◇コラム「ぱかぱか日和」
福永祐一騎手はすでに五大クラシックを制した日本を代表するトップジョッキーだが、コントレイルで2度目のダービーを制して以降、その騎乗ぶりには目を見張るばかりだ。もともとスタートは上手、そして馬に優しい当たり(競馬関係者は彼の騎乗を「拳が柔らかい」とたたえる)、それでいて周りがよく見えている。何よりも展開を読む能力が素晴らしく、まさに熟成された騎乗なのだ。
この日もモズスーパーフレアほか、ビアンフェ、メイケイエール、レシステンシアなど先行馬がそろったメンバーの中、好スタートを切って2列目の内につける。外からビアンフェにかぶせられる厳しいポジションで4コーナーを回るが、直線に入れば必ず空くと分かっているようにまったく慌てなかった。そしてその狙い通りに前が空いた。楽に走らせているからゴーサインを出してからよく伸びる。ダービーのシャフリヤールもそうだった。サンデーサイレンス産駒に多数乗るようになった武豊騎手が、前半後方でタメて、切れ味勝負でG1を勝ちまくった。一方、福永騎手はもう少し前めのポジションから、一瞬の隙を狙う。今回のピクシーナイトのレースはまさしく最近の福永祐一の勝ちパターンだ。
福永騎手にとって今回特に感慨深いのは、ピクシーナイトの母の父がキングヘイローであることだろう。キングヘイローは福永騎手が1998年に初めてダービーに乗り、2番人気と人気を背負った思い出深い馬。14着の結果は福永騎手にとっては苦い経験でもあるが、あのレースがあるから今があるといってもいい。
キングヘイローは2000年の高松宮記念(柴田善臣騎手が騎乗したが)でG1初勝利を飾ると、引退後に種牡馬入りした。ノーザンファームの中でもキングヘイロー産駒の繁殖牝馬は決してトップブランドには入らないだろう。だが、今年は他にもディープボンド、アサマノイタズラ、メイショウムラクモと母父キングヘイローが大ブレイク。その血はさまざまなカテゴリーで発揮されている。あのダービーから23年の歳月を経て、福永騎手同様、評価はトップクラスまで上がっているのだ。(作家)
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