昨日付の紙面でも紹介されていたが、我が厩舎2人目の弟子、古川奈穂がいよいよ土曜日にデビューする。
彼女と初めて会ったのは4年以上前、暮れの中山競馬場だった。人の話を熱心に聞き、相手の目をしっかり見て自己紹介する姿は今でも鮮烈な印象として残っている。
騎手候補を弟子として迎え入れるのは、近年多くの調教師が敬遠している。育てるためには馬主さんに頭を下げ続けなければならないし、騎手選択の幅も狭まる。成績だけを考えれば、厩舎としてプラスになることはほとんどない。自分が弟子を受け入れるのは、育ててもらった競馬社会への恩返しという思いからだけだ。
それでも奈穂は、この子なら育ててみたいと思わせるだけのものを持っていた。医師の家庭に生まれ育ち、中高一貫の進学校に進みながらも中退して騎手を目指したという経歴にもひかれた。厩舎社会に知り合いもなく、騎手になりたいという強い意思を感じた。競馬界の今後のために女性騎手を育てるべきという考えも後押しして彼女を矢作厩舎に所属させることを決めた。
競馬学校以前の乗馬経験がほとんどなかったので、厩舎研修当初は酷いものだった。これで本当に騎手になれるのか? と思ったほどだ。しかし研修ラストの2カ月で何かをつかんだのか急激に技術が向上した。模擬レースでも東京芝2000メートルと中山ダート1200メートルで逃げ切り、スタートの巧さをいかした積極的な騎乗が光った。前に行ける馬ならば女性の負担重量4キロ減はかなり有利な材料である。
今後はさらに人間力と技術を向上させて、周囲への感謝の気持ちを忘れずに一流の社会人、信頼される騎手に育って欲しいと願っている。奈穂、お前ならできる!
■矢作 芳人(やはぎ・よしと) 1961(昭和36)年3月20日、東京生まれの59歳。父は大井競馬の矢作和人元調教師。開成高を卒業後、豪州での修業を経て84年に栗東トレセンへ。厩務員、調教助手を経て2005年に厩舎開業。2日現在、JRA通算687勝、JRA重賞47勝(うちJRA・GI13勝)。ほかに海外GI2勝、交流GI3勝。
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