ばんえい競馬能検で鈴木恵介騎手が馬の頭部をけったとして批判を浴びている。同騎手は戒告処分。騎乗自粛中だ。
ことはそう単純ではない。砂地に突っ込んだ馬の頭部を一刻も早く起こすための行動だった。鈴木騎手はソリを下りるまでに長手綱を散々引いている。砂地に鼻が突っ込むと馬は非常に危険だ。口呼吸はできず砂が肺に入るのを放置するのはむしろ虐待である。
動物への悪意なき行動が別の人には虐待に映るという現象は、深く複雑な問題をはらむ。家畜や、実験動物、漁で得る魚なども含め、人はさまざまな動物を「使って」生きている。彼らへの関わりのありようが虐待かどうかの線引きは時に難しい。
ばん馬がけられるのはファンには不快な光景だろう。だから不適切という見方も理解できる。
一方で、例えば豪州の一部州は魚の生け作りを禁止している。捕鯨に対する価値観の文化間衝突も激しい。ルールは文化や時代で容易に変わる。境界領域では直情論にひきずられ本質を失う。だから産業動物らを巡る動物愛護を、愛玩動物と同じ視点で論じるのは厳に慎むべきだ。行き過ぎた直情論は携わる職業人への差別の問題にも直結する。
この意味において、騒動を一報したメディアが鈴木騎手のコメントを「イライラしてけった」としたのは問題の持つ意味を大きくミスリードした。同騎手はこの種の発言を断じてしていない。
30日、鈴木騎手を電話で直撃した。騒動後、ほかに取材は一切受けていなかった。「ファンに不快な思いをさせた。本当に申し訳ない」。謝罪の言葉を重ねた同騎手も、言った覚えのない「イライラ~」というコメントには困惑していた。
ばんえい振興課によればJ社からの電話取材は21日午後3時半。記者が「イライラしてけったのか」と問うたのに対し「馬を起き上がらせようとして対処したもの」と答えたが、記者が発言したものを、あたかも鈴木騎手が話したかのように原稿化されたという。
同課ではJ社に抗議したが、受け入れられなかったという。鈴木騎手、ばんえい振興課の認識と、J社記事の隔たりについてJ社は7日、本紙の取材に文書で「ばんえい振興課への取材内容に基づき記事にしております。『イライラして蹴った』という記載につきましても、同課の担当者とのやり取りをもとに記事中に掲載しました。取材時点では、そのようなやり取りだったと認識しております」と回答した。
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