海外からショッキングなニュースが飛び込んできた。豪州の生産牧場が、胚移植によって生産した馬をサラブレッドとして登録したという疑惑。いわゆる「代理母出産」だ。
競馬に関する“国際条約”である「パリ協約」はサラブレッドの繁殖について第12条2の1で自然交配を義務づけ、同3の1で「妊娠は受精卵が生じた牝馬で継続されなければならない。人工授精、胚移植、クローン、その他いかなる遺伝子操作による馬も登録を許さない」と定めている。
代理母出産によって企てられ得る“悪事”は主に2通り。1つは血統的に価値の低い繁殖牝馬に、良血の胚を移植。産駒が成功したのを待って、値上がりした代理母を売り抜ける。もう1つは、高齢の良血繁殖牝馬による胚を、若い繁殖牝馬に移植。産駒を遺伝的に本来の母が分娩(ぶんべん)したかのように偽装して登録する。
前者は産駒の遺伝子を調べれば摘発できる。そもそもの疑いが浮上するハードルはあるものの、白黒ははっきりしやすい。一方で後者は厄介だ。遺伝子だけに注目すれば父母ともにサラブレッドであれば問題ないかにも見える。それでも後者のケースで“代理母”が禁止されるのは、繁殖牝馬の子宮の能力が高齢化とともに減衰していくことに対する“チート(不正)行為”だからだ。
繁殖牝馬が空胎なしで毎年出産しつづけた場合、産駒の成績は、傾向としては、交配時年齢で6歳、出産回数で3回目にピークがあり、以降、緩やかに減衰していく。これは子宮が弾力性を失ったり、胎仔との栄養交換の効率が悪くなって“使い減り”するためと考えられている。母の高齢が原因で、産駒の能力や繁殖効率が低くなることを不当に防ぐのはフェアでない。
遺伝学的な証拠はほぼ残らないため、取り締まりは難しい。豪州の件も、内部告発によって疑惑が浮上した。現状では、分娩に立ち会った獣医師などが、分娩した母と血統登録の違いに気付き、告発するといった現場の倫理に頼らざるを得ない。早急に検出技術の開発が求められる。
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