.6-11.6-11.3-11.6という刻んだラップタイムに、東京の2000mが舞台のプリンシパルSならば、ダービーへの“権利”が取れる計算が成り立つんですよ。それで、オーナーに“ダービーを目指しましょう”と進言させてもらったのです。また、手綱を取った次郎(小野騎手)が、この馬にとっての理想的なラップタイムを刻んでくれましたからね」
プリンシパルSで12.9-11.7-12.1-12.5-13.0-12.4-12.2-11.4-11.2-11.8というラップを刻んだシャドウゲイトは、エイシンニーザンにハナ差で敗れてしまったものの、きっちりと2着を確保。未勝利を勝ったばかりの1勝馬ということで、11番人気という低評価に甘んじることになったのだろうが、加藤師自身「一瞬、勝ったと思ったんだけど」と振り返るように、狙い通り“ダービーへの切符”を手に入れることに成功した。
しかし、加藤師は「未勝利戦を勝った時点で、そのあと1000万下とか、重賞とかを勝てると思ったかと言えば、まったくそんなことは感じていませんでした。トライアルで権利を取ってダービーに出走できるということだけでしたね」と苦笑いを浮かべる。
ダービーに出走するものの、ディープインパクトの16着に敗れたシャドウゲイトは、約4か月の休養を挟んで札幌で復帰を果たすと、初戦の500万下特別(グリーンチャンネンルC)で、古馬を相手にハナ差の接戦をものにした。
しかし、次走の菊花賞15着以降は1000万下に5度出走したが、1度だけ2着に好走しただけで、指揮官の言葉通りの結果となっていた。
4歳となった春、4月の飯坂温泉特別で6着に敗れると、シャドウゲイトは再び休養に入った。7月の500万下で復帰戦を勝利すると、続く1000万下では3着に好走。スランプが嘘のような活躍を見せた。
そこから4か月という時間が過ぎ、12月の香取特別を勝つと、5歳となった初戦、中山金杯を制することとなるのだが、成績が安定を見せ始めた4歳の夏の時点では“走る”という感触があったのだろうか。こちらの質問に、加藤師は「この馬に走るという感触を持ったことはないんだよね」と笑うのだが、ある時期に“確かな変化”は感じていたようだ。
「金杯に向かう前あたりだったと記憶しているのですが、真剣に走るようになってガラッと雰囲気が変わってきたのです。実際、金杯の前走となった香取特別を勝った時のレースぶりも、こちらが思い描いていたよりも強かったですからね」
刻んだラップタイムからシャドウゲイトを“ダービートライアル”に向かわせた指揮官であったが、まだ準オープンの身であった同馬を初重賞に挑ませたのは“強さ”を感じさせたレースぶりからであった。
続く

加藤征弘(かとう ゆきひろ) 美浦所属 1965年9月14日生まれ、東京都出身。厩務員、調教助手として活躍した後、平成14年から美浦所属の調教師として開業。2004年にはピットファイター(武蔵野S)で重賞初勝利。昨年5月にはシャドウゲイトがシンガポール航空国際を勝利し、初のG1制覇を達成した。2003年から5年連続して優秀調教師賞(関東)を受賞している新進気鋭の若手調教師。
※当コラムは加藤征弘調教師編をもって終了いたします。