調教師に転身する蛯名正義騎手(51)の現役引退まであと1カ月を切った。国内外で活躍した名手が、現在の心境を語った。
巨人ファンの野球少年だった小学生時代、テレビで見たグリーングラスの菊花賞(1976年)に衝撃を受けてジョッキーを志した蛯名騎手。その濃密な騎手人生は34年でピリオドが打たれる。
「デビューした頃は、辞めるときのことなんて想像もしないからね。本当にいい思いも、悔しい思いもたくさんさせてもらった。自分ができることはやったと思うし、幸せな騎手人生だった」
名手が調教師への転向を考えたのは3年前だ。
「周りでいろんなことが重なった。小島太調教師(マンハッタンカフェなどを管理。18年定年)が引退したり、二ノ宮敬宇調教師(エルコンドルパサー、ナカヤマフェスタなどを管理。18年勇退)が辞めてしまったり…。そんな中で考えるようになっていったけど、騎手として駄目になったから、では嫌だった。やらせてもらえるならエネルギーがあるうちにやりたかった。やる以上は負けたくないしね」
騎手としてまだやれるという思いでの決断。しかしこの3年間は、“騎手・蛯名”としては不本意だったという。
「調教師になることと騎手の仕事を、うまく両立させられなかった。ファンの人にも、そこは申し訳なかったと思う」
3度目の受験で調教師試験に合格し、存分に馬と向き合えるいま、残された時間は少ないが、ラストスパートとばかり“一鞍入魂”の騎乗を続ける。7日の中京4R(3歳1勝クラス、ダ1800メートル)で騎乗予定のレディマーシーは手応えを感じる原石だ。
「前走(1着)の内容が良かったし、血統もいい。先々はいいところまでいける馬だし、そういう競馬を見せたいね」
2月も東京や中山のみならず、各地の競馬場を回る。21日にはJRA全10場重賞制覇がかかる小倉の小倉大賞典で、デンコウアンジュに騎乗する予定だ。そこにはこんな思いもある。
「最後はいろんな競馬場にあいさつしたいというかね。馬上から見るこの景色もこれで最後か、とかみしめたりしてね。無観客で来られなくなったけど、全部の競馬場に観に行くといってくれたファンもいた」
ゴールまで決して諦めない魂の騎乗が見られるのも、あと1カ月。希代の勝負師の姿を、最後までしっかりと見届けたい。 (内海裕介)
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