「山村さん、3冠馬
ミスターシービーのターニングポイントは、
ひいらぎ賞でしたっけ? それとも
黒松賞だったかな?」
先週、
きさらぎ賞を予定する
グローリーヴェイズの取材を試みると、管理する
尾関知人調教師から思わぬ逆取材が飛んできた。かつて松山康久元調教師の連載に携わった当方、3冠達成のくだりは克明に覚えている。
「
黒松賞も出遅れていますが、“伝説”になったのは、
ひいらぎ賞ですよ」
即答すると「そうでしたね。実は、こうやまき賞のレース後、吉永(正人)騎手の当時の言葉が瞬間的にパッと頭に浮かんだんです」。指揮官はニヤリと笑った――。
話が唐突すぎて読者に伝わりづらいので、整理して説明しよう。
まず
ミスターシービーに初めて土がついた、
ひいらぎ賞から。出遅れによる敗戦ショックを引きずるトレーナーに対し、鞍上は逆に目を輝かせて語ったという。
「道中で脚をタメた際の末脚は並ではない。2着に負けた
ひいらぎ賞で、むしろこの馬の力量が分かった気がする」
後の同馬は追い込み一本やり。「無難なスタートでも、あえて最後方に下げ、3角マクリの
スタイルを貫いた」(松山師)末に3冠の偉業を成し遂げた。
ひいらぎ賞の出遅れがなければ歴史は変わったかもしれない――。これが、ひとつの“シービー伝説”である。
一方、
グローリーヴェイズのこうやまき賞。こちらも押し出されてハナに立った初陣とは一変したレース運び。スタートで出遅れ、スローペースを最後方から運ばざるを得ない展開。猛然と追い込みながらも2着に敗れてしまうが、記録した上がり33秒4は最速。一転して“切れ者”イメージを定着させたのが前走だったというわけだ。
「シービーほど極端じゃなくていいけど、トモが甘く、行き脚がつかない現状を思えば、位置を求めず、しまいを生かす競馬が合うと思うんです。前走は一瞬、坂で脚が鈍り、上り切ってからグイグイ伸びた。平坦の京都を選択したのは、それがあるし、ミルコ(デムーロ)が乗るのも魅力。あの出遅れが大きな契機にならないかな」(尾関師)
武豊が大逃げを打った
サイレンススズカの
バレンタインS、
河内洋が正攻法に打って出た
メジロブライトのステイヤーズSなど、名馬には、しばしば後のターニングポイントになる一戦がひそんでいる。指揮官がシービーの例えを出すのも、むろん期待の表れだろう。現状ベストと思える京都外回りで、ミルコとのタッグは、どんな“化学反応”をもたらすのか。注目したい。
(美浦の宴会野郎・山村隆司)
東京スポーツ